表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
没落貴族だけど転生したら最強モンスター一家になっていたので世界を相手取ります  作者: ガラムマサラ
第二部 グリフォンブラッド家の野望 ―――廃地絶空戦線 編
45/47

27



 法悦王国ニーヴェの国教であるユークレア教――このユークレアとは、勿論かの有名な亡龍のことを指している。

 つまりこの国では、亡龍こそが自分たちの神であり、守護者であり、真の支配者であると教じられているわけである。


 教義上、この国の王は龍の転生者であり、故に政治を代行できる。

 王が死ねば、国土上の別の者にまた龍が転生する。

 その転生者は龍の息吹を感じ取れる巫女によりまた発見され、その繰り返しによって、この国の支配者は常に龍である状況が維持される。


 ユークレア教を国教としたのが先か、それともルングウェインが偶然にも巫女に見出されたのが先なのか、それは今はもう分からないが、(おそらくは後者なのであろうが)お陰でルングウェインは揺るぎない統治を龍の崇拝者たちを相手に行うことができていた。


 どんなに貧富の差があろうとも、

 どんなに法外な苦境を強いられようとも、

 どんなに愛する者が理不尽な死に追いやられようとも、


 かの龍の行うことであるのならば黙って従う。

 この国の民とは、そういう狂信の集団なのである。



 そして、いま、その龍の名前を、アルバは口にした。


 亡龍ユークレア――


 彼らの教典の中でも、亡龍は過去に滅んだとされている。

 故に、アルバのことを、その神の名をかたる不届き者であると即断じてしまってもおかしくはない。


「ゆ、ユークレア様……! ユークレア様だ!」


 しかし民は即座に彼女の言葉を受け入れた。

 アルバには、そうさせるだけの迫力と威信が存在していたのだ。


「ふふ、そんなに堅くならなくても良いわ」


 平にひれ伏す大衆を前に、アルバはグランの死体と共に飛翔していく。

 次の瞬間には彼女は石門を開き、グランを蘇生させていた。


「おお――――! か、神の奇跡だ――ッ!」

「あの恐ろしい骸骨が――!」


 動き出したグランを見て、そしてそのグランが彼女に跪いたのを見て、大衆が大いに沸き上がる。


(そ、そんな……)


 一方シグルは、その様子を前に愕然とする。


 グランが生き返ったのはまだ良い。

 いや良くはないが、相手が龍であるならば――しかも冥府を支配する亡龍であるのならば宜なるかなである。


 問題なのは――


 支配できてしまっているということ。


 生き返った兄は、アルバにかしずいてしまっている。

 従ってしまっている。

 服従してしまっている。


(できるんだ……)


 殺せば――生き返らせれば――それで、彼女は、その者を我が物に(・・・・)できる。

 しかもともすれば、ある程度のパワーアップも見込めるのかもしれない。

 そう考えれば、ライラストリアスが生きていること、そしてとんでもない力を手に入れていることにも合点が行く。


(なんてことだ)


 アルバ(亡龍)は、殺せば殺すほど、味方を増やせるのだ。


 兄が、獲られてしまった。


 愛する家族が、木偶にされてしまった。


「かわいそうに」


 アルバがこちらにそう言った気がした。

 彼女の瞳は、不気味なほどに冷たくシグルを見つめていた。


「この国は――」


 彼女はそれから民の方へと翻ると、演説を続ける。


「これからはそこに立っている――その者に支配させるわ」


「――――!」


 民たちが彼女の指す方角に注目する。

 そこに立つ者は――


「彼女の名はライラストリアス――元は魔術師であるが、しかし死したところをあたしの僕として蘇生させたもの。異論はある?」


「ユークレア様の意に異論などあるはずがありませぬー!」


「いいこよ。あと、あたしのことをユークレアと呼ぶのはやめなさい。ユークレアとは種の名称であり、あたしの名前ではないの。そうね、これからは……」


 そこでアルバは、こちらをチラリと一瞥する。

 どこか懐かしい、いたずらっぽい瞳だった。


「アルバ・グリフォンブラッド・オルポス――そう呼びなさい。それこそが、あたしの名前」


「――――!」


 シグルは絶句する。

 頭の中が真っ白になる。


(まさか、その名を(転生前の身分)を晒すなんて――!)


