第三十四章 広美、復讐される
一週間後、再び平田から鶴千代指名で声がかかった。
平田は、「先日は息子がとんでもない事をしでかして申し訳なかった。」と謝った。
広美は、「ご子息のストーカー事件をもみ消した事など、色々聞いています。少し過保護に育て過ぎたのではないですか?人殺しのレッテルは一生ついてきます。社会復帰も難しいかもしれません。今後、今まで以上にお父様の援助が必要になると思います。」と平田の息子の将来を心配していた。
平田は今後も鶴千代と交流しながら復讐の機会を窺っていた。
広美も、今までの経験から平田には気を許しませんでした。
平田は復讐の実行犯として、同じように広美を恨んでいる竜神会に大金を払い雇った。
平田は年に数回、鶴千代をお座敷に呼んでいた。
お座敷のあとに広美を尾行して、襲撃計画を練っていた。
広美は平田に気を許していない為に尾行には気付いていた。
広美は、この事を緒方係長に相談した。
緒方係長は、「西田君、聞いたとおりだ。事実関係を調べて下さい。」と指示した。
西田副主任が、広美が尾行されている事を確認した。
一課長に報告して、警察の威信を懸けて三係で対応する事になった。
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帰宅した広美が銃を携帯している事に隆が気付いたが、特に捜査や誰かを護衛している様子がなく、不信に感じて広美に確認した。
広美は、「これは刑事の宿命よ。私が狙われています。黒幕の見当はついているので、私の部下が捜査中です。隆に心配かけたくなかったので今まで黙っていました。相手がどう出るか解らない為に、隆にばれたのであれば、念の為に由紀子さんにも護衛を付けるわ。これは刑事と結婚した隆の宿命よ。」と説明した。
隆は、「俺の護衛はないのか?」と不満そうでした。
広美は、「隆が狙われている時でも護衛は拒否していたじゃないの。今回狙われているのは隆じゃないから護衛は考えてないわ。でも身の回りには気を付けてね。」とあっさりと断られた。
広美は緒方係長に説明して、後藤刑事を由紀子の友達として貼りつかせる事にした。
隆は由紀子に電話して、「明日、広美の部下の後藤刑事が喫茶店にお前を訪ねて行く。詳しい話は後藤刑事から直接聞いて。」と連絡した。
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翌日広美は後藤刑事と由紀子が務める喫茶店に行った。
由紀子は、「お兄ちゃんから聞いたけれども、一体何があったの?」と何かの事件に巻き込まれたのかと心配していた。
広美が事情を説明して、「これは家族が刑事と結婚した人の宿命だから、今後もあるかもしれないわ。この際、後藤君と友達になったら?年齢も近い事だし。」と勧めた。
由紀子は、「後藤さんはずっと京都ですか?間違っていたらごめんなさい。ひょっとして、以前滋賀県に住んでいませんでしたか?」と以前会った事があるような気がしていた。
後藤刑事は、「ええ、先日、滋賀県警から京都府警に移動になりました。」と滋賀県警ではほとんど内勤だったからどこであったのか考えていた。
由紀子は、「もっと以前、多分後藤さんが警察に就職するまえだと思います。」と最近の事ではないと伝えた。
後藤刑事は、「ええ、就職する前から、私は滋賀県に住んでいましたが、どこかでお会いしましたか?」と直接確認した。
由紀子は、「十年ほど前になるかしら、私が不良に絡まれて困っていると、別の不良少女に助けられたのよ。不良少女だったから厚化粧でしたので自信はないけれども、後藤さんに似ていたような気がするわ。そのあと刑事が来たけれども、捕まらなかったか心配だったので、今でも覚えているのよ。」と当時の事を説明した。
後藤刑事は、「ああ、あの時の。思い出しました。確かにあれは私です。その時きた刑事は優しい刑事で、私が由紀子さんを助けていた事に気付いていて見逃してくれたのよ。今では泣く子も黙る京都府警の鬼軍曹よ。」と当時の事を思い出していた。
広美も、「まさか、あの時に見逃した不良少女が将来私の部下になるとは思ってもみなかったわ。」と三人で雑談していた。
その後マスターに相談すると、「人手不足なので大歓迎です。」と了承した。
後藤刑事は、「私の仕事は護衛がメインだから、あまり戦力にならないかもしれません。」と念を押して、喫茶店のウエイトレスとして由紀子を護衛する事になった。
