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没落貴族だけど転生したら最強モンスター一家になっていたので世界を相手取ります  作者: ガラムマサラ
第二部 グリフォンブラッド家の野望 ―――廃地絶空戦線 編
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 グレイが神殿魔術師たちと兄を追っていくのを見届けて、シグルはその場に膝をつく。

 おそらくは伝説武装であろう敵の攻撃を受け止めたことで、左の腕と脚がひしゃげてしまっていた。


「大丈夫か?」


 シグルが声をかけてくる。


「ああ、大丈夫。ちょっと痛いけど」


 そう答えると、彼は気を抜いて笑み、「わり、助かったわ」と先ほどの礼をいう。


「気にしないでいいよ」


 いやほんとに。

 完全にわりと自分の都合でやったから。


「ただ、こんな状態だとあの骸骨のことを追うことはできないな。王を殺すといっていたから、俺たちも立場上は追撃に協力すべきなのかもしれないが……」


「そんなの仕方ないですよ! キョーカは全然アリだと思います! そいういうわけでキョーカたちはのほほんとチゲちゃんをお家に送り届けてあげましょう!」


「まあ、そうだな。そうすっか」


 そうこの展開を引き出したいが故の行動だった。

 これからこの国で起きることに、絶対に参加できるはずもない状態と場所と証言者が必要だった。


「呆れた……。アンタたち、もしかしてチームに誰一人として回復役がいないわけ?」


 自分たちの見張り役を買ってでていた神殿魔術師のひとり――ヴェロリカがそういいながらこちらにやって来た。


 回復魔術というのは攻撃とは異なるかなり特殊な感覚が必要とされるため、必然的に回復術士は回復魔術のみを扱う専門職として生きていくことになる。

 そして任務には怪我がつきもののため、メンバーにひとりは回復術士を入れるのがセオリーである。

 のだが、レイゲントンゼミのミッションチームの編成は教師の完全なる気分で行われる為、そういうバランスとか常識とか一切考慮されることはない。


「い、命にかかわることを気分で決めてるわけ……? あ、あんたたちよく今まで生き残って来れたわね……」


 ヴェロリカは見るからにドン引きしていた。


「まあ、先生の教育方針はパーフェクトワン(自己完結型)だから、ある意味では理にかなっているんだけどね」


 それになんだかんだうちにはキョーカノコ(不死特性持ち)もいるから、割りとなんとでもなる。


「ふーん、ま、どーでもいーけど。ちなみにアタシも回復魔術は使えないから、変な期待しないでよね!」


 ヴェロリカはそう言って鼻を鳴らすと、自身の腕をナイフで切り、シグルの前に血を垂らした。

 その血はやがて光を放ち、形を帯び、車輪付きの椅子となる。


「す、座りなさいよ。あんたそんな片脚じゃ歩けないでしょ」


 その椅子は背もたれの上部に他の人が押せる取っ手が付いていて、彼女はそこをガッシリ握って押す気満々の様子ででも強がるようにそう言った。


 シグルが座ると、実際、彼女はそれを押しはじめる。


「で、アンタの家ってどこなの?」


 チゲに問うヴェロリカにキョーカノコは嫌そうな声で聞く。


「え、もしかしてヴェロリカも来る気なんですか……」


「あ、当り前でしょ! アンタらを見張るのが今のアタシの役目なんだから!」


「あれー? キョーカたちを殺すこと――じゃなかったんでしたっけ?」


「ふ、ふん! うるさいわよ!」


 意地悪するように言うキョーカノコに、ヴェロリカは顔を真っ赤にして顔を背け、しかし最後に付け加えた。


「わ、……わるかったわよ、ごめん赦してキョーカノコ」



 ※※※



 グランはシグルとの計画通りに、人を殺すことなく、しかし街をある程度破壊してまわりながら、それでも時間をかけすぎる事無く王宮へと進んでいた。


 それは予想よりも豪快でなく、神経をすり減らす精密な作業と言えた。

 人は気を抜けば簡単に殺してしまうし、でも殺すつもりがないのを知られるわけにもいかぬ。


 グランの気質を考えれば発狂ものの事態であるが、彼は弟との計画を成功させるために気を吐く。


 それにもうすぐ――


 街の向こうには白い滴のような屋根の宮殿が見えている。


アイツ()を殺せる)


