第三十六章 広美妊娠する
ある日、須藤刑事が出勤すると広美が出勤してなかった為に事件かと心配した。
須藤刑事は、「主任がいませんが、事件が発生して直行されたのですか?相変わらず素早い動きですね。」と慌てて出ようとした。
緒方係長は、「行き先も聞かずにどこに行くのだ?先程主任から病院に寄ってくるから遅れると連絡がありました。」と事件ではないので落ち着くように指示した。
前田刑事が、「主任が病院?鬼のかく乱だな。」と雑談していた。
やがて広美が出勤してきた。
後藤刑事が、「主任、風邪ですか?大丈夫ですか?」と心配していた。
広美は、「大丈夫よ。皆も心配かけてごめんね。大丈夫だから。」と安心させて一課長室に行った。
広美は一課長に、「妊娠したので、今後外勤は控えます。」と報告した。
一課長は緒方係長を一課長室に呼び、広美と三人で話し合った。
一課長が、広美が外勤できない事に追い目を感じているようでしたので、「検挙率No.1の刑事を失いたくない。外勤できるようになるまで協力します。」と出産後、現場に復帰してほしい事を伝えた。
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緒方係長と広美が三係に戻ってきて、広美が妊娠している事には触れずに、「主任が抜けても西田君に主任が務まるかどうか確認する為に、しばらく主任には一課長秘書に専任して頂く事になりました。」と全員に告げた。
西田副主任が、「一人抜けるので、人員補充はしないのですか?」と確認した。
緒方係長が、「警察学校に依頼しようとして主任に依頼しましたが、適切な人材がいなかったと報告を受けました。それに、まだ主任が抜けるとは決まってない。西田君、君次第だ。」と補充がない事を伝えた。
後藤刑事が、「それは、先日のイベント警備実習の件ですか?確かにあれじゃ無理ですね。」と納得していた。
須藤刑事が、「確かに主任は憤慨していましたが、後藤、お前同行していたのだろう?何があったのだ?」とその理由を知りたそうでした。
後藤刑事は、「ええ、確かに私も同行していました。生徒さん達は、まさか芸者が主任だとも知らずに、見惚れていて、目の前のスリに気付かなかったようでした。主任が、“私ばかり見て、目の前のスリに気付かないなんて何を考えているのよ。”と怒っていたのよ。イベント終了後、デレーッとして握手を求めたのでプッツンと切れて、握手すると見せかけて手を出して生徒さんを柔道で投げて、警察手帳を出して怒鳴っていたわ。教官にも、“仕事中に芸者に見惚れるなんて、どんな教育をしているの!”と怒っていたわ。」と説明した。
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その後、三係では、西田副主任を中心に捜査を行っていた。
そんなある日、難事件を三係が担当する事になり、緒方係長以下三係の刑事で担当して、苦労していた。
前田刑事が、「やはり難事件は主任がいないと無理ですね。確か主任は捜査権を持つ秘書でしたよね。捜査も助けてくれないのかな。」と弱気でした。
後藤刑事は、「今朝出勤時、主任と会ったでしょう?あの様子では無理だと思いますよ。」と自分達で、頑張ろうとしていた。
前田刑事は、「最近外勤してないようなので少し太ったようでしたが、それは捜査と関係ないだろう。」と後藤刑事の忠告が理解できない様子でした。
後藤刑事は、「違うわよ。男は鈍感ね。あれは太ったのではなく、間違いなく妊娠しているわよ。無理に捜査に参加させて流産したらどうするのよ。」と男の鈍感さにため息を吐いていた。
前田刑事は驚いて、「係長、後藤刑事の言った事は本当ですか?」と信じられずに目を丸くして確認した。
緒方係長は、「女性の目は誤魔化せませんね。後藤刑事の指摘どおりです。」と女性には隠せなかったかと諦めた。
前田刑事は、「それでは、主任が先日病院に行ったのはその為ですか?」と納得していた。
緒方係長は、「生理が遅れていて悪阻があったそうだ。診察の結果、妊娠三カ月だそうだ。」と広美から聞いた事を伝えた。
前田刑事が、「出産費用は高額だと聞きましたが、保険を使っても高額なのですか?」と不思議そうでした。
後藤刑事が、「前田刑事は何も知らないの?保険は病気やケガで急な出費を援助するための制度よ。妊娠出産は病気じゃないから保険は使えないのよ。しかし、最近出生率が減少してきているので、出産も保険適用にしようとする動きがあるようですね。」と説明した。
