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ヴェロリカは全身を拘束されたままの状態で、眼前の戦況に動揺を隠せない。
(アイツ――アレってもしかして戦う気なんじゃないの!?)
四方を囲まれたキョーカノコともう一人の塔の魔術師(おそらくは彼もレイゲントンゼミなのだろう)は、腰を落とし、明らかに戦闘態勢に入っている。
(勝てっこない! やめなさいって――!)
必死にそう叫ぶ。しかし猿ぐつわが邪魔でその声は届きそうもない。
いや――
そもそも、仮に届いていたとしても、あの子はやめたりしないだろう。
どんなに正論がこちらを振りかざしても、どんなに地道な努力を積み重ねたとしても、ヴェロリカのものが、彼女に届いたことなんて一度もなかった。
平然と、誰にも影響される事無く、自分の信じた道を進んでいける人間。
キョーカノコはずっとそういう人間だった。
(アタシはそうなりたかった)
ヴェロリカは元来より、他人と自分を比べずにはいられない性格だった。
比べて、一喜一憂して、やがて疲れてしまって、それでも比べずにはいられない。比べることをやめられない。
他人と比べることでしか自身の欲求を満たせない。
煎じ詰めれば、自分に自信がない。
自分で自分の価値を確信できないからこそ、常に他の比較対象を欲している。
(だけどキョーカノコは、まるでそんな行為に意味が無いって知ってるみたいだった)
いつもそんな目をしてた。ただ自分の信じて、自分の目標を目指して着実に進んでいた。
(だからアタシは、そんなアンタを信じて、目標にして、進んできた――!)
もう誰とも自分と比べることはやめた。
ただ一人、キョーカノコだけを除いては。
(アンタだけを目指して――アタシはここまで進んできたのよッ!)
そんなアンタが――
「こんなところで死ぬなアアああッ! 子供置いて逃げろ大馬鹿アアああ! 勝てるはずないでしょうがああ!」
出血の魔術媒体――ヴェロリカは魔力の触媒に出血を必要としているが、彼女はこの時、何とか自身の舌の付け根を噛み切ることでそれを満たした。
なんとか猿ぐつわだけを外して、声を届けることに成功する。
――が、キョーカノコは案の定、逃げることはない。
こちらに苦しげな笑みを向けて、
「今のキョーカには絶対にやめないと決めているものが三つあります」
そう言った。
「一つ目が貯金です。いつか郊外に慎ましやかでも自分の家を建ててあったかい家庭をもちたいんです
二つ目が育乳です。まだ絶賛成長期真っ只中であるキョーカのおっぱいをいつの日かビッグに育て上げて、今はなめた視線で見下してくる野郎どもをキョーカのおっぱいの虜にしてやります」
滑り台みたいな彼女の胸部を見て、二つ目は無理なんじゃないかとヴェロリカは思った。
もう一人の塔の魔術師もそんな顔で「どんまい」と彼女に声をかけていた。でもただ一人、王国の討伐隊の兵士であるらしい若者だけ、「が、がんばってください!」と顔を真っ赤にして励ましていた。
やがてキョーカノコはそれまでの朗らかな表情を消し、冷徹な――言うなれば戦闘開始の合図にもなり得るストイックさで告げた。
「そして最後の一つが――キョーカのことを信頼してくれている人のキョーカ像を、絶対に裏切らないということです!
だから助けると言ったらキョーカは何が何でも助けるんです! 受けて立ちますよかかってこい!」
その言葉を契機に戦闘は開始された。
しかしそれどころではないほどに、ヴェロリカはその時動揺していた。
なぜならキョーカノコの今言ったその三つの信条にはすべて――
彼女以外の誰かがそこに存在していたからだった。
「アンタ……ウソでしょ」
ぼそりと、ヴェロリカは切なげに言い落とした。
「昔あんだけアタシがそうなろうってむきになってたっていうのに……」
今やっとそうなれるかもしれない自分になれたっていうのに。
ちょっと見ないうちにあっという間に――
「……できちゃってんじゃん」
あれだけ、頑なに孤独だった彼女に、そこまで言わせるようになった人っていうのは、いったいどんな奴なのだろう。
そう思うと、悔しくて、羨ましくて、どうしようもなくて、視界が涙でかすんだ。
ブックマークが100件突破してました!
依然ささやかな数字ではありますが、やはり書いている側としては少しでもどんな反応でももらえたなら嬉しいものです。
どうもありがとうございます。
次は総合pt500を目指して頑張りたい! りたい……たい……い……。
とりあえず二部までは頑張る。もうすぐ二部完結です




