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没落貴族だけど転生したら最強モンスター一家になっていたので世界を相手取ります  作者: ガラムマサラ
第一部 グリフォンブラッド家の侵攻 ―――新生覇王国創起 編
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視点が王国護衛側に移り、やや時間が巻き戻ります。



「はじめまして、神殿より参加します、アブリル・ライラストリアスです。今回の護衛ミッションが終わるまでの短い間ですが、なにとぞよろしくお願いします」


 お決まりの自己紹介を機械的に述べて、アブリルは頭を下げる。

 ――と、塔から来たその二人の魔術師たちは、どこか浮ついた表情で同じく自己紹介をして頭を下げてきた。

 彼ら二人の名前は――憶えられなかった。いつもそう。名前を覚えるのは苦手だった。

 特に、塔からやってくる魔術師たちの名前を一度で記憶出来たことはない。


 どのみち、今回の任務である、フルグラ王のアンダルシア女王国への行き帰りの護衛を終えるまでの付き合いだし、何かあった場合も、この二人に頼ることにはならないだろう。


 飛行戦艦へと乗り込む際、その二人がこちらをチラチラと見ながら、話している声が聞こえた。


「おい、見たか? すげー可愛いんだけど」

「『神殿魔術師』のアブリル・ライラストリアス……。高次元の才色兼備だって前から噂は聞いてたけど、まじレベル高いな」

「魔術、体術、剣術、知識、知略――そして美貌。そのすべてにおいてトップクラスの先天性を持つ、希代のスーパーオールラウンダー。それで付いた二つ名は、『無欠の才知(クイーン)』」

「やべーよレベル高ーよ。しかもさっき俺に向けてきたあの笑顔! やべーよあれ絶対俺に惚れてるよな? 俺どうしようまじ」

「ばーかねーよ。さすがに初対面で惚れられてるとか絶対ねーって。いいか、そんな夢見てんじゃなくて現実的な話をしようぜ。そう、どうやってこれから俺たちに惚れさせるかだ」

「なるほど」


(…………はあ)


 ため息が出た。

 バカバカしくて。はなはだ、レベルが低すぎて。


 アブリルは塔の魔術師たちが嫌いだった。


 なにかの任務の度に一緒になる彼ら(塔の魔術師)は、毎度毎度、ため息が出るほどに質の低い者たちばかりだ。

 この質の低い(、、、、)というのは、魔術の腕がない――とか、そういう事を言っているのではない。

 いや、それもあるのだが、肝心なことは――彼女の気にくわないことはそれではない。


 塔の魔術師たちの粗悪さは、その、どうしようもない不真面目さだ。

 浮ついている。

 これからこの世界において少なくとも八番目には偉い人間を――その命を守る任につくというのに、彼らはいったいなんの話をしているのだろう?


 バカバカしい。


(少なくとも、私がこの場でそんなことを話している人間に惚れるとでも本気で思っているのかしら?)


 もう一度ため息が出た。


「……すまないな、ライラストリアス」


 すると隣を歩いていた男がそう謝罪してくる。

 アブリルはすぐに笑顔をつくると、首を振った。


「いえ、カエサル先生が謝ることでは……」


 その男の名はエルデア・カエサルという。アブリルはまだ塔の魔術師であった時、彼のゼミに所属していたのだ。

 彼は素晴らしい魔術師であり、指導者でもあった。


「先生には、今でも感謝しています。神殿魔術師にと推薦してくれたのも、先生でしたし」


 今のアブリルは、魔術師連盟管理下の『円卓の塔』にではなく、帝国の管理下にある『神殿』に属している。

 皇帝は自身の近くに自身の裁量で動かせる優秀な魔術師を欲していて、それで新たに組織されたのが『神殿魔術師』だ。

 神殿魔術師の候補は塔の成績上位者から選ばれる。目ぼしい人材を帝国が選び、城へと呼びつけ、試験を課す。それに合格した者が晴れてアンダルシア女王国の塔から離れ、帝国内にある豪華絢爛な屋敷(神殿)に住まう神殿魔術師となる。