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数ヵ月後、広美は産休に入り、緒方係長や一課長やマンションの住民や置屋の芸者達が、お見舞いに来た。
ある日、初美がお見舞いに来て、「元気な置屋の後取りを産んでね。」と喜んでいた。
広美は、「お生憎様、先日調べてもらったら男の子だったわ。」と笑っていた。
初美は、「あら残念。次の子に期待するわ。そうだ、広美。芸者の経験があるから、警察を定年退職したら置屋を継いでね。」と頼んでいた。
広美は、「それはまだ先の事よ。それまでに考えておくわ。」と私を退職させて芸者にさせる事は諦めたようねと安心していた。
そんな中、隆は時間を見つけて毎日お見舞いにきていた。
「検挙率No.1の広美が抜けて、御宮入りする事件が増えたぞ。」などと雑談していた。
隆が帰ったあと、広美は捜査の事が気になり、後藤刑事に連絡して御宮入りした事件のほとんどは、三係が担当していた事を知った。
後藤刑事は、「今担当している事件も御宮入しそうです。助けて下さい。」と広美に助けを求めた。
広美は、「私はまだ三係に席を置いています。部外者ではないから捜査状況を教えて。」と三係を助けようとしていた。
後藤刑事は、「了解。捜査資料を持って病院にいきます。」と広美が助けてくれそうなのでホッとしていた。
その後も、広美の助言により三係の検挙率はあがった。
広美が協力しているとも知らずに三係の刑事達は、「係長、最近後藤君が頑張っているのでもう主任が抜けても大丈夫ですね。」と安心していた。
後藤刑事は、「いえ、それは困ります。実は、私は主任に相談していて主任の指示で動いていました。主任は三係に在籍していますので関係者ですよね?」と何故事件を解決できたのか教えた。
やがて広美は男の子を出産して隆一と命名した。
しばらく育児休暇をとり、その後、京都府警に復帰した。
緒方係長が全員に、「主任が抜けて三係の検挙率が大幅にダウンしました。後藤君が主任の指示で動いて検挙率が少し回復したことを考慮すると、高木君には主任と一課長秘書を続投してもらう事になりました。」と報告した。
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数ヵ月後、隆の職場の編集長から広美に着信があった。
編集長は、「高木君が松菱商事のスキャンダルを追っていて、最近やくざが絡んでいる事が判明し、危険だから単独行動しないように指示していました。先程相棒の記者から、トイレに行っている間に高木君が姿を消したと連絡がありました。トイレに行っている間に相手が動いて単独で尾行している可能性もあり、襲われたと断定できない為、警察に通報できずに困っていました。確か奥さんは優秀な刑事だと聞いたので、念の為に伝えておきます。」と心配そうに相談した。
広美は、「解りました。ご連絡感謝します。あとは警察に任せて下さい。」と編集長に告げて電話を切った。
広美は、隆の携帯に連絡する事も思いつかないほど焦っているようだと、緒方係長に説明して、隆の携帯をGPS機能で検索して隆のもとへと向かった。
隆が乗っていると思われる車を特定したが、誰かを尾行している様子もなく、滋賀ナンバーだった為に拉致されたと判断して、事情を緒方係長に説明して尾行した。
後藤刑事から無線連絡があり、「主任、その滋賀ナンバーの車両ですが、私の昔の不良仲間が使っていた車両です。今もその車両を使っているのか解りませんが、確認してみます。」と報告があった。
広美は、「お願いするわ。」と期待した。
広美から聞いた場所に向かっていた後藤刑事が車ですれ違い、Uターンして追跡しながら、「今、顔を確認しました。私の昔の不良仲間です。連絡して接触します。」と報告して、警察無線に携帯を接続して連絡した。
「もしもし、正子か?急にどうしたのだ?」と不思議そうでした。
後藤刑事は、「宏司、冷たいわね。今すれ違ったじゃないの。それで宏司の事を思い出して電話したのよ。Uターンして跡を追っているから待って。」と相手に接触しようとしていた。
「正子、お前、察にもパクられずにまだ無事なのか?今、何している。」と後藤刑事の事を知ろうとしていた。
後藤刑事は、「警察無線を盗聴しているので、うまくすり抜けてまだ無事よ。」と万が一、警察無線が入った時に疑われないように手を打っておいた。
