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没落貴族だけど転生したら最強モンスター一家になっていたので世界を相手取ります  作者: ガラムマサラ
第一部 グリフォンブラッド家の侵攻 ―――新生覇王国創起 編
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 この国の総火力が、一瞬で消し炭にされた。

 そして――


「あ――」


 今度は王を取り巻く全ての者達が石に変わり、爆砕する。

 やがて最後に、王も頭部を除いて全てが石となり、肢体から順番に爆砕されていく。


「いってぇああ! なぜだあああなぜいたいいい!? 石なのに、石になっているのにくだけるとなぜ痛いいああ!?」


『石に変えても神経は残っている。それは石になっているだけのあなたの身体。痛くて当然です』


 カイザーの左方に侍るヘビ柄のタトゥの女は冷徹に告げる。

 そうして王の頭を残して他の全てのパーツを粉砕した。


「いってえええええしぬううううなぜ死なねえええ! 首しかないのになぜ生きているんだアアああ!」


 床を転がる王の頭部が泣き叫びながら、目のあったアブリルに助けを請うてくる。


「助けてくれれええええ救ってくれえええええ! もういやだあああ痛いいたいいたいよおおお殺してもう死なせてえええ! 止めを刺してくれえええたのむたのむ」


『女――』


 すると、信じられないことに、カイザーが、アブリルに対して声をかけてくる。


「――!? は!」


『どうしたい? 先ほどの見事の拝礼に酬い、おまえの希望の通りにしてもいい』


 面を上げよ、という許しでアブリルは顔を上げ幻視上のカイザーを見上げる。目と目が合う。至福の、至極の時間だった。


 しかしやはり、隣に立っている女は、なにか殺気めいたものを向けてきているが。


「はい――そうですね」


 アブリルは自身ではなく、カイザーを中心に思案した。彼が喜び、彼の役立ち、そしてアブリルのことが記憶に焼き付く――そんな提案を必死に考えた。


 やがて告げる。


「もし可能であれば――なのですが、」


『良い。言ってみよ』


「――は。ありがたき幸せ。

 ……可能であれば、この者には、これより死よりもつらい苦痛を絶えず与え続けたく思います。

 例えば、頭蓋を徐々に押し潰していき、ヒビ割り、めり込ませ、ドリルで穴も開けつつ、あと開けた穴に管を刺して脳汁を垂れ流させたり、あっ、その一方で眼球を取り出して、眼窩を棒でかきまわし、更に歯も一本ずつ抜いていきましょう。あと、耳の穴にも長い針を刺して、脳まで貫通させて、管を刺しやっぱり脳汁を流させます。ああ、そうですね、ついでなので目と鼻からも脳へ貫通させましょう。想像してみてください、すべての穴から脳汁を垂れ流しながら拷問を受けるその様を――! これは忘れられない思い出になるでしょうね、間違いありません。

 これを三日三晩続け、最後の夜にとうとう命を絶ち、死の恐怖を与えて締めくくりとします」


『……ほ、ほう。……つまり、三日三晩いたぶって殺すというわけだな』


「まさしく。それですぐに蘇生します」


『え、生き返らせちゃうの?』


「はい、死の蘇生が可能なのであれば、ですが。そしてもう一度、先ほどの通りに死までの工程を行います。もう一度三日三晩をかけて殺し、更に生き返らせ、それを繰り返します。そうすることで、永遠の苦しみを与えつつ、精神を上手に破壊でき、最終的には傀儡として飼い慣らすことも可能になるかもしれません」


 アブリルはそこまでを滔々と説明し終え、それからたしかな手応えとともに相手の反応を確認すべく顔を上げる。


(ふふふ冷酷非道でありながらしかし有効活用の可能性を忘れる事無く、且つそこはかとないエンタメ性も兼ね備えている高インパクトな提案! 完璧! 我ながら完璧よアブリル偉いわよくやったわ!)


 自画自讃で笑顔を輝かせて、ドヤっとカイザーを見る。


『お、おう……』


 しかしカイザーは唖然としていた。


(なんかめっちゃ引いちゃってないっ!!??)