 そうして、国に、皇帝に、良いように使い倒される。

 世界の守護者たる魔術師とはおよそかけ離れた、誇りも何もないその有り様は、権益の守護者とも揶揄されるほどであるが、しかしその高い報酬と地位と暮らしに憧れて、何より選りすぐりのエリートのみに許された道でもある為、今や魔術師の最終ゴール地点とまで言われている。


 アブリルは十一才でそれになった。

 史上最も若くして神殿へと合格した者――それが彼女だった。


 しかし、神殿魔術師候補(、、)――の段階までで言えば、彼女より若くして選ばれた者は他にも何名かいる。

 塔での最上位の成績を残し、且つ、その時点で魔術界全体でトップクラスの実力がなければ候補にはなれないというのに、彼女よりも更に下の年齢で、その域に達した者がいた。

 しかも信じられないことに、その者たちは皆、候補者に推されつつも自ら試験を辞退したのだという。

 それはたしか、皆、レイゲントンゼミ所属の生徒だったはずだ。


(あそこのゼミは、ほんと、……変わった子が多いのよね)


 アブリルは今の自身の地位に誇りを持っている。

 成金趣味の、帝国の犬であると、そう罵る者もなかにはいるが、彼女はそうとは思わない。


 彼女は塔を出て知った。

 塔にいる者よりも、神殿にいる者の方が、遙かに真摯であると。比べようがないほどに、職務に、使命に、真面目に向き合っている。


 アブリルもそうだ。


 そしていつか、神殿魔術師の中でもより上位の地位――かの誇り高き皇帝の直近たる『帝の七賢者(セブンス)』になるのが彼女の夢だった。

 世界で最も誇り高く、最高の力を持つ七人のうちの一人であるという証左。


「神殿はどうだ? 問題はないか?」

「はい、問題ありませんよ。皇帝は素晴らしき指導者です。そんな彼が統治する帝国に仕えることが出来て、私は幸せです」

「……そうか。おまえは相変わらずだな」


 相変わらず――

 先生は塔時代からよくその言葉を彼女に使っていた。


(相変わらず――なんなのだろう?)


 未だにその答えは、彼女には分からない。




 艦隊がアンダルシア女王国に向けて出立してから、六時間強が経過していた。今のところ旅路は順調である。


「アブリル――航海の経過はどうだ?」


 司令室にて、ひときわ厳かな造りの椅子に大柄な態度で腰掛けている男が、そのように横に立っているアブリルに声をかけてくる。

 フルグラ王だ。


「はい、問題ありません、陛下」


 この数時間の船旅で、彼女はすっかりこの王に気に入られてしまったようだ。何かにつけて、話しかけられるようになっていた。


「ふむ……まあそうだろうな。今のこの世の中、我が帝国軍は世界最強と言っても過言ではない。そんな我らの艦隊に、よもや空戦を仕掛けてくる者など――おるはずはなかろうて。おまえも肩の力を抜き、もう少し楽にするが良いぞ」


 その言葉で、遠くに立っていた先ほどの塔の魔術師二人が「ラッキー」と声を発し、本当に肩の力を抜き始める様が見えた。

 王がそれに気づき、ジロリと睨み付ける。

 二人は視線に気がつき、アワアワと姿勢を正した。


 塔の魔術師はやはり馬鹿ばっかりなのだろうか?