 グランは進んだ。

 禍々しく、堂々と――しかし繊細に。


 やがて宮殿の方角よりワラワラと兵隊といくつかのアンチボディが出てくるのが見えた。


 グランは背中の巨大な鞘束――武装櫓を展開し、ヘラクレススケルトンを召喚する。

 街の石畳がのきなみ黒い霧がかった沼のように変わり、そこから幾万のおびただしい数の白い骸骨が這い出てくる。


 そのすべての骸骨は、グランの武装櫓から自動で転送された何らかの刃物を装備する。その為、武装櫓の中身はグランの分を残した一本を除き空となった。

 その数、十四万四千。暗黒の黙示録をくぐり抜けし選りすぐりの武装を手にする死の戦士たち。


 これまで存在した全てのワイトたちが取り扱ってきた厳選されし武器を共有できる列強種ワイトの魔術――千刃魔術。

 そのすべては伝説武装でありS+++(トリプルプラス)クラス以上の超業物。

 グランはこれに加え、その武器の数と等しいヘラクレススケルトンを召喚し戦わせることができた。


 スケルトンを召喚し、グランを含めて十四万の異形の武装した骸骨が、街をうめつくすこととなった。

 まだ幾人か近くに残っていた住人達から悲鳴が巻き起こる。


 ついでにダンジョンの見張り用で残しておいたスケルトンたちも解体し、こちらに呼び寄せておく。


(もうあのダンジョンには誰もいねえからな)


 みんな死んだ。これ以上あそこに魔力を割いておく意味はない。


 更に進んでいくと、通りを閉鎖するように隊列する兵士たちと対敵する。


「とまれえええッ!」


 兵士が叫び、魔法弾をこちらに放ってくる。


(兵士は殺してはならない)


 グランはただ前進する。彼の背後を進む、見渡す限りの通りを埋め尽くすほどのスケルトンたちも同じくただ進んだ。


 魔法弾は次々と彼らに着弾しているが、まるでダメージになっていない。


「――――――……だ」


「え……?」


 グランが何かを言うと、兵士たちが聞こえなかったようで戸惑いを顕わに聞き返す。


「蚊に刺される方がまだマシだ」


「は?」


「蚊に刺される方がまだ痛い(マシ)と言っている」


「――――ふざけるなこの魔物ふぜいがああ!」


 一斉射が始まる。しかしグランたちの進行速度は一切揺らぐことはない。


 ひたすら無関係に、骸骨たちは進んでいく。

 すべてのこと(攻撃)は些事でしかないとばかりに、何食わぬ顔で、ひたすらに退屈げに、前に進んでいった。


 攻撃をかき分け、しまいには兵士すらもかき分けて、反撃することもなく、横を素通りし、纏わり付くすべてをひたすらに無視してただ前に進んだ。

 アンチボディすらも彼らの歩を僅かでも送らせることは不可能だった。


「なぜだ――!? なぜ効かない――」


 そんな声が四方八方から聞こえてくる。


 ――が、歓声があがった。


「あなた方は――来てくださったのですね!」


 誰のことかはわからないが、グランはふりむこともしなかった。

 すると四方を光糸の檻で囲まれる。


「止めます――!」


 感情のない女の声だった。

 この光の攻撃は、おそらくは伝説武装によるものだろう。Aクラスといったところか。


 グランは振り返る。

 閉じていく光糸の檻の隙間から、姿を見ることができた。

 おそらくは先ほど、ダンジョンの外に弟といたうちの誰かだった。


「食らえ――ッ!」


 女が叫ぶ。

 するとグランを囲んでいた光糸が走り出し、抉るように交差し攻撃を始める。


 グランはその中を進んだ。

 さながら垂れ幕を通り抜けるように。


「――――――――――tぅ!?」


 余程混乱したらしい、女の声にならない声が響く。


「蚊よりはマシになったな」


 たしかこいつらは神殿魔術師とかいうやつらだ。


(そういえば、この国の奴ら以外は殺していいんだったか)


 グランは今度は振り向かずにただスケルトンの一体に指示を飛ばす。

 スケルトンは壊れたオモチャのようにいびつな反応を見せると、次の瞬間にはたゆまぬ足取りで一瞬にして神殿魔術師たちの前に跳躍した。


「――――は、はや――ッ!?」


 全てを叫び終える前に、スケルトンは手にしていた魔剣の一薙ぎで七人すべてを絶命させた。

 十四万のスケルトン――その一体一体が装備している武器はS+++クラスの伝説武装であり、加えて能力値も使い手たり得る飛び抜けたものである。神殿魔術師ごときが相手になるはずはない。


「い、いやあ神殿魔術師様たちがああ――――ッ!」


 その光景を目撃した者たちからまた悲鳴があがる。それは先ほどよりもより狂気をはらんだ声だった。

 阿鼻叫喚――

 耳障りであったが、そんな声が飛び交う中を進む様は、骸骨の自分にはピッタリの光景であるとも思えた。


 そうしてグランは王宮へと辿り着く。

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