宏司は、「今、忙しいから今度ゆっくりと会おう。」と電話を切ろうとしていた。
後藤刑事は、「忙しい?なにか儲け話か?私も乗せてよ。」と仲間に加わろうとしていた。
宏司は、「仲間と相談するから待て。」と慎重でした。
後藤刑事は、「追いついたわよ。パッシングして私の位置を教えるから止まってよ。」とパッシングして合図した。
宏司は、「正子、相変わらずドライブテクニックはずば抜けているな。正子から逃げられそうにないな。」と諦めて停車した。
後藤刑事は、小型無線機を袖口にセットして、宏司の車に接近した。
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そこで後藤刑事は、後部座席に猿ぐつわされて目隠しされ縛られている高木記者を発見した。
後藤刑事は、「誘拐か?なんか大金を持っているような坊ちゃまには見えないわね。ちょっと待って!この人やばいわよ。」と解放するように促した。
宏司は、「何故やばいんだ?」とその理由を確認した。
後藤刑事は、「私、先日ドジ踏んで、京都府警の鬼軍曹に目を付けられたんだけれども、この人、鬼軍曹の旦那様よ。」と無線機を通じて隆が無事である事を広美に伝えた。
宏司は、「本当か。」と焦っているようでした。
後藤刑事は宏司が焦っているようでしたので、あとひと押しすれば混乱すると判断して、「こんな人を誘拐したら鬼軍曹がでてきて京都府警全体を敵に回すわよ。鬼軍曹は何人もの犯罪者を銃撃して逮捕していると知っているわよね?撃たれるわよ。」と手を引くように警告した。
その会話を無線で聞いていた広美は赤色回転灯を点灯させてサイレンを鳴らし、「こちらは京都府警です。」とパトカー数台で迫った。
後藤刑事は、「やばい、あれは鬼軍曹の声よ。撃たれる前に人質は諦めて逃げろ!」と宏司を覆面パトカーに押し込めて逃亡し、隆と引き離した。
宏司は、「おい、人質を解放したらそれこそ捕まるぞ。」と焦っていた。
後藤刑事は、「そんな事をしたら銃で撃たれると言ったでしょう!鬼軍曹は人質のご主人さまを助ける事で頭がいっぱいで追ってこないわよ。」と宏司を安心させた。
パトカーが追ってこないようなので少し落ち着いた宏司は、「正子、なんかすごい装備だな。」と覆面パトカーだとも気付かずに感心していた。
後藤刑事は、「先ほど、警察無線を盗聴していると言ったでしょう。もしパトカーが追って来ても直に気付いてどこにパトカーが潜んでいるかも解るのよ。だから逃げ切る自信はあるわ。でも追って来てないようね。」と宏司を安心させた。
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広美は、「隆、大丈夫?編集長から連絡頂いて助けに来ました。」と隆を助けた。
隆は、「ありがとう、助かったよ、広美。でも何故俺の居場所が解ったのだ?」と不思議そうでした。
広美は、「隆のスマホをGPS機能で検索したのよ。週刊誌記者は危険な取材をする事もあるでしょう?今回のようにね。隆には悪いけれども、内緒で検索可能なように設定しておいて正解だったわ。」と本当は隆の浮気調査の為にしたけれども、こんな事に役立つとは思わなかったわと安心していた。
隆は、「お前、俺のスマホを勝手に設定したのか!まあいいか、おかげで命拾いしたよ。犯罪だったら広美に相談できるが、スキャンダルは犯罪じゃないから相談できなかった。」と安心していた。
広美は、「拉致は立派な犯罪よ。後は警察に任せて。」と広美が捜査する事を告げて、後藤刑事からの連絡を待った。
翌日後藤刑事から、「人質を解放した為に、依頼主のやくざに襲われて宏司とはぐれました。あの顔は見覚えがあります。流星会の柴山です。応援お願いします。私は宏司を捜します。」と広美に助けを求めて電話を切った。
広美は須藤刑事に警官隊を引き連れて応援に行くように指示し、西田副主任と前田刑事に、流星会のバックにいる企業の捜査を指示した。
その結果、松菱商事は以前、専務取締役の女性問題が発覚しそうになり、流星会に依頼して殺害した為に、週刊誌記者がそれに気付いたと勘違いして隆を殺害しようとしていた。
関係者を逮捕し、宏司は正子が刑事だと知らずに逮捕された。
その後、広美は二人目として女の子も出産して、愛美と命名して親子四人で幸せに暮らしていた。
次回投稿予定日は、10月22日を予定しています。
第三部はこれで終了です。次回から第四部の投稿を開始します。