第18話〜決着
第十二支部内、中央エリア通路にて
その戦いはとっくに人間の限界を超えていた。
残像すら残らぬ攻防は、傍目には音と破壊のみを映している。
¨騎士¨のレイピアから繰り出される、音速に届かんとする神速の突きを¨侍¨は二振りの刀でいなしていく。
¨侍¨の背後の壁には、無駄のない綺麗な穴が無数にあけられていく。
「どうした、¨侍¨!動きが止まって見えるぞ!そんな防御でこの突きが防げるとでも思っているのか!!」
¨騎士¨の両手に握られたレイピアは、音もなく突き出される。
あまりの鋭さに、壁にはひびすらなく穴があく。
一方¨侍¨は両手の日本刀で防ぐばかりで反撃に出ない。
激しい攻撃により、スーツがボロボロになる。
「本気を出せ、¨侍¨!お前の腕はこんなものではないはずだ!もっと僕を楽しませてみろ!」
そう言うやさらに動きを加速していく。
もう壁には隙間すら見当たらない。
そしてついに¨騎士¨のレイピアが¨侍¨の仮面に当たる。
弾け飛んでいく仮面。
¨侍¨の素顔が露わになる。
「……。」
そこには顔面のほとんどを占める醜い傷痕があった。
漆黒の眼にはただただ暗い光が宿っている。
仮面が外れると同時にレイピアの猛攻も中断し、¨騎士¨は¨侍¨の顔の傷痕に注目している。
「…噂で、お前が研究所から逃げる前日に実験が失敗したとは聞いていたが、まさかそんなになっているとはな。仮面をつけていたのはそれを隠すためか」
「……。」
¨侍¨は無言で仮面を拾い上げる。
しかし般若の仮面はレイピアによる損傷で使い物にはならなくなっていた。
¨侍¨はそれを懐に入れると¨騎士¨と向かい合った。
「……やはり、強いな」
¨侍¨が沈黙を破り、とうとう声を発した。
「やっと喋ったか。昔は長々と喋ってばかりだったのにな」
「……。」
「さて、そろそろお互い本気を出そうか。どちらが上かはっきりさせよう」
「…そんなことに興味は、ない。俺が興味を持っているのは、マグヌソンであり、お前じゃない」
¨侍¨のその言葉に¨騎士¨は激昂する。
レイピアを構えると切っ先を¨侍¨に向ける。
「興味ないだと!?僕はお前より優れていることを証明するために今まで生きてきたんだぞ!!それをお前は…!!」
「…俺の眼中に、お前の姿はない。…去れ、無意味な争いは、時間の無駄だ」
「……!!」
¨騎士¨はあまりの怒りで声も出ないようだ。
¨侍¨は刀を収めると、背を向けて立ち去ろうとする。
途端¨騎士¨はレイピアを構え直すと¨侍¨に向かって飛び出した。
「閏夜っ!!!」
バギンッ!!
瞬間、¨騎士¨のレイピアは粉々に砕け散り、¨侍¨の切っ先が首筋に添えられる。
唖然とする¨騎士¨に¨侍¨は、
「…鈍ったな。…昔は、もっと、真っ直ぐだった」
その言葉に、¨騎士¨は全てを諦めたような、絶望した顔をすると、膝をついて¨侍¨を見上げた。
「…殺せ、殺してくれ。もう、生きる意味はない…。」
「……。」
¨侍¨は無言で刃を離し、刀を収めると、¨騎士¨に背を向けて歩き出す。
「待てっ!何故だ?僕には殺す価値すらないというのか!?」
「……。」
¨侍¨は足を止め、懐から小刀を出すと¨騎士¨に放った。
それを受け取ると¨騎士¨は何かを悟ったようだ。
「……。介錯をお願いできるかい?」
「……ああ。」
¨侍¨は頷くと刀を抜き、¨騎士¨の背後に立つ。
「…僕は君より強くなりたかった」
「……。」
「泣き虫だった君を守れるくらい、強く」
「……。」
「…もう、僕は必要ないな」
「……。」
「すまなかった、ありがとう」
「……。」
¨侍¨は無言で刀を振り下ろした。
その目に悲しみが宿っていた。
第十二支部、支部長室にて




