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没落貴族だけど転生したら最強モンスター一家になっていたので世界を相手取ります  作者: ガラムマサラ
第一部 グリフォンブラッド家の侵攻 ―――新生覇王国創起 編
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 魔術師教育機関はこの世界に一つだけであり、それは帝国臣従国がひとつ『アンダルシア女王国』内に魔術師連盟本部も兼ねて置かれており、『円卓の塔(学園)』と呼ばれている。


 シグルは四年前より、この学園に通っていた。


「おっ……あれってドラゴン少年じゃん?」

「あーまじだ。アレだろ? 列強種のドラゴンに育てられたって言い張ってるっていう」

「そーそーぷぷっ。まーじウケるよなあ? ドラゴンだってよ。本当は象なのになあ?」

「象? 象ってあの鼻の長い、草食の? それをドラゴンにするとか話盛りすぎだろさすがに」

「まーまーそう言ってやんなよ。生まれはどうあれ、今ではまんまと、あの『混沌の魔女(ケイオスウィッチ)』や『這い寄る絶望(ウィーピングハウル)』と姉弟の契りを結んでんだぜ?」

「は? あの学園最強最悪姉妹とか? 最優秀ゼミのレイゲントンゼミのあの二人か?」

「そうそうその二人。で、そのコネで今ではドラゴン少年もそのゼミにいちゃうわけよ。たーいした才能もないくせにさあー?」

「まじでー!? そんなコネとかが成り立っちまうわけ? たしかそいつって『精神干渉テレパシー』魔術しか扱えないんじゃなかったか? あの最弱で糞の役にも立たないっていう」

「よく知ってんじゃん。その通りよ。そんなんしか使えないドラゴンくんでもコネがあれば入れちまうわけよ、最優秀ゼミにな。やってらんねーよなまじ」

「まったくだな」


 そんなことをわざとらしくも大声で話しながら、男二人が廊下の掲示板を見ていたシグルの横を通り過ぎていく。

 シグルが彼らをウンザリと横目に見ると、それに気付いた二人は気持ちよさげに歪に笑った。


「くくく、森に帰れよ能無しがぁ」


 シグルはそう言う二人の背中を無言で見送った。


 慣れっこである。

 今さらだ。


 謎のプライド社会。

 学園といえど、ここに来るような奴らはそれだけでかなりの数から選りすぐられているし、ここを卒業すれば漏れ無く『世界の監視者』と呼ばれる魔術師連盟所属の『円卓の魔術師』の仲間入りだ。

 そういうエリート意識で雁字搦めにされてしまっているような奴ばかりなのだ。


 故にエリートにふさわしくない――というか、付け入る隙のある自身より高い評価を得ている者は、格好の餌食にされる。


 そういうわけだから、


(森育ちの俺なんてまさしく格好の的だよな)


 いつの間にか知れ渡ってしまっている出生の秘密。

 まあかなり改変されてしまっているけど。


 ドラゴン(飛竜)じゃなくて龍族であるし、

 象じゃなくて象龍カイザーだし、

 草食動物じゃなくて、彼は伝説種族に育てられたのである。


「言ってやりゃあいいのに。象違いだぞって」


 ふと、いつの間にやら目の前に来ていた長髪の端正な顔立ちの男にそう言われる。


「そーそー。先輩っていっつも言われっぱなし。よく我慢出来ますよねー? キョーカなら間違いなく秒でキレちゃってますよ! 秒で!」


 今度はその隣から小柄な緋色髪のツインテールの少女が怒り顔でそう顔を出した。


 同じゼミ――つまりこの学園で最優秀の生徒が登録されるというレイゲントンゼミ所属であり、寮のルームメイトでもあるレイル・ガイルとキョーカノコ・ロリ=ポップだ。


 彼らとは学園入学以来の仲であり、今ではあの『レイゲントンゼミ(地獄)』を共に生き抜いている同士とすら認識し合っている仲だ。

 それだけに、彼らには龍に偶然育てられたという経歴ネタは、自身の口から過去に話してしまっている。


 さすがにそれ以上のことは、口が裂けても、これ以上どんなに距離が縮まったとしても、言うことはないけれど。




「あの手の輩には、真実は意味を成さないんだよ」


 シグルはそう言って肩をすくめる。


「そーですねー、たしかに、あの水準の嫉妬豚ともなると、どうせ信じてはくれなさそうですよね。なのでやっぱりシメちゃうのが一番なんですよシメちゃうのが。やっちゃいましょ? なんだったらキョーカがやってあげちゃいますよ? 秒で」


 ギラギラと歪んだ炎を燃やしながらキョーカノコはニヤツク。

 彼女はシグルたちより二つ年下ではあるが、魔術師としての才はかなり抜きんでている。なので、実際彼女がその気になれば、本当に秒で片付いてしまうだろう。


「だいたい、腹立つんですよねーああいう奴ら! こっちの気も知らないで……! キョーカたちがどんだけ毎日地獄を見ているのか……アイツらは知らないんですよ! それでほんと好き勝手言ってくれちゃってさー! もう……ほんと、昨日の実習なんて思い出すだけで……オボボボ」