「アブリル――おまえは実に良いな。話には聞いていたが、噂に違わぬ優秀さだ。……なにより美しい」

「……勿体ないお言葉です」

「父上の耳にもその誉れは届いている。もう近いかもしれぬな……七人の座が」


 アブリルは驚くと共に、喜びで瞳を輝かせた。

 憧れの地位(セブンス)に、もうすぐ手が届くかも知れなかった。


 こうなれば、猶の事、この任務を失敗することは出来ない。


 彼女は司令室から覗く外の景色に注視する。


「――――え?」


 そして――――

 実に、あり得ないものを、目の当たりにした。


「どうした?」


 少し離れた位置に控えていたカエサルが反応する。彼女の隣に来て、同じく、外を注視した。


「いえ……その、あれ(、、)は……|いったいなんなのでしょうか《、、、、、、、、、、、、、》?」

「あれ……とは? 船影か? 何もないぞ」

「違います。船ではありません。……その、人です。なにか、人影のようなものが……前方に」


 言いながら、その現実感の無さに、彼女も自分が何を言っているのか分からなくなってくる。

 しかし、――そう、その度に目をこすって確認してみても、やはりそれは間違いなくそこにあるのだ。


 見間違いではない。


 まるでその者の周りには風が吹いてはいないかのように、ピタリと微動だにしない黒い衣をまとった人間――そのような者が、こちらを注視している。


 不気味だ――。ひどく不気味だった。

 あり得ない空に異様に浮かぶ、その超常現象を現実にしているその黒い者が、こちらをジッと見つめていることが、おぞましいほどの恐怖を感じさせた。


「本当だ……いる……なにかいるぞ! 前方に――ひ、人影だ!」

「なぜあそこにいる? 距離が……距離が縮まらないぞ!? どういうことだ! 我々の現在の速度は!?」

「時速二百九十です!」


 やがて徐々に司令室にも事実が浸透し始め、やがて半ばパニックのような喧噪が場を支配し始める。


「静まれ! 何を狼狽えている! たかが人だろう!」


 王が一喝する。

 今度は沈黙がその場を満たした。


「なんであろうと、人で違いないならば――恐るるには足らぬ。我らは大艦隊であるぞ! 各艦に伝令! 前方に未確認飛翔物体を確認、直ちに砲撃を開始――撃滅せよ」


 人影に向かって各艦に積まれている魔術砲撃が行われる。帝国艦の魔術砲弾は、弾速・装填共に極めてはやく、そして強力な威力を誇っている。

 命中すれば如何なるものもひとたまりもない――


 はずであったのに、


「命中しないだと!? どういうことだ! なぜ当たらん!」

「わかりません。すべての砲弾を回避されています」

「馬鹿を言え! 巡洋艦五隻で砲撃しているのだぞ! そんな芸当――我が軍のアンチボディにすら不可能だ」


 王が困惑している。

 否――この場のすべてが息を呑み、そして混乱していた。

 アブリルもそうだ。あれはなんだ? すべての者が疑問符を浮かべている。


「アンチボディ隊を出撃させろ!」


 後方の空母から数多の機体が発進していく。


「目にものを見せてやれ!」


 王が意気込んでいる。

 それもそのはず――帝国の誇るあのアンチボディは、まだ帝国が人間の統一を果たせておらず、幾多の国に分かれていた時代、戦争において他国を圧倒し帝国に圧倒的勝利をもたらす契機となった技術だ。


 空を飛行する艦船が誕生して以来、自然、戦いの主戦場は空へと移行したが、各国の操るその当時の戦闘機は鳥のような形状をした、直線飛行に優れた設計のものだった。

 しかし帝国が新たに開発したかのアンチボディは、より小回りと細やかな手先による取り回しを重視しており、それまで直線的な動線で単純な戦術でしか動けなかった他国の戦闘機を圧倒した。


 つまり、アンチボディは帝国の勝利の象徴であり、他を圧倒する力そのものである――


 はずだった。


「なんだあれは……?」


 目の前では、さながら象と蟻が戦っているかのような、圧倒的なワンサイドゲームが繰り広げられている。


 ひと目で分かる。誰もが感じる。

 かつて、これ以上にない完成形であり、史上最強の空戦兵器であると表されたあのアンチボディが――どうしようもなく、欠陥品にしか思えなくなってしまっていた。


 そのくらい、あまりにも鈍重であった。大きく、巨大なアンチボディは、小さなその人影より圧倒的に鈍く、そして完膚なきまでに力負けしていた。


「……――! こちらに来ます!」


 アンチボディの包囲網をあっさり破ったその陰は――

 彼女たちの乗っている船に真っ直ぐ迫ってきた。

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