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没落貴族だけど転生したら最強モンスター一家になっていたので世界を相手取ります  作者: ガラムマサラ
第一部 グリフォンブラッド家の侵攻 ―――新生覇王国創起 編
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『正面切って宣戦布告する――!? って、どういうことなの!』


 キリングザードの城の前。

 そこにて家族にシグルの考えた旨を話した。


 目の前にいる六名――からは反応がなかったが、『オスクロンの水玉』を通して話を聞いていた、ここにはいないザラスが狂乱の声を放った。


 オスクロンの水玉は、S(シングルプラス)クラスの迷宮アイテムであり、その名の通り水でできた球体である。ただし黒いタールのような質感をしており、それに触れた者は使用登録者となる。

 登録者はその後、絶えず耳元に水玉の分岐体(登録者以外には不可視)を浮かべ、連れ回すことができ、その分岐体を通して、親元の水玉や他の分岐体を持つ者と秘匿で会話することが可能だ。

 グリフォンブラッド家は、皆これの登録者となっており、いついかなる所でも、会話にて通信することが可能だ。


 なので、今回のような重要な案件以外のことでは、この水玉を使用している。

 ザラスは帝国にて重大なポジションに就いているので、そうそうこの場所に来ることはない。


「そのまんまだ。俺が龍屍で姿を晒し、新興国の設立を宣言する。その上で、正々堂々、宣戦布告をするんだ」


『なんで!? 計画ではそれはまだまだ後の段階であったはず!』


「まあ……そうなんだけどね、さっきも言ったように、隠滅不可能の証言者をだしてしまったこともあって……、考えを改めた」


「それだけですか?」


 今度はその場にいた、赤い眼と小さくはみ出た牙、それに青白い肌が印象的な美しい少女――ヘレナ(三女)が一歩こちらに歩み出て、敬けんな眼差しとともに問うた。

 身体には露出度の高い薄手の衣をまとっており、ところどころから見える肌には、蛇が巻き付いているかのようなアザが刻まれている。


 彼女が転生したのは――列強種族である蛇女(メドゥーサ)なのだ。


「わたくしは、お兄様がそうしたいと仰るのであれば、それがどのような内容であろうと黙ってついていきたいと思っています。それに、今回の旨は、実にお兄様らしい、晴れやかなお考えであるので、尚更です。わたくしはそのように計画を改めようとするお兄様を心より支持いたします」


 赤い瞳――その中でうごめく爬虫類の鋭い瞳孔が、こちらに向けてギラリと光った。


「しかし――、どこか、においます」


「に、臭う……?」


「ええ、臭いがします。だってあまりにも、急すぎますもの。お兄様はずっと前から、面子よりも勝率をとることを選択しており、そのように計画し、そして数日前もそのようにわたくしたちにお話しくださいました。なのに――! この変わりよう! おわかりですか? この意味が」


「いや、わからないんだが……」


「女の臭いがすると言っているのですよッッッ!!!!」


 前で問いただされているシグルは勿論のこと、彼女を取り巻く家族全員が、一歩退いていた。

 そんな中で、半ばヒステリー気味にそれを叫び、鬼の形相でヘレナはシグル(龍屍)に掴みかかった。そのまま押し倒し、涙をこぼしながら両手の腹で何度も叩いてくる。


 蛇女の腕力はこう見えて、列強種の中でもトップクラスであるので、かなり痛い。けっこう普通に死ねる。

 シグルは龍屍のリンク度をそっと下げた。屍は精神をリンクさせて動かしているいるため、リンク度を上げれば其の分高水準での操作が可能だ。――が、逆にその分だけ、ダメージも痛くなる。

 屍がダメージを受ければ、シグルも精神にダメージを受けるし、その許容量を超えれば、精神破壊を起こすこともあり得る。


「お兄様のバカあああ! 誰ですか!? いったい誰に何を言われたのですかああ! お兄様をそんな風にたらし込んだのはいったいどこのどいつなんですかああ! 女!? さては女ですね!? わたくしが――ヘレナがその役をやりたかったアアあああ! うわああああん!」


