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4の続きで七王国攻略開始となります。
また、ここで時系列的に幕間部とつながります。
数日後。
シグルは法悦王国ニーヴェの王宮殿――その謁見待機所にて自分たちに謁見の順番が回ってくるのを今か今かと待ち構えていた。
とはいっても、それを始めてからもうかれこれ二日が経過しようとしているが。
宮殿内にあるこの広い待機所は未だ多くの待ち人たちで溢れかえっている。
捌けては補充されて――捌けては補充されて――その繰り返しで常にすし詰めの状態がキープされている感じだ。
そしてそれ故に、自分たちよりも前の順番の待ち人があとどれくらい残っているのかがまるでさっぱり分からず、さながらゴール地点を知らされていない長距離マラソンを強いられているみたいで、はっきり言って拷問に等しい。
そういうわけなので、待機所内にも其相応の重苦しい空気が終始漂っているわけなのだが――
「すーはーすーはー! おいしー! くーきおいしー! 幸せ! 生きてるってほんっとーにっ素晴らしいことですねっ先輩っ! ねっ! ね!」
我が隣人はそんな空気にもお構いすることまるでなく、心底嬉しそうにしてそんな幸せの自己申告を二日間もずっと繰り返してきている。
まあ、気持ちは分かる。
なぜなら数日前まで、先生のストレス発散で地獄を見るはめになりそうだと皆で沈鬱にしていたわけなのだから。
そのピンチを、塔内ランクマッチにて相手チームを全員瀕死に追い込むという機転により脱却し、それによるペナルティで、現在は法悦王国にやって来ているというわけだった。
通常の塔の魔術師にとって、課外任務は紛うとなきペナルティで相違ないが、死の授業を受けずに済むシグルたちにとっては、ご褒美以外の何物でもない。
「ぶっちゃけ、今頃塔のみんなは地獄見てんのかと思うとメシウマすぎてお赤飯が炊けちゃいそうですよね!」
うひひと腹黒い笑みを浮かべるキョーカノコ。
いまいちなぜそれで赤飯が炊けるのかは理解に苦しむが。
「まーほんと、あの時の起死回生のアイディアには心底感謝だな、死の宣告シグル」
キョーカノコの奥の席にいるレイルの台詞にキョーカノコがブフッと吹き出す。
「ほんと、愛してますデビルズぶふっ! スマ……イル――ぷぷぷッ! ……さん」
「…………」
こいつらマジ憶えとけよ。
なぜかあの試合以来、即日で与えられてしまった二つ名である死の宣告であるが、その壊滅的センスによりすっかり彼らのオモチャにされてしまっている。
キョーカノコに限っては名前を呼ぶ途中で堪えきれずに二三度吹き出してしまうのが常である。
「まーまーそんな怒んないであげてくださいよせんぱーい。その二つ名の命名者であるロスゲラーさんも悪気は無かったんですって。ただ、あまりにも恐ろしすぎて、緊急治療室で息を吹き返した際に思わずいっちゃったんですよ。――『あれはまさしく、悪魔の微笑み――死の宣告に他ならなかった』って」
ロスゲラーというのはあのクリシュドールのリーダーのことで、つまりはシグルが試合で半殺しにした相手である。
聞くところによると、彼は今やすっかりレイゲントンゼミ生に恐れ入ってしまっているらしく、ことシグルに対してはもはやファンというか崇拝までしだしている始末であるとのこと。
実際のところ彼の言ったその二つ名も、高度な嫌がらせとかでは無く、普通に彼なりの最大の賛辞であり、最高にカッコいい二つ名をあげたかった――ということらしい。
「……あいつどういうネーミングセンスしてるんだよまじで」
「そ、そーぷぷっ……ですかぁ? きょ、キョーカ……キョーカ……キョーカぷぷぷぷっ! キョーカは好きですけど……その、デビル……、でび、でびるず……デビルズぷふぉおッ! だめだあああ!」
ダメなんじゃねえか!
いい加減にしろ!
「…………あなたたち、随分と仲がいいのね」
と、そんなところでシグルの左隣に座っていたその人――アブリル・ライラストリアスがポツリとコメントした。
「え、……ええ、まあ……」
シグルは露骨に距離をとったリアクションをしてしまう。
彼女はそれを不思議そうに――むしろ訝しむようにして、彼のことを見つめた。
「せんぱい、マスターアブリルのこと苦手なんですか?」
コソリと耳打ちしてくるキョーカノコに、仕方なくシグルは認めた。
「そ、そうなんだよ、まあ……なんか……なんとなくな」
「ははーん、なるほどですせんぱい。そういうことなんですね? なるほどです。ならば、キョーカに任せちゃってください! それとなくイイ感じで、せんぱいの気持ちをそこはかとなく醸してあげちゃいますよ!」
彼女はそう言って、片目を瞑って親指をシュビッと立てた。
それからアブリルに向かって溌剌と言う。
「先生! どうやらシグルせんぱい、先生のことが好きみたいです!」
えー。こいつ阿呆なの? 小学生なの?
