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戀文  作者: 束川 千勝
7/7

7.けふをかぎりのいのちともがな


 もうすぐ年が明ける、凍えるような寒さの冬の日。白い毛糸のマフラーをぐるぐると首に巻きつけた薫は自宅の門の前に立っていた。隣には同じマフラーを緩く首に巻いて青い手袋をつけた樹が立っている。二人は白い息を吐きながら貴子を待っていた。

 二人が告白をしたその日から、また以前の三人の関係に戻っていた。貴子は二人の気持ちに応えられなかったが、それがきっかけでまた疎遠になってしまうことを、三人とも恐れていた。一緒にいると望み、願ったのもまた貴子だけではないのだ。

「遅いね、貴子ちゃん」

 独り言のように小さく呟いた樹を横目で見遣り、薫はそうね、と素っ気なく返した。

 大晦日の今日。初詣に行こうと薫が言い出して、年が明ける少し前から年越しを兼ねた初詣に三人で行くことになった。二人は振袖などではなく、いつもの私服だ。寒空の下、マフラーと同じ白い手袋をつけた薫は手を擦り合わせた。

「初詣、お願い事するの?」

 ふと薫が空を見上げながら樹に訊ねた。満天の星空が冬の寒さを物語っているようで、余計に体が冷えるような感覚がする。それでも星空は見ていて心地のよいほど綺麗で、目が離せない。

「薫は?」

 質問を返された薫はムッとして頬を膨らませ、星空から視線をそらさずに口を開いた。

「わたしはするわ。神様に、わたしを男にしてくださいって、お願いするの」

 両手を口元に持っていき、自分の息で手袋越しの手の平を温める彼女を見て、樹は眉を顰めた。

「そんなこと、叶いやしないよ」

 呆れたように返すとわかってるわ、と返され、樹は顔を歪めた。

「何を願おうと、わたしの勝手でしょ。男になれないのはわかってる。心だって男なわけじゃない。それでも願わずにはいられないのよ」

 何億光年も先の宇宙で星が瞬いた。肉眼では確認できない星の瞬きを、その目で見たような気がして薫はひとりでに笑う。

「貴子ってね、友達には好かれやすい子なのよ」

 全く違う話を始めた薫に樹は何も言わず、彼女と同じように星空を見上げた。

「貴子のクラスメイトのゆき子ちゃん。知ってる?」

 樹がうん、と返すとそうよね、と薫が呟いた。

「ゆき子ちゃん、貴子のことが大好きみたいなの。もちろん、わたし達とは違って本当に、……いいえ、本当かどうかはわからないけれど、友情の意味で」

 遠くでまた星が瞬き、その瞬いた星ごと、空を薫の白い息が包み込んだ。靄がかかったような星空はそれでも輝きを絶やさない。

「わたし、ゆき子ちゃんに言われたの。あなたがいると貴子ちゃんと遊べない。貴子ちゃんと距離を置いてって」

 そのような話は初めて耳にした樹は瞠目して薫に顔を向けた。彼女はやはり空を見上げていて、視線は合わない。

「それでわたし、こう言ったのよ。貴子が誰を選ぶのかは、貴子次第よ」

 ばかみたいね。薫はようやく星空から視線を外したと思えば、今度は足元に視線を移動させた。

「ばかじゃないよ」

 樹の声が薫の鼓膜を揺する。

「ぼくだって薫だって、ゆき子さんだって、そんなことわかってるんだ。だけど、それでも自分を選んでほしいって思うことは、ばかなことじゃない」

 誰もがそうなんだから、と樹は苦笑しながら薫に告げる。薫はようやく樹に視線を向けて、彼と同じように苦笑を漏らし、そうよね、と呟いた。そして二人で星空を見上げる。

「ごめんなさい、お待たせ」

 淡い桃色のマフラーを薫と同じようにぐるぐると首に巻き付けて、紺色のコートを着た貴子が駆け足で二人の傍へとやって来た。走ってきたのか、鼻の頭や頬が赤くなっている貴子に、薫は笑みを零した。

