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没落貴族だけど転生したら最強モンスター一家になっていたので世界を相手取ります  作者: ガラムマサラ
第二部 グリフォンブラッド家の野望 ―――廃地絶空戦線 編
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シグル視点です



 シグルの目の前で、突然、アブリルがニーヴェの女兵士を殺害した。


 「な――先生、あなたいったい何をして――!?」


 彼女はゆっくりと、まるで陶酔しているようなウットリとした瞳を向けてくると、そのまま亡霊のように告げた。


「ストン――と、きてしまったわ」


 まるで意味が分からない。

 この場にいる全ての者がフリーズしてしまっていた。


 ――が、


「こいつに関わるなっ――退くぞッ!」


 シグルだけは、ただ独り、冷静さを完全に失ってはいなかった。

 なぜならば知っていたからだ。

 そして警戒もしていた。

 彼女の本性を、彼だけは直接、既に垣間見て知っていたのだから。


 アブリルは神殿に迎えられるほどの実力者である上に、今はSクラスのダンジョンアイテムも手にしている。まともに相手にするべきではない。


 シグルは高速で反転し、身を捌く――そして、チゲを拾い上げ、キョーカノコとレイルを嗾け、ダンジョンの出口の方に走らせる。


 ニーヴェの兵士は――いくつかは扇動できたが、しかし動けなかった者、出遅れた者はやはりいた。

 しかし取り合わない。

 優先順位がある。

 アブリルは完全に狂ってしまっている。今も容赦なく、ニーヴェの兵を次々と殺害している。

 チゲと、友をこの場から脱出させるのが最優先であろう。


「ひっ――」


 ――が、先頭を走るキョーカノコがその速度を落とす。


 見れば、進行方向から、(骸骨)がこちらに向かって歩いてきていた。入り口からUターンしてきたらしい。


「進めない――!」


 背後を振り返ると、アブリルが逃げ遅れた幾多の兵士たちを皆殺しにしている。

 その様はまさしく狂った鬼だ。

 彼女はここから、出すべきではないのだろう。

 けれどシグル一人で相手取るには少々骨が折れる。


(兄さんなら――きっと理解してくれる――)


 シグルはキョーカノコにチゲを預ける。


「走れ!」


 そしてそう指示した。しかしキョーカノコは首を振る。


「なに言ってるんですか!? だってあの――」


「大丈夫だ! 奴は絶対に(、、、)お前達を殺さない! いいから行け! その子を送り届けるんだろ!? 絶対と約束したのなら、最善を尽くせ!」


 そう言うと、キョーカノコは迷いを吹っ切り、瞳を鋭くした。唇を噛み締め、そのまま一気に、走って行く。

 その後ろ姿はやがて骸骨に迫り、

 そして――

 すれ違った。

 まるで取り合う様子のない見える骸骨に、彼女たちはホッと息を吐いたが――


 直後、骸骨()はゆっくりと、そちらを振り返る。


「――――!」


 キョーカの子達は速度を上げた。

 兄は、こちらに僅かに視線を送ると、


『這い上がれ――』


 そう唱え、広い通路を埋め尽くすほどの、無数の白い骸骨を地面より浮かび上がらせる。そしてそれらにキョーカノコたちの後を追わせた。

 そうした後で、兄はゆっくりとこちらに歩いてくる。


(ナイス判断だ――さすが兄さん)