アブリルは苦笑して、大人の笑みをみせる。
「あら……、そうなの? シグルくん、あなたとはたしか同い年よね。じゃあまずお友達からね。つい最近塔に戻ってきたばかりで、腹を割って話せる人もあまりいないし、是非きみには仲良くしてもらいたいわ」
そう言って、首をかしげ、長く美しいストレートの金髪をたなびかせる彼女は、実に美しかった。
でもそれだけに、綺麗であれば綺麗であるほど、常識人ぶっていればいるほど、シグルの眼にはより一層サイコパスに映ってしまう。
「わー先生ってば大人ですよねー。素敵だなー! 憧れちゃいます」
キョーカノコがそう感心して頷いているけど、騙されてはいけない。
この人こんな顔して常識人ぶっているけど、内心ではまじでただのサイコパスだから。
(全穴から脳汁ブッシャーされちゃう)
真剣にそう提案されたあの時のことが未だに忘れられない。
ぶっちゃけ人間不信になりかけたと言っても過言ではない。
どうしても彼女の声を聞くとあの提案を思い出すし、それはその麗しく純真そうな外見も相まっていたく悪魔的なものにシグルには感じられた。
「え、ええ……是非、仲良くしていただけると……」
シグルは引きつった笑みでそう答える。
仲良くしたいのは本心である。
だって、できるだけこのサイコパスは敵に回したくない。
何されるかわかんないから。
けど距離も間違いなく置いておきたい。
そう、何されるかわかんないから。
なんとも難しい立ち位置である。
(それにしても、今回の任務にこの人までついてくるってのは、完全に誤算だったな……)
内心でため息をつく。
アブリルはこの任務における共同遂行者である。
本来、あまり課外任務で他のゼミ生と(教諭は言う迄も無い)一緒になることは無いのだが、彼女が着任間もないことと、まだゼミ生を持っていないことが災いして、此度随伴されることになった。
あと歳が近いこととかも関係しているのかもしれない。
(ブッシャーさんの本質がサイコパスであることを除いても、彼女がいるだけでかなりやりづらくなった)
そもそも今回の課外任務での訪問国が法悦王国ニーヴェであるというのは、偶然にみせてはいるが、実は完全にシグルの策略によるものだ。
ここには来るべくして、来ている。
そしてその目的は勿論――この国を我が国の臣従国とする為だ。即ち侵略計画の一環なのだ。
だからそう言う意味でも、少なからずカイザーとの接点を過去に持っている彼女が付いて回るというのは、かなりのリスクである。
(やっぱりあの時殺しておくべきだったかな? ……もしくは、住民同様にあの国から一歩も出させないようにするとか)
そうすれば今ここに彼女の姿は無かっただろう。
シグルは沈鬱に天井を眺める。
そしてすぐに首を振った。
(いけないな……こういう思考は)
近ごろ、自分について家族とは別の意味での危うさを、シグルは感じていた。
(みんなは人外種であるから、ある意味で本能による、然るべき残酷性なんだけど、俺の場合は――)
完全に打算によるものだ。
損得で、人の生き死にを決断している。
別にそれが悪いことだとは思わないし、今さら良い子ぶる気もさらさら無いけど、でも少なからず以前の自分には無かった一つの変化ではあるし、そのことは認めておかねば。
シグルは家族の近ごろの変化に戸惑いを憶えている。
少なからず、過去の彼らならば望まぬようなことは、今の彼らにも(たとえ今の彼らが望んでいたとしても)極力させたくない――と、そうも考えてもいる。
その為に、自分だけが泥を被ろうという覚悟もある。
理性を保つのは、唯一人間である自分の役目であると――そう思うから。
――『自分に優しく生きれば良いんですよ』
いつかのキョーカノコのアドバイスが降ってくる。
結局、人間は常に理想どおりに、とはいかないものだ。
理想と現実が相反するとき、その都度、柔軟にその時だけのラインを定めていくしか、方法はないのかもしれない。
そんなことを考えているうちに、とうとう、
「次――おまえたちの番だ。中に入れ」
宮殿の侍者がシグル達にそう告げた。
シグル達は立ち上がり、いよいよ王の自室に入っていく。
今回の任務は、法悦王国ニーヴェの国王、直々のものだ。
内容は――そう、きっと。
週末なのに風邪ひいてしまって頭が重かったり鼻水止まんなかったり
本日中にもしかすると続きあげるかもしんないし無理かもしんないし




