第二十九章 新人刑事登場
広美は倉田一課長に、後藤刑事が赴任してくる日を確認して、当日、三係で歓迎会を行いますので事件は他の係に回して頂くように依頼した。
後藤刑事が赴任してきた日に、緒方係長は全員を集めて後藤刑事を紹介した。
後藤刑事は、「滋賀県警から赴任してきました後藤正子です。警察は男社会で、女は地味な仕事でもしていろと指示されて刑事らしい仕事をさせてもらえず苦労しました。ここは主任刑事が女性刑事なので期待しています。」と挨拶した。
広美達刑事も自己紹介して、最後に緒方係長が、「後藤君、君の歓迎会を、今夜芸者を呼んで盛大に行います。仕事は慣れるまで同性の高木主任に付いて下さい。高木主任、面倒をみてやって下さい。荷物があるようですので、最初に女子更衣室に案内して下さい。」と指示した。
広美は後藤刑事と総務に行って、「渡辺君、総務の仕事は慣れましたか？後藤刑事のロッカーは用意できていますか？」と確認した。
渡辺巡査は、「なんとかやっています。ロッカーは、主任の隣の二十番を使用して下さい。」とロッカーの鍵を渡した。
渡辺巡査が車いすでしたので不信に感じた後藤刑事は広美に確認した。
広美は全てを説明して、「刑事の仕事は危険です。渡辺巡査のように車いす生活になる可能性や命を落とす可能性もあります。その覚悟はありますか？滋賀県警では刑事らしい仕事をさせてもらえなかったと不満だったら、私が一から仕込んであげるわよ。それとも滋賀県警のような内勤がいいですか？明日返事を下さい。」と広美は現実を実感させる為に、渡辺巡査と引き合わせたようでした。
巡回も広美が後藤刑事と同行して、京都の地理など教えていた。
後藤刑事が、「先日京都に来た時に道を聞くと、二つ目の角を上がると聞いて行くと、坂道も階段もなく、どこを上がるのか解りませんでした。何か特別な意味があるのですか？」と質問した。
広美は、「滋賀県に住んでいたのでしたら知っているかと思い、特に説明しませんでした。それは京都独特の表現で、北に行く事を“上がる”とか“上に行く”と表現し、南に行く事を“下がる”とか“下に行く”と表現します。住所も普通に何丁目何番地と表現する事もありますが、～通り上がると住所に記載している場合もあります。郵便番号の関係上、上がる下がると住所に記載すると困るらしいですが、私達は上がる下がると記載されていると、だいたいの場所がわかり便利です。」と説明した。
後藤刑事は、「そうなのですか。初めて知りました。南北の他に、東西にも何か特別な呼び方があるのですか？」と確認した。
広美は、「特にないですが、住所は～通り東入るとか西入ると表現する場合もあります。」と教えた・
巡回が終わり署に戻り広美は、「今日はあなたの歓迎会があります。私は私用があるので他の刑事と同行して下さい。」と告げて、置屋に向かい芸者の準備をした。
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歓迎会で緒方係長は、「後藤君、仕事に慣れれば他の刑事とも組んで下さい。この仕事はチームワークが大切です。その為に、他の刑事達と親睦を深めておいて下さい。何か質問はありませんか？」と挨拶した。
後藤刑事は、「主任に親切に教えて頂いていますので、今の所は特にありません。今後よろしくお願いします。」と頭を下げた。
その後全員宴会場に移動した。
全員集まって鶴千代も来た事を確認すると、緒方係長が挨拶して歓迎会が開始された。
広美は、「係長さんから、今日はあなたの歓迎会だと聞きました。四月でもないので転勤ですか？」と芸者姿で話し掛けた。
後藤刑事は、「はい、そうです。滋賀県から赴任してきました後藤です。」と広美と雑談していた。
他の刑事達とも雑談していると、後藤刑事が宴会場から出ていったので、広美はトイレかな？と思いつつも様子を見に行くと、喫煙所でタバコを吸っている後藤刑事に気付いた。
広美は偶然通りかかった芝居をして後藤刑事に話し掛けた
「あれ？タバコ吸うのね。」と後藤刑事の背後から、声を掛けた。
後藤刑事は、「あっ、不味い所を見られちゃったわね。」と困った表情をした。
広美は、「別にタバコぐらい大丈夫でしょう。」と隠す必要はないと考えていた。
後藤刑事は、「そんな事ないわよ。今日も、スリーサイズは？とかセックスの経験は？などセクハラ質問されたのよ。この上タバコを吸っている事がわかると何て言われるかわからないわよ。」と他の刑事達の事を説明した。
広美は、「皆さん、京都府警の刑事さんですよね？正義の味方だと思っていましたが、刑事さんもセクハラ発言するのね。」と誰がそんな、しょーもない事を聞いたんだ。つきとめて、とっちめてやると憤慨していた。
後藤刑事は、「丸顔のメガネの刑事さんです。」とまだ名前を覚えてないので特徴を教えた。