 うそでしょ? どうして? 相手のニーズを完全に掴んだパーフェクトな回答であったはず。

 なのにどうして――


 カイザーは(本人は全力でそれを隠そうとしているようだが)なに言ってんだこいつとばかりに完全にドン引きしていて、やべえなんて返事しよう……みたいなことを必死に考えているのが丸わかりな雰囲気をすごいまとっていた。

 仮面を付けているので、表情はわからないのだけれど、たぶんそんな感じであっているのだと思う。


(どういうことなの!? いったい私は何をミスったというの!?)


『ま、まあ……そうだな。うん、趣味嗜好はひとそれぞれだしな、うん、……まあ、良いと思うぞ』


 挙句の果てにそんな、妙な気遣いの垣間見えるリアクションをされてしまう始末。


(くっ! ……なんてこと! こんな一世一代のチャンスをこの私がしくじるなんて……! さすがは私のカイザー様ね! 一筋縄ではいかないわ!)


 そうして、アブリルは恍惚の表情で、悔しげに地面を叩いていた。



 ※※※



 ゾンビ(カイザー)は城の中で頬杖をつきながら、『アビシニの泥鏡』に映されているなぜだか激しく悔しがっている神殿魔術師(アブリル)を眺めて、

(あの子ってこんな感じの女子だったっけ?)

 ということを考えていた。


 確実に違った気がするけど。

 あの艦内で戦ったときには、とても真面目で人道的である印象を受けたから、今回もきっと、「命だけは助けてあげてください!」みたいな御涙頂戴なお話しが聞けるのかと期待して話を振ったのに。


(それがまさかあんなスプラッターな提案されるとか予想できねえよ)


 なんだよ全穴から脳汁って。わけわかんねーよ。


 シグルは正直いって、どんどん人格までも人外修正されていってしまっている家族に戸惑いを隠せなくなってきていた。

 みんな心底殺人を楽しみ始めている節がある。

 それでもみんな愛すべき家族であるので、そうなった今でも間違いなく変わらず彼らを愛しているわけなのだが、しかしそれでもたまには人間らしい感性というか情に触れたくなるときだってある。


(うーん、でも案外人間なんてみんな他人には残酷なものなのかなー?)


 あの真面目そうだった人間の魔術師があんなこと言っちゃう世の中だし。

 いや、でも、それでも――自分は最後まで、少なくとも自分の中でだけでは、自分の思い描く人間らしさを大切にし、見限ることのないように生きたいなと、シグルは密かに想った。


 ヘレナがそこでアビシニの泥鏡を一時的にオフにする。

 アビシニの泥鏡はオスクロンの水玉とペアでゲットしたS+クラスの迷宮アイテムで、音のみのやり取りに用途が限定される水玉と異なり、映像をも通信することが可能だ。

 しかしその分、水玉ほどの携帯性が泥鏡にはなく、重量のある可視の分岐体(子機)を相手側にも運ぶ必要があり、いささか面倒ではある。

 今回も、使用に際し、向こうの広場に分岐体をわざわざ運び込む手間をかけている。


「……お兄様」


 そんな泥鏡の通信を一旦切り、ヘレナはこちらに振り返ると、瞳を閉じ、眉間にしわを寄せ、痛み入るようにして言った。


「なんなのでしょうか……今の人間の女の言った、あの提案は……」


 ああ、そのことかとシグルは思った。


「すごかったよな」


 すごく、ヒドかった。

 でもこの感想を今の家族とも言い合えることをシグルは内心とても嬉しくおも


「ええとっても、すごく素晴らしかったですっ!!」


 ――いかけていたけれども、やっぱりそうだよね、勘違いだよね。


「あの女! いけ好かなく感じていましたけれど、アイディアだけは評価してあげても良いです! すごい! 脳汁です! 全部の穴から脳汁を垂れ流すのですよお兄様!」


「あ、ああ……そうだな、そう言っていたな」


「あぁ……、もう、考えるだけで……たまらないですお兄様ぁ。わたくし……もう、だめぇ……」


 ウットリとして、絶頂寸前の吐息を漏らしている妹。

 かつて彼女は、そうまだ人間だった頃、怪我をしている動物を見れば、慌てふためき家に連れて行き、親からお叱りを受けようとも頑として完治するまで見捨てる事無く、看病を続け、その子を森に返す際には毎度決まって麗しい涙を流すという――そういう女の子だった。