 泣き叫びながら、その拳の威力もより増長していっている。


 死ぬ。

 普通に死ぬ。


 ヘレナは転生前はもっとありふれた、お淑やかなお兄ちゃんっ子だったのだが、蛇女に転生したことの影響か、今ではこのような極度のヤンデレ妹みたいになってしまっている。


 しかも蛇女という種は、列強種の中でもかなり上位にランクされる種族であり、筋力値も総じて高い。そのため、暴れだすと誰も手を付けられなくなりがちだ。


 ――が、このままではいけないと思ったのか、ようやく他の家族が三人係で抑えこみ、引き剥がしてくれた。


「うわああああああ! お兄様のバカあああ! 殺す! 絶対にその女殺してやりますからああ! 見つけだして、ギタギタのグチャグチャに――肉片に変えてやるんですからアアああ!」


 運ばれていくヘレナは、徐々に遠くなっていく声でそんな末恐ろしいことを泣き叫んでいた。


 唖然とする一同。やや気重い空気が全体を包んだ。


『……はあ。で、どうなの?』


 しばらくして、ため息とともにザラスが訊いてくる。


「なにがだよ?」


『なんで気を変えたの? やっぱりヘレナの言うとおり、誰かになんかいわれたの?』


 頭の中で、キョーカノコの顔を思い出す。


「いや、ただ本当に、一人殺り損ねたことが原因だよ。それに、コソコソすんのは、性に合わないなって」


『……ふうん、まあ、いいわ。それにヘレナも言ってたけど、あたしもそっちの方が、あんたっぽいし、あとあたし達っぽいとも思う。前までのあんたは――どこか、あたし達のことを慮りすぎているっていうか、大切に扱いすぎてる感じあったわよね』


「そか」


 ――せんぱいは自分に優しく生きるべきです。


 後輩のアドバイスも、ホントに、なかなか捨てたものではないのかもしれない。


「俺もイーぜ? むしろ気に入った! ガハハ! やっぱ男はそうでなくっちゃいけねえな? 正面衝突! けっこうじゃねえか!」


 青いオーラと黒い甲冑を身にまとった、やはり黒い巨大な骸骨が大口を開けてそう支持する。

 ワイト(骸骨)――長男である。

 ヘレナを部屋に連れ帰り、戻ってきた口でそうシグルの案を支持した。


「そうすると、多勢に無勢でかなり厳しいことになるかもだけど」


「望むところだ」


 他の皆も同様であるようだ。


 計画の変更について、意義はないようだ。


「よし――なら、今日より俺たちは、ここ(キリングザード)を国土とする新国家の樹立を宣言しよう。フルグラ王を殺したのは我らであることを土産に、宣戦布告をする。これより、全国放送で――」


 この世界に個別通信というものは存在していないが、全方位発信は別だ。スピーカー型の量産型アイテムが存在し、それにより、全土に向けて声を拡張させることが可能となっている。

 故に、帝国はたびたびこのスピーカーを用いて、国の声を国民に届けている。


『――――聞け! エルフ・ド・ユグドゥルサイム統合帝国七王国がひとつ、フルグラ王国王子、カインリッヒ・アルタマイサ・アスガルド=フルグラがおまえたち(我が国民)に告げる!』


 そしてそれによる音声が、その時に調度世界に響き渡り、キリングザードにも届いていた。


 今は亡き、フルグラ王の子の声は、続いてこう言う。


『我が父――ラヴィナス・アルタマイサ・アスガルド=フルグラ王が殺された! 暗殺されたのだ! それはあまりにも不敬――正面から戦えば我が国の王が負けるはずはない! そう、暗殺だ! 毒殺である! そしてそれをやった大罪人の名は――』


「――――!?」


 死を偽造すること自体は予想できていた。しかし、次に出てきたその名前には、正直意表を突かれた。


 その声は言う。


『父を卑怯にも毒で殺めたのは――神殿魔術師アブリル・ライラストリアスだ! 許されぬ! あまりに許されぬ罪! 故に! 我々は、きたる次の夜に、この者の公開処刑を執り行うこととするッ!』

本日分以上です。お付き合いいただきありがとうございました。

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