広美は、矢張り前田か。新人女性刑事にセクハラ質問するわ、私のホッペにチュウするわろくな事しないわね。後でとっちめてやると思いながら、「そうなの。ところでタバコはいつごろから吸っているの？」とまだ若いから、吸い始めて日が浅いと思っていた。
後藤刑事は、「結構昔から吸っているわよ。これでも昔は不良少女だったのよ。一度も検挙されなかったので、警察には私の記録がなく警察に就職できましたけれどもね。これ他の刑事達には内緒よ。」と鶴千代と高木主任が同一人物だとも気付かずに昔の事を喋った。
広美は後藤刑事の意外な一面を知り驚くと共に、昔勤務中に、不良少女だった後藤刑事に会った事を思い出した。
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翌日、広美は後藤刑事と巡回中、不良の喧嘩に遭遇した。
後藤刑事は、「私に任せて下さい。」と張り切って車から出た。
後藤刑事は、警ら中の警察官と協力して、不良達を取り押さえたが、一人逃亡した。
追跡しようとしている後藤刑事を広美が止めた。
「あの娘は不良に絡まれていた高校生を助けようとして、他の不良達と争っていたのよ。大目に見てあげなさい。」と忠告した。
後藤刑事は、「いえ、争っていた事は間違いないので、検挙して事情を聞くべきです。喧嘩両成敗というでしょう。主任は今までも同じ事をされてきたのですか？」と主張した。
広美は、「ええ、そうよ。十年前、私は滋賀県警との合同捜査に参加していて、滋賀県で捜査していました。その時、たまたま不良同志が争っている現場を通りかかり同じ事をしました。あの時、私があなたを検挙していれば、今、あなたはここにいなかったはずよ。」と昔の事を説明した。
後藤刑事は、「えっ！？あの時の刑事は主任だったのですか？いつから気付いていたのですか？」と今までの勢いがなくなり小さくなった。
広美は、「それはご想像にお任せします。あの不良少女は正義感が強いようなので、警察に就職する可能性があるわよ。将来あなたの部下になるかもしれないわよ。解ったらいくわよ。」と不良の事は警察官に任せて巡回に戻った。
数日後、緒方係長が、「後藤君、そろそろ仕事に慣れましたか？主任は一課長秘書も兼任している為に、いつも三係にはいません。そろそろ他の刑事と組んでみますか？」と助言した。
後藤刑事は、「はい、お願いします。」と認められたと判断して張り切っていた。
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ある日、緒方係長が、「捜査四課から協力要請がありました。捜査四課では、スリ集団を壊滅させるべく動いていて、スリ集団の一人を特定し、黒幕の正体を暴こうとマークしていたそうですが殺害されました。殺人犯とスリ集団の黒幕逮捕の協力要請がありました。捜査四課では、引き続き、スリ集団の捜査から、黒幕の捜査を行うとの事でした。」と指示した。
捜査四課と協力して捜査していると、スリ集団の元締めが、度々料理茶屋で何者かを芸者を呼んで接待している事が判明した。
後藤刑事は、「接待の相手が黒幕の可能性があります。芸者として潜入します。」と提案した。
緒方係長が、「スリ集団の元締めは、いままでも芸者を呼んでいて芸者の事は知っています。芸者特有の表現やしきたりなどを知らないと、正体を知られる可能性があります。本物の芸者を同行させましょう。知らない芸者より会った事のある芸者がいいでしょう。先日君の歓迎会の時に呼んだ鶴千代さんにお願いしてみます。」と後藤刑事のバックアップを広美に依頼しようとして広美に目で合図した。
当日緒方係長は、「後藤君、鶴千代の助手ということにして潜入して下さい。そうすれば少しの失敗でニセ芸者と勘づかれないでしょう。」と説明した。
その後、後藤刑事は広美と潜入して、黒幕と思われる人物と雑談しながらスリ集団の元締めとの会話を録音していた。
やがて録音している事に気付かれて、「貴様、警察の犬か！」と料亭の外で待機させていたスリ仲間を携帯で呼んで、後藤刑事を拉致しようとした。
広美が、「この娘は新人で、会話を録音して、後日それを聞きながら悪い所はなかったのか勉強しようとしていたのよ。そんなに警察を警戒しているのは、何か善からぬ事をしているのですか？」と焦っている後藤刑事とは裏腹に冷静でした。
黒幕は、「そうか。だが善からぬ事をしていると知られたからにはこのまま帰す事はできない。一緒に来てもらおうか。」と広美達を睨んだ。
広美は、「私達は夜の商売なので、事件に巻き込まれる事もある為に、終了時間に迎えが来ます。そろそろ、この料亭の前に来ている頃です。」と相手がどう出るか確認した。
黒幕は、「そんなはったりが通用すると思うのか？今まででも芸者達は一人で帰っていたぞ。ここは人目もある。俺達と来てもらおうか。」と広美達は車にのせられて、人気のない場所に連れていかれた。
料亭の外で待機していた前田刑事が気付いて、無線で他の刑事に知らせて尾行した。
次回投稿予定日は、９月２１日を予定しています。