 キョーカノコたちをこの場から遠ざけ、且つ、シグルのところに本体としての戦力を残すことを、咄嗟に判断してのことだったのだろう。

 兄は、こういうところでは、今でも的確な判断を下せる。


 彼はゆっくりとこちらに向かってやってくる。

 やがてシグルと合流して、二人で並んで、シグルたちはダンジョン最奥――アブリルの元へと歩いた。


 最後のニーヴェ兵を殺し終えていたアブリルは、近づいてくる二人の様子を確認すると、ゆっくりと、薄く微笑んだ。


「やっぱり――ね、シグルくん。あなた、そうなのね?」


「――どういうことですか? やっぱりって」


「あなた、嘘が下手よ。はっきりと。次から気をつけた方がいい。私じゃなくても、気がつく人は出てくるかもしれないわ」


 彼女はそう告げると、隣の兄を見上げ、


「それで? シグルくん。あなたはいったい、あの方のなんなの? 隣の骸骨は――きっと、あの方の――あの横に並んでいた、部下のうちの独りなのでしょう?」


 そう言った。

 シグルは末恐ろしくなる。


「先生――あなた、いったいどうしてしまったんですか? 少なくともこれまでは、ずっと平常を装っていたというのに。どうして急に――」


「どうでもいいわ」


 シグルの問いをはね除けるように、彼女は言い放った。


「もう、どうでも良くなった。キョーカノコさんが……言っていたわよね、ここに来る前の、カルディアで。自分に嘘をつき続けるのが、何より辛いって。私はずっとそれを自分に強いてきたけど、……最近、色々あってね。(たが)が、緩んでしまったの。いえ――というより、狂ってきていた。だから――なにかの拍子で外れてしまったのね」


 そう言いながら、彼女は足下に積み上がっている肉片を、もう一度右手のハンマー(Sクラスアイテム)で潰し直した。


「だってもの凄く今、気持ちいいもの。こいつらを――あの方のために殺すことが、もの凄く快感で、とても充足感に満ちている」


「あの方?」


「あの方よ。分かっているでしょう?」


 分からない。先生(アブリル)にとってのあの方(、、、)とは、いったい誰のことを指すのか。


「ちなみに、最近私にあったいろいろを――あなたはどこまで知らされているのかしら? あの方と、あなたは、どういう関係なの?」


 シグルはなにも答えなかった。

 代わりに、横に立っていた兄が、別の問いをシグルに投げた。


「……こいつをどうしたい? どうすればいいか、教えてくれ」


「殺していい」


 シグルは端的に即答した。


「元々生かしておいたのは、彼女にフルグラであったことを帝国側にリークさせ、それにより帝国にアクションを起こさせる為だった」


 瞬間――アブリルの表情が驚愕に変わった。


「あ、あなた――え……? あなた……――」


「でもどうしてか、彼女はなにも帝国に情報をよこしてはくれなかったようだけれど。いずれにしてももう、用済みだ。むしろ秘密を握る人間がこのような精神状態であるというのは、危険でしかない」


 ――だから、殺していい。


「そうか、いいだろう」


 兄は次の瞬間、背中に巨大な鞘の束を出現させ、それを扇状に展開する。その鞘には幾千もの刃物が収納されており、それらの刃こそが列強種・ワイトの魔術であった。

 千刃魔術――過去幾星霜、全てのワイトたちが研鑽し収集した武具を共有・使用することができる魔術。


 そんな様子を前に、アブリルは、全てを悟ったように、虚ろに、そして色を取り戻し、声を荒げる。


「あ、あなた――が、まさか……そんな――お、お願いです――お願いします――我が敬愛するカイザー様! カイザー様! あなたは私のすべて! この身の全てを捧げます! あなたは私の生きる意味なのです! お願いします――私を――あなたの――」


 そうやって、彼女はシグルに許しを請うた。

 それまで決して口外することのなかった名前を、あの時以来初めてその口に出して――


 しかし――


「へえ……? カイザー……? それはいったい、どういうことなんだい?」


 皮肉なことに、その最初で最後の一回は、最悪なタイミングとなる。


 ゆらりと――


 それは突如として姿を現す――


「おかしいなあ――? カイザーって言ったら、あの逆賊の親玉の名前だろう? なぜ、それを、きみはそんなにも懸命に請うているんだい? なぜそいつを、その名で呼ぶ?」


 アブリルの――背後より、ノイズと共に、その姿を露見させた。


「もしかしてなんだけど、おまえたちみんな、裏切り者なのか?」


 黄金に縁取られた白いマントに包まれた、白金甲冑の男。

 いやに病的な鋭い瞳をぎらつかせた、その男。


「――――っ!? おまえは――!」


 間違いない。既に目星を付けていた、かのセブンスが一人――


 帝の慈悲・影劫(えいごう)のヘックス。


「おまえ……?」


 その男が、三日月形の刃の曲剣を両手に携え、敵意をむき出しにして、今――アブリルの左腕を肩から切断した。

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