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没落貴族だけど転生したら最強モンスター一家になっていたので世界を相手取ります  作者: ガラムマサラ
第二部 グリフォンブラッド家の野望 ―――廃地絶空戦線 編
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18



 キョーカノコは生まれながらの特性により、自身の不要なる時間をあらかじめ蓄積し、それらの蓄積時間を死するその瞬間分の生命として代替することができる。

 つまり、時間を溜め、致死の瞬間にそれを宛がうことで、もたらされる死を不能にする。


 そしてその対象は、自身に限られない。

 彼女の発動する――『アアルの王』というこれも、彼女の生まれながらの特性というべき魔術であるが、それにより発動される触手にて繋がった他者においても、彼女自身と同様の死亡免除の特性を適応することができる。


 高速で接近するグレイが微笑を浮かべて問う。


「あなた……、あとどれくらい不死でいられるの?」


 嫌な問いだとキョーカノコは思った。

 そんな彼女を前にグレイは続ける。


「やっと思考が追いついてきた。あなたが不死であると受け入れる。そのロジックも受け入れる。そしてそうすることで自然と一つの疑問が浮かび上がる。あなたの不死は無限ではない。蓄積した時間分に限られる」


 故に彼女は問う。


「あなたはあと何回殺せば、本当に死んでくれるのでしょう?」


 グレイを追いかけるようにして背後から接近するレイル――それに振り返るように遠心力とともに振り回して、グレイは獄盾で彼の頭を粉砕した。

 頭部を失ったグレイの身体は機能を停止するが、やがてキョーカノコのアアルの王の力により、フィルムの逆再生の如き身体再生をはじめる。


「そしてこの人たちもあと何回、生き返れる?」


 彼女は不吉に笑うと、もう一度キョーカノコに向かって駆けた。


 キョーカノコは汗を垂らし、しかしその場を動けない。アアルの王の発動には重い触手が体内から発生する為、機動力が著しく低下する。


 そしてグレイの発した"あと何回再生できるのか?"というこの問い――これについての答えを今一番知りたいのはキョーカノコ自身である。


(あと何回もつ……? 私の中に蓄積されている時間は、あと何回分残っている?)


 人が死ぬ瞬間を別の時間で立て替えられるのだとして、平時の時間に換算するとそれはいったいどのくらいになるのだろうか?

 時間は時間でいかなる瞬間も等価であるのだろうか?

 それとも、九死に一生を得るのだとばかりに、十分の一に格下げを食らったりするのだろうか?


(たぶん、後者――)


 十分の一であるかどうかは知らないが、等価値ではない。少なくともこの能力上はそうだ。

 へたをすると一定ですらない。様々な条件により変動する。時価。


 キョーカノコは過去にも実際に、この特性により死を免れることを何度か経験し、眠りから覚めた際に自身の中に何かが蓄積したのも認識しているし、生き返った際にはそれがなんとなく減るのも実感している。


 が――しかし、それ以上のことは正直いってよくわからない。

 逆に言えば、その程度のことくらいしか理解できていないわけだ。


 未だに、具体的にどの位の蓄積時間が一度の死に相応しているのか知らない。

 自分の中に今溜まっている蓄積時間も具体的な数字は知る由もない。ゼロかそうでないか――そのくらいの大雑把な感覚でしか分からない。


 そもそも彼女はまだ"生きている"。故に本当に死んだ(代替分不足)経験はない。

 なので実際のところは、蓄積時間が無くなった際に、死をどのようにこの身体が処理するのかどうかも定かではない。


 定かではないが、きっと……たぶん、死ぬのだ。


(恐い……)


 死にたくない。

 なにより、死なせたくない。


「残り回数が一であった場合、そしてその瞬間にあなた自身と他の二人を同時に殺したとして、」


 グレイは無味に問う。


「あなたはいったいどちらにその一回を使用しますか? 自分? それとも仲間?」


 彼女の接近速度がやや低下する。

 思案しているのだ。どちらの死を増やすことがより効果的であるかを。


「あなたはその限定不死の力を"身体的特性”と呼びました。つまり魔術じゃない。……ここからは持論ですが、論理構成の通りに機械的に発動する魔術とは違い、身体機能というのは常に不安定なはず。なぜなら心の影響を受けるから。心が揺らげば働きも揺らぐ」


 たしかに――


 キョーカノコは、グレイの分析を評価した。

 そう考えれば、なんとなくこの特性の時間に対する勘定が一貫していないことに納得がいく。


 彼女は自身のこの特性について考えるとき、ずっと魔術と同じように、式に当てはめて考えてしまっていた。

 でもグレイの言ったとおり、身体機能はプログラムではない。緊張すればより多くのエネルギーを消費するかもしれない。落ち着いていればその逆になるかもしれない。様々なコンディションによって左右されて然るべきなのだ。


(もう数年はやくその情報もらえていたら、もしかするともうちょっとマシな程度にはこの特性について理解できていたかもしれないな……)


 グレイは先を続ける。


「だから、あなたがより死なせたくないと思っている方――そちらを集中的に殺害し続けると、きっと、あなたの心は穏やかではいられない。するとどうなる? たぶん――」


 たぶん、蓄積時間の消費も増えるだろう。


 彼女の言い分はおそらく当たっている。


 身体もそう言っている。


 恐れは――破滅をより身近なものにする。


「……なるほど、わかりました」


 グレイはキョーカノコの反応から何かしらを感じ取ったらしい。完全に立ち止まる。

 そして背中を向けた。


「他の二人を殺していくことが正解のようですね」


「――――ッ! この――!」


 キョーカノコはかっとなり、反射的に魔術の構成を編む。


 ――が、そうした瞬間、発動中のアアルの王の効能が揺らぎはじめるのを感じて、すぐに新たな魔術の発動を止めた。


(くそ――消えちゃう)


 アアルの王はかなり比重の重い魔術であり、他の魔術との併用ができない。


 しかしレイルは今や、グレイを含めた神殿魔術師七名の相手を――しかもリョウのフォローをしながらの戦闘を強いられている。


 殺されていく。

 何度も――何度も――

 頭を潰され、心臓を貫かれ、抉られ、焼かれ、削られ、

 死ぬのは――死ぬのはつらいのに。

 過去にも何度か経験しているキョーカノコには分かっている。死を免除されると言っても、結局死は恐ろしいまでに痛く、辛いものなのだ。


(死ぬ――死んでいく――ああ、もう何度殺されてしまったのだろう――なぜ、キョーカではないの――)


 アアルの王――この能力は、癌だ。使用することで、本来なら自分しか味わうことのなかった苦しみを、他人にまで差し向けることになる。


 助けようにも、魔術は放てない。

 アアルの王にまといつかれ、駆けつけようにも一歩が重い。


 その間にも、レイルたちは尚も殺されていく。


 背後にて怯えるチゲが、キョーカノコの脚を掴む。


 ああ――ああ、とっくに、とっくにこの作戦は破綻してしまっている。

 アアルの王で不意を突き、それで仕留めるはずだった。


 レイルのかばいきれなかったリョウがまた死ぬ。


(あ――――)


 その瞬間、彼女の中で何かが大きく震えたのが分かった。


(――もう、――ダメなんだ――ダメだ、もうダメだ――)


 これ以上は生き返らせられない。もうスッカラカンだ――そう自身の身体が言っている。


(やめて――)


 なのに次なる致命の攻撃がレイルの側頭部に襲いかかろうとしている。


「やめ――――」


 どうしよう――どうすれば――


(せんぱい――)


「たすけ」


 次の瞬間、背後から、何か黒い影がシュッと、飛び出してくるのがわかった。


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