「大丈夫よ。さ、行きましょ」

 貴子の右手を取った薫が歩き出すと、樹も笑って貴子の左手を取る。その行動に貴子も笑みを零し、二人の間で肩を並べた。

 数分歩いた先にある小さな神社。三人はそこで初詣をすることにしていた。腕時計を見た樹がもうすぐだよ、と声を出した。遠くで鐘の撞く音が止み、周囲にいた人々がおめでとう、と口々に言い出した。三人もおめでとう、と言い合って新年の挨拶をする。

「お参りしましょ」

 すでに参列者が並んでいる境内へ向かうべく三人は歩き出した。列に並ぶとゆっくりゆっくり進んでいく。新年は何をするかなどを話しているうちにすぐに三人の番となり、並んで鈴を鳴らす。それぞれ熱心に手を合わせた後、また並んで境内の中でふらふらと歩く。

「何をお願いしたの?」

 貴子が二人に訊ねると、彼らは顔を見合わせてから貴子を見た。

「わたしは学業祈願。それから恋愛成就かな」

 いたずらに笑みを浮かべた薫に貴子は困ったように眉を下げて笑う。

「ぼくも同じかな。貴子ちゃんは?」

 樹も薫と同じようで、貴子に質問を移した。

「わたしはね、やっぱり三人でずっと一緒にいられますようにって」

 マフラーに顔を埋めながら貴子の目は弧を描いた。双子は再度顔を見合わせて、笑い合う。

「貴子には敵わないわね」

「まったくだよ」

 そう言って笑みを絶やさない彼らに、いつの間にか仲の良さが戻っていると安心した貴子はこっそり胸を撫で下ろした。



 年を越してから着々と時は進み、いよいよ受験がやって来る。

すぐにやって来た受験の前日、貴子はすでに地元を離れ、明順の家に泊まっていた。貴子は前日になっても、やはり双子には志望校のことは言わなかった。と言っても双子も明日が受験日だと言っていたので、貴子が二人とは違う高校へ進学するつもりであることが知られてしまうのは時間の問題だろう。そう考えながら貴子は前日の勉強をしていた。自信はある。それでも不安になってしまうのは、緊張か、それとも双子のことが気がかりになっているのか。貴子自身にもそれはわからなかった。

それでも一晩眠れば当日はやって来るものだ。お気に入りの淡い桃色のマフラーをしっかりと巻いて貴子は家を出た。

「頑張れよ、お前ならできるさ」

 後ろから紺色の半纏を羽織った明順が眠そうに欠伸をしながら手を振った。その様に貴子は苦笑し、手を振り返す。

「ありがとう。いってきます」

 数分先の学校へと向かって、貴子は歩き出した。



 貴子が地元に帰ってきたのは受験が終わった次の日だった。幸い休日と言うこともあってか、心配していた双子からの追究はなく、貴子の周りは静かであった。

 それから更に月日が過ぎ、貴子の合格発表通知が届き、貴子が地元を離れることが決まる。しかしそれでも貴子は双子にそのことを告げようとはしていなかった。

 残り日数の少ない授業へ出るために登校している時、貴子は桜の木を見上げた。まだ蕾の桜は卒業式には満開になるだろうと予想される。満開の桜の下で薫と樹の三人で写真を撮りたいと貴子は考えていた。

 卒業式が日に日に近付いて来ることに、貴子は少しばかり不安を抱いていた。卒業式が過ぎれば早々に明順の家へ引っ越すことになっている。つまり薫や樹と会えるのは、卒業式が最後だということだ。貴子は自室の机に向かって座り、便箋と封筒を取り出した。伝えることは、ひとつだけ。同じ便箋二枚を並べて同じ文を書いていく。きっと彼らになら、伝わるはずだと願いを込めて。それから更にもう一枚ずつ、今度は違う内容を書いていく。薫へは薫への文を、樹へは樹への文を。自分の気持ちを伝える時期は、卒業式だと以前から貴子は考えていた。