「興奮して、むしろわたくしが脳汁出ちゃいそうですわあ」


 なのに今では脳汁を流す始末。


「はあ……」


 シグルは深い深いため息を吐いた。

 でも、頑張れ。そうだ、どんな風になってしまっても、彼女は我が愛すべき家族であるのだから。


(我が親愛なる家族が安心して生きていける世界を俺が作ろう)


 そしてなにより――


(俺の大切なみんなをこんな風にした――その罪を償わせてやるんだ)


 シグルは今だ恍惚としているヘレナに泥鏡を起動させるように指示を出す。


 再び映し出されるその美しい水上都市――

 この街を、|その(、、)第一歩とするのだ。


「みなさん――フルグラ王国国民のみなさん。五分待っていただけるでしょうか、国内の掃除を行います(王族を皆殺しにする)ゆえ。そしてその後で、みなさんにはこの国の今後について、お話ししておきたいことがあります」



 ※※※



 アブリルはやがてカイザーの口から語られたその(国の方針)に驚愕した。


 曰く、


この国(フルグラ王国)に巣くう王族をすべて駆除した後は、この国は我々――鷲獅子の緋眼国の臣従国となっていただきます。

 ただし、臣従とは言っても、我々は基本的にこの国の運営に積極的に関わっていくことはしません。我々が大きく与するのはこの国の国防に関することに限られ、こと国の運営に関しては、おおよそ皆様の手にゆだねたいと考えています。

 運営形態については、代表民主制をとると良いでしょう。そしてその中からさらに一人、我々とのコンタクトをとる代表者を選んでください。我々は原則、その代表者とのやり取りのみでこの国のことを知っていくことになります。

 ただし、我々にあからさまに相反する政策意図を持つ者は代表としてはふさわしくなく、当然そのような者は代表とはなり得ません。その最低限のラインすら守れない場合は、我々もやむなく政治に乗り出す可能性のあることは知っておいてください』


「な……――ならば、つまりおまえたちは……、この国を一方的に護るだけ護って、あとは何もしないと……? 何も見返りを求めないと……?そういうことなのか?」


 広場にいる数多の国民――その中の一人が唖然としてそう訊いた。

 シグルは首を振るう。


『この国を我が国の臣従国にするという行為には、たしかな見返りが我々には存在しています。なので見返りを求めていないというのは誤りでしょう。

 それに、我々は当然ながら、他にいくつかの制限をあなた方には課す気でおります。

 そしてその制限は主に、外交面に課されることになるでしょう。

 この国は代表民主制をとりますが、それで決定される政策はおしなべて例外なく、この国の内部のことに限らせていただきます。

 貿易をはじめとする国際交渉を我々は一切あなた方に認める気はありません。もちろん移住や観光による人民の行き来――その一切を許可しません。この国の領土から出ることも許しません。

 それでもいくつか、やむを得ない理由により、国外とのやり取りが必要となった場合には、先ほど言った代表を通し、我々にその都度許しを請うてください。我々は状況により、許可したり拒否したりするでしょう」


 そこまで話し終え、シグルは『以上です』と締めくくった。


「代表……? 民主……?」


 沈黙の中で、やがてそのような声がちらほらと出始める。


「民が……主……? つまり好きに……できるのか……? 言いなりではなく……オレ達が国を動かして良いのか……?」


 それは徐々に徐々に、肯定的なものへと変わっていく。


「うぉおおおおおおおおおおお! カイザー様ああぁあああ! カイザー様、様々だぁあああ! やったぜええええ!」


 歓声に変わり、

 そしてこの瞬間、この国はたしかに、鷲獅子の緋眼国の臣従国となった。

評価・ブックマークしてくださっている方、読みに来てくださっている方、みんなありがとう。

総合ptが100超えました。

皆さんのおかげです。ささやかではありますが、一つの区切りとして、ひそかに嬉しく思っております。


次はブックマーク100を目標にして、頑張っていけたら…いいな。


次回で一章が完結予定です。

二章はすこし短めの、学園内に焦点を置いた話にしてみようかなあって思っています。とりあえず二章までは頑張る所存です。

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