第23話〜マグヌソンの過去
第一研究所、隠し部屋にて
第一研究所の最深部に存在する隠し部屋。
数多に存在する隠し部屋の中でもその部屋には多くの秘密が眠っていた。
数十年前に起こった某国の大統領暗殺事件の真相、十数年前に流行った伝染病の真実、数年前に行われた集団殺戮の真意。
見る者によっては全財産をなげうってでも知りたい歴史の闇がそこには所狭しと転がっている。
それらの一つでも世に出回ることがあれば、間違いなく世界規模で大きな問題になるだろう。
だからこそ世界で最も安全で危険な場所で、静かに眠っているのだ。
数十年の時をあけ、人々の関心が薄れるまで。
そんな宝とも爆弾とも判断できない資料の中心で、マグヌソンは横になっていた。
どうやら眠っているらしい彼の手には、一枚の古い写真が握られている。
白黒の写真には今と変わらない姿のマグヌソンと、ひとりの美しい女性が写っていた。
写真の裏側には日付とメッセージが書き込まれているが、その日付は今から50年ほど前をさしている。
「……ん?」
マグヌソンは目を覚ますとぼんやりと視線をさまよわせた。
そして手元の写真を見るとそれに口づけをする。
「…おはよう、マリア。もうすぐ君を生き返らせてあげるからね」
そう呟くとマグヌソンは立ち上がり、棚に置いてあるアルバムを手に取った。
そこには手元の写真同様にマグヌソンとマリアの写真が収められている。
マグヌソンは大事そうに写真をアルバムに戻すと近くの椅子に腰掛けた。
「もう50年か…。だいぶ時間がかかったが、どうにかここまでこれたな」
いつものふざけた様子は微塵もなく、その様子は長年を苦行と共に歩んできた老獪さが滲み出ている。
マグヌソンは先ほどまで見ていた昔の夢を思い出していた。
60年前、マグヌソン五歳
マグヌソンは生まれながらに天才だった。
言葉を話すころには文字を理解し、すでに一般的な大人の知能を上回っていた。
親に何かを教わる前に全てを知っていた。
一度見たり聞いたことは決して忘れなかった。
大人が分からない問題を解くことができた。
五歳になり、保育所に預けられるころには周りの大人は彼を恐れていた。
何をしなくても勝手に学習し、全てを見透かしたように話す子供に、両親は誉めることも自慢することもなく恐怖した。
優秀過ぎるが故に迫害される。
彼がそれを理解したのは五歳の誕生日を迎える少し前だった。
普通そのことを理解するのに五歳というのは早過ぎるが、彼の場合遅過ぎた。
彼は保育所を転々とし、最終的にとある機関に拾われた。
そこで彼は毎日を実験をして過ごし、一年もしない内に特例でいくつもの資格と特許を取得した。
そんなある日のことである。
¨マリア¨と出会ったのは。
特に何があったわけでもなく、気がつくと彼は彼女と親しくなっていた。
当時15歳の天才。
彼女は彼ほどでないにせよ、周りから迫害されていた。
さらに事故で家族を亡くし、天涯孤独だった。
そんな二人が惹かれ合うのは当然の結果だった。
彼らは日を追うごとに親密になっていき、瞬く間に十年の月日が流れていた。
彼は15歳になり、彼女は25歳になった。
その頃からだった、彼女の様子がおかしくなっていったのは。
彼女は月日を重ねるごとに美しく成長していく彼の関心が、十歳も年上の自分から離れていってしまうことを恐れていたのだ。
彼女自身は誰もが認める美しい女性だった。
まさしく聖母のように慈愛に満ちたその見た目に、数多くの男性が言い寄ってきた。
しかし彼女は誰一人として相手にしなかった。
彼女にはマグヌソンしか見えていなかったからだ。
そして彼もマリアのことを愛していた。
だが些細なすれ違いがマリアのことを追い詰めていた。
50年前、マグヌソン15歳