「貴子、卒業おめでとう」

 胸元に花を飾った薫が卒業証書を持って貴子に笑いかけた。その隣には、やはり樹がいる。貴子はその光景に笑みを零し、二人もおめでとう、と明るい声で返した。

「なんだか早かったなぁ」

 樹がしみじみとした声を出す。満開の桜を見上げた彼は頭の中で中学時代を振り返る。薫と貴子もそれに倣って桜を見上げた。

「ほんと、早かったわ」

 薄紅色の雪が三人に降り注ぎ、柔らかな光が辺りを包み込んだ。貴子はこの桜を三人で見ることができてよかったと口元に笑みを湛える。

「ねぇ貴子」

 薫が桜を見上げる貴子の横顔を見つめ、ずっと聞きたかったことを訊ねる。

「貴子はどこの高校に行くの?」

 樹も気になっているようで、視線で貴子を促した。貴子は桜から視線を外し、二人を見た。貴子はそれでも何も言わず、微笑む。やきもきする気持ちを抱え、薫は貴子を見つめ続けた。

「それよりも、」

 貴子は母親から譲り受けてきたカメラを構える。二人は首を傾げながらその行動を見守っていた。レンズ越しにそんな二人を見てから、貴子はひときわ優しく微笑んだ。

「記念写真、撮ろうよ」

 最後の、とは言わなかった。二人は腑に落ちないという表情を見せながらも、同時に頷く。

「お母さん、写真撮って」

 二人の了承を得た貴子は近くで微笑まし気に三人を見守っていた母親にカメラを返した。

「はいはい、じゃあ三人で並んで」

 仕方ないわね、と言いながらカメラを構え、三人を手で寄せる仕草を見せる。はぁい、と幼い子供のように大きく返事をした三人は、屋根のように満開の桜が咲き誇るその下で貴子を真ん中にして並んだ。

「撮るわよ」という掛け声に三人は満面の笑みを浮かべ、卒業証書の入った筒を胸元で掲げる。少し遅れてカシャリと音が鳴り、写真が撮られた。

 現像してからでないと確認できない写真のために、もう一枚、と母親はそのままシャッターを切る。そうしてから彼女は貴子にカメラを渡し、好きにしなさい、と笑った。先に帰っている、と言った貴子の両親に、双子の両親も同じようにして先に帰っていく。それを見送り、カメラを受け取った貴子は二人にレンズを向け、レンズ越しに彼らを見た。二人がそれに気付く前に、カシャリとシャッターを切ると、ようやく気付いた双子は自分も自分も、とカメラを奪い合う。

「次はわたしに撮らせて」

 そう言ってカメラを持った薫が貴子と樹をレンズ越しに見てから、動きを止めた。

「薫、どうしたの?」

 彼女の異変に気付いた貴子が首を傾げると、薫は何でもない、とレンズから顔を離して笑顔を浮かべる。再度レンズを覗くと、そこには貴子と樹の姿。薫はカメラの向きを変え、桜の木の下にいる貴子だけを映した。愛おしげにその姿を見つめた後、薫は強くシャッターのボタンを押した。

 次はぼくね、と樹が言い、薫が彼にカメラを渡してやると、嬉しそうに笑む。その笑顔を見た薫はすぐに貴子の元へと駆け出した。

 カメラを構えた樹もまた、薫と同じようにレンズ越しに二人の姿を見ると、一瞬動きを止めた。なるほど、と樹は苦笑する。それから彼は二人の姿にシャッターを切った。彼女達の世界に、自分は存在しなかった。きっと自分と貴子の世界にも、薫は存在しなかった。先ほど貴子が薫と樹の二人をこのレンズ越しに見た時、彼女はどう思ったのだろうか。

(ぼくと薫の世界には、きみが必要なんだよ、貴子ちゃん)

樹は貴子が自分達とは違う高校に進学することを、どこかで悟っていた。それはおそらく、薫も同じことだと彼は考えている。どちらも言葉にはしないが、感じ取れるものはあった。三人のうち、誰かが欠けてもいけない。最初はそう思っていたのに。樹はそんなことを考えながら、カメラから顔を離した。

「約束は、なかったことになりそうだね」

 誰にも聞きとられないような、小さな声で呟く。言葉を口にすると、それが本当になってしまうような気がしていた。だからこそ、誰も言わなかった。しかし本当は、誰もが気付いていたのだ。あの約束が守られることはないのだと。