 昨日の悪夢(授業)を思い出した直後、唐突に廊下のくず入れの中にリバースを始めるキョーカノコ。

 不憫すぎる。が、仕方がない。それくらいうちのゼミはキツい。


 彼女の背中をさすって介抱してやりながら、シグルも貰いゲロを頑張って飲み込む。


「まー実際、ほんと、最高峰のゼミとか言われてっけど、実際ただの半死体量産場だからな、うちのゼミって。むしろ気を緩めると本当に死ぬし、死にたくなかったら死ぬ気でやるしかないというどのみち死しか待ってない教育現場(デスマーチ)だ。出来ることならオレは今すぐ抜けたいね、まじ。アイツ言ってくれればオレが替わってやるのに」


 横でキョーカノコがゲッソリとしながら「キョーカは成り上がりたいので苦しくても頑張るつもりですけど」と呟いた。


 まあみんな、それぞれの意思と都合で学園に通っている。


 そしてそれはもちろん、シグルも同じだった。


 彼がここにいる意味は――

 大きく二つ。


 自衛手段の確立と、

 作戦遂行に必要な情報の取得のため。




 シグルは二人のやり取りを横目に黙って掲示板に視線を戻した。


 掲示板には、明日の晩の、フルグラ王国国王のアンダルシア女王国への来国についての通達が張りだされている。


 明日は、アンダルシア女王国女王の十八回目の誕生日であり、その祝賀祭が夜に町で開かれることになっている。


 アンダルシア女王国は、魔術師連盟本部でもある『円卓の塔(学園)』が置かれていることからも分かるように、帝国内でもそれなりの中枢的役割を果たしている。

 故に、その祝賀祭には、帝位継承権を持つ王が一人、フルグラ王国国王がはるばる足を運んでくれるというわけだ。


 シグルは明日、これに乗じて、エルフ・ド・ユグドゥルサイム統合帝国への侵略を開始する。


 つまり、自国を出立し、この国にやってくるというかの国王――ラヴィナス・アルタマイサ・アスガルド=フルグラを殺害する。



 エルフ・ド・ユグドゥルサイム統合帝国は皇帝の治める帝国本国と、その帝位継承権を持つ七人の王が治める七つの王国、さらにそれに臣従する数多の小国にて成り立っている。

 フルグラは七王国の一つであり、アンダルシアはそのフルグラの臣従国だ。


「七王国の国王がわざわざ来るというのだから、当然護衛をうちから送るよな? 誰が行くんだろ? うちのゼミには声はかかっていないはず」


 学園は教育機関でもあるが、連盟本部でもある。そしてゼミに属する生徒はおしなべて上位の魔術師でもある為、たびたび、通達を受けては仕事にかり出されることになる。


 シグルの問いに、レイルは頷いた。


「うちのあの糞ババア(レイゲントン)はなにかと物臭だからな。そういう仕事を避けんのは得意なんだ。まあ、さしずめ……真面目どころのカエサルゼミとか、そこらじゃないのか?」

「いい読みですねえ。カエサルゼミで当たってますよ。キョーカさっき偶然友達からそんな話を耳にしました」


 ニヤリとし情報通を気取るキョーカノコに、レイルはポツリと言い落とす。


「おまえ……、友達いたのか」

「はあぁっ!? なに言ってんですかいますよ失礼ですね! 今の情報だってトイレでたくさん

その友達から聞いたんですから!」

「なるほど、個室にこもってキバっていたら、偶然外での話声が聞こえてしまったというわけなんだな?」

「は、はあ!? 違いますし! そもそもキバってなんかなかったですし! ただのおしっこの方でしたし!」

「小便ってことはやっぱおまえ、個室にいて盗み聞いてたんじゃねえか……。可哀想にな」

「あ、哀れまないでくださいよ! 本当に友達くらい、い、いますから……その、たくさん……ぐすん」

「泣くなよ、オレ達がいるだろ?」

「せ、せんぱい…………! そ、そうですよね、キョーカには先輩たちがいますよね! 同学年に友達が全くいなくたって別に気にする必要ぜんぜんないですよね!」

「お、おう…………やっぱいな……――まあ、いい、そうだ、その通りだ。分かったなら今すぐダッシュで焼きそばパン買ってこい」

「はいせんぱい!」


 まじでそのまま購買の方に走って行くキョーカノコ。

 その背中を見送りながら、そして「アイツはあれで将来大丈夫なのか……?」と不安を漏らしつつも満足げにこちらに振り返るレイルの笑みを眺めつつ、シグルは頭の中で全く別のことに考えを巡らせていた。


 カエサルゼミについて。

 本日の国王の護衛を務める魔術師はカエサルゼミからの生徒であるらしい。


(カエサルと言えば、たしか……)


 自身の脳内のデータベースから、そのゼミについての記憶を洗い出そうとする――と、


CQCクロースクォーターズコンバットを専門にするゼミのひとつだったかな、たしか」


 レイルがこちらの心を読んだかのように、そう情報を寄こした。

 こいつのこういう察しの良さは、隠し事のある身としては少しだけ怖い。


 でもまあ、情報は助かった。


(CQCのゼミか……)


「然程のレベルじゃあねえさ。カエサルはな」


 淡泊に、当たり前の事実という風に、レイルはそう言う。


「あと、ちなみに……」


 そしてこうも最後に付け加えた。


「先ほどの嫉妬豚だっけか? キョーカノコ曰く。……あの二人、アイツらも……そうだったな、たしか」


 いたずらっぽく、油断すると男でも惚れてしまいそうなほどの男前な笑みで、彼は告げる。


「あいつらも、その大したことないカエサルゼミの生徒だ」


 シグルは肩をすくめておく。


「なるほどね」


 仕事が多少、楽になりそうな気がした。

本日あと一話あげます!

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