 いったい何を考えているのか。


 彼女はまるでシグルをからかっているかのように、こちらを見て楽しげに笑みを浮かべていた。


「この国はこれより、あたしの庇護下となる。それはつまり、三千世界たる冥界全体でここを守護するということ」


 上位種である伝説、及び列強種は、この世界にそれぞれ支配圏を有しており、たとえば千刃魔術や復元魔術といった彼らの種固有の魔術は、その支配圏の力を行使することによるものである。

 列強種の支配圏だと、個人領域や同種間における武器共有異空間のような、ごく矮小な領域分野(ゾーン)にすぎない。


 しかし伝説種ともなると、その支配領域は大きく広がる。

 彼らの支配するものは世界である。

 この世界はかつて天上・地上・地下・冥府・業魔・聖杯・月面の七つに区分していたとされ、それぞれを七種の龍が支配していた。

 つまり龍の魔術は世界を扱う。


 冥府世界を支配する亡龍が、この国を守ると言うことは、冥府世界まるごとがこの国の戦力となるということだ。


「あ、圧倒的じゃないか……俺たちは――!」


 大衆の中の誰かがそう呟いた。

 それはあっという間に皆に伝染し、そして大歓声と変わった。

 大地が揺れ、国が喜びに溢れた。


 しかしそれもピタリと止む。

 なぜならば彼女が口を開いたからだ。


「あたしはあたしにかしずく者以外、全て死んでしまって良いと考えているわ」


 そう言った。

 姉は、そう言ったのだ。

 シグルはあまりのことに、身の震えを禁じ得ない。


 しかし存外に、彼女の崇拝者たちは、大いに納得した。


「当然です! 我々の教義に反する者たちなど――!」


「ええそうね、まったくもってその通りよ。故に――」


 彼女はその身を更に上昇させる。

 そしてここからの声は、全人間領域に向けたものだった。


「これより三十日の猶予をあなたたちにあげる。三十一日目の朝、あたしはあたしを信仰していない全ての人類を、皆殺しにすることを、ここに宣言します。あたしの名はアルバ・グリフォンブラッド・オルポス、亡龍ユークレア。繰り返します、これより――」


「め、めちゃくちゃだ……」


 シグルは目眩がした。


 これからどうなる――? 帝国はどう動く?


(アルバは自身を龍であると公言した。予定とはプロセスが多少違うが、この一点においては一応計画通りだ。帝国はこれで間違いなく、あそこ(人間領域外)に力を借りに行くことになるだろうから)


 でも、同時に、いくつもの誤算が生じることになった。


 兄さん――グリフォンブラッド――姉の思惑――三十日――!


 次の瞬間、頭の中に姉の声が響いてくる。


精神干渉(テレパシー)――!)


 アルバは龍であるのだ。使えたとしても不思議ではなかった。

 彼女は告げる。


 ――(シーグ、あなたはどうやら、あの出来事の原因をアルタマイサに限定しているみたいだけど、それはあたしは間違いだと思うの)


(なにが違うっていうんだ……)


 ――(責任は人間みんなにあるのよ。アルタマイサだけじゃない、全員が悪いの。人間なんてみんな似たようなもので、同じように有害なのよ。たまたまあたし達に災いをもたらしたのがアルタマイサだったってだけ。だから、ねえ……)


 ――(みんな殺してしまえば良いって、そう思わない?)


 ――(大丈夫。殺せば、生き返れる)


 ――(生き返れば、あたし達の意のままよ?)


 ――(ねえ、それが一番だと、あんたも思うでしょう?)


 目の前の空に浮かぶ全身を針に貫かれた女が、こちらの方を見つめていた。

 表情は分からないが、いたく胸を締め付ける憂いを感じさせた。


(姉さん、俺はこう見えて、昔はあなたを心より尊敬していたんだよ)


 ゾンビは地を蹴り、そっと飛び立つ。

 兄を見据え、遠ざかっていく。心なし、彼の首が縦に振られたような気がしたが、気のせいかもしれない。


(行くよ……兄さん。待っててくれ)


 必ず、ソイツから解き放ってやるから。


 ――(それがいい。今のあなたじゃ、あたしに勝てないでしょうしねえ)


 いやそれよりも、兄とやり合うことになるのが、なによりも嫌だった。


 離脱していく。

 喧騒が、遠くになっていく。

長かったので分割した。


次でおーわり。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