第16話〜実験体
第十二支部内にて
「おい、誰かあいつを止めろ!」
「クソッ!銃が当たらない!」
「た、助けてくれ!」
「う、うわああぁぁぁ…」
支部の扉を粉砕し、支部内へ侵入すると¨侍¨は問答無用で破壊の嵐を巻き起こした。
¨侍¨の通った後には真っ赤に染まった壁や床、もはや誰の物だったのかも分からないくらいにバラバラにされた死体が残されていく。
「司令!ぞ、増援を!このままでは第1エリアが、う、うわあぁ……」
『第1エリア、何があった!?応答せよ、応と…』
バキッ!
¨侍¨は無言で無線機を踏み潰し、奥へと歩を進める。
絶え間なく銃弾が飛んでくるが、一発残らず両断されるか弾かれる。
数分もすると、もはや辺りは原形を留めていない瓦礫の山になった。
それでも¨侍¨は歩を緩めない。
ただただ中心に向かって進んでいく。
すると突然銃弾の雨が止み、¨侍¨の周囲には三十人ほど軍服のようなものを着た人影が取り囲む。
¨侍¨が進むのを止め無言で辺りを見渡すと、リーダーらしき男が一人、前に出てきた。
「¨侍¨殿とお見受けする!私はコードネーム¨陽炎¨だ。たった一人で乗り込んで来るとは恐れ入ったが、我ら殲滅班は全員貴様同様に強化されている。無駄な抵抗はぜず、速やかに…」
そこまで言ったところで¨陽炎¨の言葉は途切れた。
部下達の注目が彼に集まると、首のあたりにじわじわと赤い線が現れた。
「¨陽炎¨さん?」
部下の一人が¨陽炎¨の肩に触れると、だんだん彼の体は傾いでいき首がとれた。
首なしの胴体が倒れると同時に頭部も床に叩きつけられ、血を撒き散らす。
「「「…ッ!?」」」
部下全体に衝撃が走り、女性の一人が声なき悲鳴をあげた。
「う、狼狽えるな!陣形を…」
男が声を発した次の瞬間にはその胴は両断され、上半身と下半身は別々に床に倒れる。
「く、クソッ!!」
何人かの部下が武器を手に飛びかかるが、音もなく両断される。
ここに地獄が再現された。
向かって行った者は一人残らず殺され、邪魔する者も殺され、唯一¨侍¨の進行方向とは逆に逃走した数名だけが生き永らえた。
「ば、化け物め!」
最後の一人を片付けると、¨侍¨は何事もなかったかの如く歩み出す。
第十二支部内、エリア2付近にて
¨侍¨の暴れ具合を見て、¨怪人¨は呆れたように近くの椅子に腰掛けた。
「想像以上ね。まさかここまで圧倒的だとは思わなかった。」
「まだあれでも二割くらいしか出してないみたいだね。¨侍¨が本気を出したら僕らにも太刀筋は見えないはずだから。」
どうやら二人には¨侍¨の動きが見えているらしく、冷静に観察している。
「それにしても、¨二つ名¨持ちがいないのは当然として、ただ強化された人間しかいないなんて意外ね。普通5、6人くらいは改造されたのがいるはずだけど、あの¨陽炎¨くらいしか¨実験体¨がいないわ。」
「確かに少ない。いくら第一研究所からだいぶ離れているからといって、支部には通常10~20人の¨実験体¨がいるものだし。大方スヤマギが身辺警護に大部分を割いているんじゃないかな」
「あり得る。あいつならやりかねないわね。あ、見て!あれ、¨実験体¨じゃない?」
「ん?ああ、確かにそうかな。しかも¨侍¨がまだ手を出してないってことは、結構な手練れかもね。」
第十二支部内、中央エリアにて