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西田副主任が、「いつも主任を尾行している組員が、数人の組員と料亭の前で待機しています。今晩襲われる可能性が高いです。」と緒方係長に報告した。
緒方係長は、三係の刑事達を組員に気付かれないように料亭の近くで待機させ、警官隊を遠巻きに配置した。
広美は平田のお座敷を終えて帰宅途中、人気のない場所で刃物を持った数人の組員に襲われた。
広美を護衛していた刑事達が飛び出して、緒方係長の指示で、遠巻きに配置した警官隊も駆け付けて応援した。
広美が銃で狙われている事に気付いた警察官が、「主任、危ない!」と広美の前に飛び出し、銃で撃たれて負傷した。
組員は、さらに銃を発砲しようとした為に、広美が銃で、組員の肩を撃ちぬいた。
やがて組員は全員逮捕され、その中にいた平田も逮捕された。
平田は、「鶴千代さんが襲われた事に気付いて来ただけで、私はこの襲撃には関係ない。」と自分は関与してないと証言したが、組員の証言もあり逮捕された。
取り調べて平田は前田刑事から、「京都府警の鬼軍曹と呼ばれている主任を狙うとはな。相手が悪かったな。義理の妹の由紀子さんも襲っただろう。由紀子さんを襲った犯人も逮捕して由紀子さんは無事だよ。主任を甘くみたな。」と睨まれた。
その夜、帰宅した広美が銃を携帯してない事に気付いた隆は、「お前を狙っていたやつは逮捕されたのか?」と確認した。
広美は、「週刊誌記者が、そんな事も知らないの?職務怠慢ね。」と私の事は見てなかったのかと不愉快そうでした。
隆は、「いや、由紀子の事が心配で近くにいたんだ。店内で襲われた様子だったので慌てて入ると、後藤刑事が手錠をかけていたよ。」と説明した。
広美は、「私の事は心配じゃなかったの?」と不満で絡んだ。
隆は、「お前は殺しても死なないよ。それにお前の部下が護衛しているだろう。」と心配している様子はありませんでした。
広美は、「なんですって!」と隆を睨んだ。
隆は、「おっ!怖い鬼軍曹を怒らせてしまった。風呂に入ろう。」と逃げた。
広美は、「待て!私も風呂に入る。一緒に入ろう。」と隆を追いかけた。
二人は風呂で楽しくじゃれあっていた。
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その夜、広美は後藤刑事に電話して、「今日は御苦労さまでした。しかし、後藤さんが助けた女性が由紀子さんだったとは驚いたわ。」などと雑談していた。
正子は、「由紀子さんが、私に二度も助けられて運命的なものを感じたそうよ。それで、今後由紀子さんと友達付き合いする事になりました。」と正子も運命的なものを感じている様子でした。
その時、固定電話に宿直の須藤刑事から着信があった。
隆がでて、「広美、捜査一課の須藤刑事から電話。」と受話器を広美の方へ向けた。
広美は、「ごめん、宿直の須藤君から電話だから切るわね。」と携帯の会話を終了させて固定電話を取り、「何かあったの?」と確認した。
須藤刑事が、「今、主任と同じマンションの塩崎芳江さんから電話がありました。主任の部屋を、ピッキングして開けようとしている男がいるらしいです。主任の携帯に電話しても話中だった為に、主任の部屋に行くのは怖くてここに電話したそうです。私も主任の携帯に電話しましたが話中だった為に固定電話に連絡しました。係長に報告した上でそちらに向かいます。」と連絡があった。
広美が動きやすいジャージに着替えている様子を見て、隆が不安そうに確認した。
広美は隆に事情を説明して隆も着替えて二人で消灯したダイニングルームに隠れて待ち構えていた。
やがて玄関の鍵が開けられて、男が侵入して来た。
男がダイニングルームに侵入したと同時に照明が点灯した。
男は、“えっ!?”と驚いている間に広美と隆に取り押さえられた。
そこへ須藤刑事が警官隊を引き連れてきてあっさり逮捕された。
警察で取り調べると、連続空き巣事件の犯人で、「一戸建ては最近警備が厳重になってきたのでマンションを狙った。先日から下見していると、この部屋はチェーンを就寝前にしかしないし、夫婦とも帰宅が遅いので帰宅する前に侵入しようとしたが、何故か今日に限って二人とも帰宅が早かった。」と自供した。
翌日須藤刑事は、「まだ、平田の復讐が終わってなかったのかと焦って、警官隊を引き連れて主任の自宅に向かいましたが、ただの空き巣だったのですね。しかし、鬼軍曹の自宅に空き巣に入るとはドジな空き巣ですね。」と安心していた。
週刊誌に、“連続空き巣犯、京都府警の鬼軍曹の自宅だとも知らずに空き巣に入り、あっさり御用”と掲載された。
次回投稿予定日は、10月13日を予定しています。