第17話〜¨騎士¨
第十二支部内、中央エリアにて
修羅のごとく進撃を続ける¨侍¨だったが、目の前に一人の青年が立ちふさがったことで、ついにその足が止まった。
静かに¨侍¨を睥睨する青年の髪は彼同様に白髪で、前髪が目元を隠しており、腰には二振りのレイピアが差してある。
服装は白を基調とした戦闘服だが、西洋風の白い仮面が顔の下半分を隠している。
二人は西洋と東洋の違いこそあれ似通った見た目をしている。
離れた位置にいる¨怪人¨は驚きを隠せていない。
「何あれ!?¨侍¨そっくりじゃない!!まさか双子か何かなの!?」
興奮する¨怪人¨を¨ドクター¨がなだめている。
「落ち着いてよ、¨怪人¨。彼がさっき説明した¨侍¨の親友だよ。¨侍¨同様に¨成功作品¨だが、同じ性質だったがために切り離されてここにいるんだ。¨本部¨にあるデータには詳しくは書かれていないが、実力は¨侍¨に匹敵するはずだよ。」
二人は無言で対峙している。
そして次の瞬間
キキンッ!
一瞬で二人の立ち位置が入れ替わり、背後の壁には大きな亀裂と複数の穴が開いた。
二人の仮面にはそれぞれ小さな傷ができている。
そこで初めて仮面の青年が口を開いた。
仮面のせいで少し声がくぐもっている。
「相変わらず力業だな、閏夜。いや、今は¨侍¨…だったか。」
「……。」
青年の問いかけに、¨侍¨は無言で刀の柄に手を置いた。
離れた位置で聞いていた¨怪人¨はまたも興奮して¨ドクター¨の背中を叩いている。
「聞いた?閏夜だって!あの子閏夜って名前だったのね!名前からしてジャパニーズかしら!どうりで可愛い顔してると思った!」
「落ち着いてって、¨怪人¨!顔はいつも仮面で隠れてて見えないじゃないか!!それにその威力だとそろそろ背骨が…」
ボキュッ!
それきり静かになる¨怪人¨と¨ドクター¨。
そんなことは関係なく¨侍¨と青年の一方的な会話は続く。
「君が第一研究所に移動されてからは、毎日が地獄だったよ。¨騎士¨のコードネームを与えられてからはほぼ毎日実験や訓練に明け暮れた」
¨騎士¨は思い出すように遠い目をする。
¨侍¨はとくに何の反応もしない。
「君と一緒にここへ連れてこられた時のことは、今でもよく覚えてるよ。弱虫だった君を僕が必死になだめてあげたっけね。」
¨騎士¨はレイピアを引き抜くと刀身を眺めた。
「実験や手術の後、泣いている君の手をずっと握っていてあげたよね」
¨騎士¨はレイピアを鞘に収めると、¨侍¨同様に柄に手を置いた。
「実験ではいつも僕のほうがいい成績を残していた。君は他の子供たちと比べても最下位だった」
二人の間には火花に似た殺気が散っている。
「それなのに選ばれたのは君だ。いつも僕の陰で怯えていた君だ。…信じられなかったよ」
両者のあまりの殺気に、室内でありながら空気の流れすら感じられた。
「……。」
そしてついに均衡は破られ、両者の間に嵐が巻き起こる。
「どうしてお前なんだ!僕のほうが優秀だったはずだ!それなのに何故!」
「……。」
両者の太刀筋はもはや常人には視認することすらできない。それは¨怪人¨達も同じだろう。
もはや優れた動体視力を持つ彼らにさえ¨侍¨と¨騎士¨の動きは霞んで見える。
第十二支部内、中央エリア通路にて




