第4話〜¨侍¨
ミキズの街、とあるアパートにて
「追っ手は普通の人間だったみたいね。ちょっと走り回ったらすぐに巻けちゃったし」
¨怪人¨の言葉に¨ドクター¨は首を傾げる。
どうも腑に落ちないようだ。
「君のことを尾行していたということは、少なくとも僕達がどういったモノなのかすでに知っていたはずだ。それなのにただの人間で尾行させる意味が分からないな。」
「あくまで顔写真だけで、私達の素性までは知らないんじゃない?本部からはだいぶ離れてるし、ここの連中は詳しく知らされてないとか」
それでも¨ドクター¨は納得できないようだ。
少し考え込むと、ひとつの提案をした。
「とにかく一度ここを離れよう。もしかしたら尾行は囮で、他に君を監視していた者がいたかもしれない。尾行をあえて気取らせて行動パターンを見ていたのかもしれないしね。仮に君の言った通りでも、尾行されていたのが本当なら厄介なことになるかもしれない。」
¨ドクター¨の言葉に¨怪人¨は不満そうだ。
より深く腰掛けると未練多そうに爪をいじっている。
「ここには息抜きに来たのよ?めったにないこんな機会をみすみす逃すなんて…。」
「万が一があるかもしれないからね、しょうがないよ。バカンスはまたの機会にしよう。」
「まだ行ってないとこたくさんあるのよ?それにまだ…」
¨怪人¨の言葉を遮って、銃弾が¨怪人¨の頭部を貫通した。
それを見た¨ドクター¨はすぐさま窓辺から飛び退いた。
「なっ…!?狙撃か!!」
¨怪人¨の体が床に倒れるのと同時に、アパートのドアを蹴破って数人の武装した男が乱入してきた。
手にはそれぞれ銃が握られている。
「全員動くな!武器を捨てて両手を頭の後ろで組め!」
しかし次の瞬間、男たちの背後に今まで座っていたはずの¨侍¨が現れた。
そして刀が収められる音だけが響いた次の瞬間、男たちの頭部は全て胴体から離れ宙を舞っていた。
「お見事、¨侍¨。寝てたんじゃなかったのかい?」
「……。」
¨侍¨は無言で¨怪人¨の死体と窓を見比べと部屋の中央に立った。
すぐさま(キン)(キン)¨侍¨に向かって銃弾が向かってくる。
それを目にも止まらぬ速さで両断する¨侍¨。
傍目にはただ仁王立ちしているようにしか見えない。
「よし発見!2kmほど先のマンションの最上階。その左から2番目の窓。」
目に小型の装置を当てながら¨ドクター¨は告げる。
そしてその時には¨侍¨の姿はない。
「とりあえずB地点で落ち合おう!僕は先にそこに向かってるよ!」
かまわず¨ドクター¨はそう叫ぶと、新たにドアから入ってくる男たちに体を向けた。
「手荒なマネはしないでね?見たとおり、僕はひ弱なんだ。お手柔らかに頼むよ。」
そう言って微笑む¨ドクター¨に男たちは油断なく銃を構えている。
「それじゃ、少しだけ遊ぼうか。ちょうど試したい薬があるんだ。」
そう言うや躊躇いなく、どこにしまっていたのか注射器を取り出すと男たちに向かって一歩踏み出す。
「撃て!」
部隊長の命令で男たちはすぐさま引き金を引こうとする。
だが次の瞬間、男たちの体中に小型の注射器が何本も突き刺さっていた。
「う~ん。効くまでに少しあるなぁ。それにやっぱり銃で撃たれるのは痛いし、どっちみち治すのは自分でだし」
倒れた男たちに目もくれず、¨ドクター¨は銃で撃たれた痕に触れていく。
すると触れたところから銃弾が押し出され、まるで早送りのように塞がっていく。
「とりあえずB地点に行くか。そろそろあっちも片付いただろうし」
マンションの方を一瞥すると、¨ドクター¨はドアから出て行った。
この間狙撃から3分の出来事である。
ミキズの街、とあるマンションにて