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 専門学校での生活は思いの外充実していた。

 多少は都会に出ることになったものの、目指す職業柄化粧っ気のない女の子もそれなりにいた。派手な子は授業を終えた後で化粧や買い物等を楽しんだりもしていたが、別に無理に付き合う必要もない。


 時折派手なグループの子が那智を合コンに誘ったりしたが、いつもやんわりと断った。那智は相変わらず化粧もせず、お洒落もしなかったので、それを「勿体ない」と言われることもあったが……それが殊更に嫌悪するほどのことでもないと、もう理解していた。

 誰も自分の行動を必要以上に縛ったりはしないのだ。


 変わるのがきっと怖かったのだ、と那智は思う。いや、流されてしまうのが、と言うべきか。


 目立つ容姿の彼女も、特には目立つことはない。容姿を気にしている子はいくらでもいて、相応に努力をしていた。制服を脱いだ今、那智はただの地味な女の子だ。

 時は流れていくけれど、自分が変わらなければ変わらないことはある。

 やりたいことも、気持ちも変わってなどいない。……ただ那智は、それだけの世界で生きているわけではなかった。



 ──くじらは自衛官になった。



『自衛官』は一般に想像される自衛隊員とは少し異なる。詳細は省くが、『自衛官』は任期の決まった自衛隊員であり、その任期は長くても約3年程度。その間に昇級試験を受けることで、一般に想像されるような終身雇用制の自衛隊員となる。



 那智は結局くじらに何も聞くことができなかった。

 ただ、父の話から察するに、夏休みの直前にいなくなってから戻ったときにはもう決めていたのだろう。

 くじらがどういうつもりでその道を選んだのか、そのまま自衛隊員として働き続ける気なのかもわからないままだ。




「なっちゃんは、卒業したらどうするの?」


 仲良くなった友人の文香と帰りにお茶をしていた時、そんな話題になった。


「うん……今のバイト先で働きながら……」


 その先に続く言葉はない。


「……また考える、のかな」

「そっか。 なかなか難しいよね~、あ~あ、家がお店なら良かったのになぁ……」


 文香はそうぼやいていた。

 くじらの先もわからないが、那智は自分のこの先も、未だ模索中の身だ。


 あの店は那智の店でも家でもない。


 なにかしら自分の、自分だけの方法であの場所にいるにはどうしたらいいだろうか。



 あの日、くじらは『責任を持てない』と那智に言った。

 あれはどんな意味で、どんな風に何を見ていたのかを那智は時折考えた。きっとくじらは自分が思っているより……自分よりも遥かに大人だったのだろう。漠然と、そんな風に思いながら。



「文ちゃん家は農家だっけ」

「うん、卵の。 『ネット通販やりたいから商品開発しろ』とか、いい加減なことを兄貴に言われてる……でもプリンとかありきたりじゃない? パティシエコースな訳でもないしさぁ……」

「まあねぇ……でも、商品開発か……」


 なんとなく、アリな気がした。




 そこから那智は色々試してみた。

 お土産になるような物を作り、販売させて貰おうと考えたのだ。レジの横に置かせて貰う程度だが、上手くいけばこの店の名物にすることができる。


 マスターもママも賛成してくれた。那智が『くじら』を愛しているように、ふたりも那智を娘のように可愛がっている。

 だからこそ簡単に『くじら』を継がせるなんていい加減な約束はできない。

 那智が専門学校を卒業してもここでやるべきことがあるのなら、それには手を貸す……ふたりにとってもこんなに嬉しいことはない。




 ──だからと言って那智が作った商品が簡単に名物になる程、世の中は甘くはないのだが。


 それでも那智は目的を見つけ、その手段の為にお金を稼ぐ事を覚えた。それは少しだけ大人になるということだった。

 世界は砂糖菓子で出来ている訳でもなく……那智がそれで許されるのは彼女がそこそこ裕福な家庭で、愛されて、甘やかされている娘だからだ。

 それに感謝と罪悪感を抱きながらも、甘えて生きる事にする。



 那智は自分が思っていたより大分空っぽな人間で、きっとそこにくじらへの想いが詰まっているのだろう……そんな風に思って笑った。


 きっと自分はどこかおかしいのだ。

 …………だが仕方がない。


 それが許されないのなら、その時はまた考えよう。

 許される限りは変わらないで、いい。



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