 動かない樹を心配した貴子が彼の傍へと寄り、それに薫もついてくる。こうして三人でいられるのはいつまでだろうか。

(いつかなくなってしまうのなら、いっそ)

樹は二人に笑みを返し、カメラを貴子に返した。その時、一人の少女が貴子の元へと駆けてきた。薫はその姿に少しだけ表情を硬くする。ゆき子ちゃん、と形のいい唇が動いた。少女、ゆき子は眉を下げながら貴子の傍へ寄り、彼女の持っていたカメラに視線をやった。

「あのね、貴子ちゃん」

 彼女もまたカメラを手にしていて、変わらない背丈の貴子を見つめた。

「わたしと、写真を撮ってほしいの。その……最後、だから」

 その言葉に貴子はどきりとした。薫から聞かされた、彼女が卒業した後地元を離れるということを思い出す。それから、彼女が薫に告白したことを思い出した。

「あの、わたしでいいの? 薫じゃなくて?」

 最後ならば、薫と撮りたいのではないかという考えを含めてそう訊ねれば、ゆき子は苦虫を噛み潰したような表情を見せた。

「わたし、貴子ちゃんと撮りたいの、お願い」

 そう言われてしまえばもう何も言えず、貴子は一つ頷いて樹にカメラを渡した。

「わたしのカメラと、ゆき子ちゃんのカメラで、一枚ずつ撮って」

 樹は彼女のカメラを受け取って快くその役を引き受けた。薫は未だに表情を硬くしていて、貴子とゆき子から目をそらしている。

 桜の下に先ほどの三人と同じように二人を並ばせて、樹は薫の隣でレンズを覗きこんだ。

「ゆき子さんは貴子ちゃんを大切な友達だと思ってる。薫とは違うんだよ」

 薫にだけ聞こえるように小さく諌めるような声を出す樹に、薫はわかってる、と返事をする。

「撮るよ」

 大きく声を出した樹に二人は寄り添って笑みを浮かべた。シャッターが切られる瞬間、薫がちらりと二人の笑顔を視界に入れた。次はゆき子のカメラで、と樹が再度カメラを構える時にはもう薫の視線は違うところへ向いていた。

 カシャリ、と音が鳴ったことを確認した薫は自分の足元を見た。

(わかっていても、いやよ。だって貴子の一番は、わたしがいいもの)

 黒い筒をぎゅっと握り締めて、ゆき子と笑い合う貴子を視界に入れないよう努める。

 写真を撮り終えたゆき子は貴子と樹に礼を言い、三人に別れを告げると、遠くで待っていた家族の元へと駆けて行った。

 その後ろ姿を見つめていた三人は、なんとも言えない物寂しさを心に抱いていた。

 自分はあのように別れは言えない。貴子はそう考えながら双子の存在を傍らに感じる。セーラー服のスカートが風に煽られ、桜の花びらが空を舞う。

「帰ろっか」

 誰が言ったのかも、わからなかった。誰も反応を示さなかったが、それでも三人の足は校門の外へと向かっていた。

 校門を出てからはゆっくりと三年間通っていた通学路を歩く。三年、様々なことがあった。初めて樹と二人きりでアイスを食べた夏の日のこと。それから三人でアイスを食べたこと。ずっと一緒だと、約束をした日のこと。多くのことが貴子の脳裏に過る。

 三人でこの道を歩くのは今日で最後。もう三人で歩くことはないのだと思うと、寂しくなる。

「三年間、ありがとう」

 立ち止まった貴子に、数歩先を歩いてから振り返った双子はこちらこそ、と笑った。

「わたし、本当に、二人が大好きだよ」

 貴子が優しく笑って、二人へ近づき、彼らの手を握った。

「ずっと、三人で一緒にいたい」

 まだ肌寒い風が彼らの頬を撫でていく。薫と樹はわかってる、とでも言うように彼女の手を握り返した。

「一緒よ、いつまでも」

「だってぼく達も、貴子ちゃんのことが大好きなんだから」

 約束が反故になることに、誰もが気付いていながら、誰も口にはしない。約束はまだあるのだと。それだけを口にする。それはもう約束ではなく、切なる願いであった。

「……じゃあ、わたしはこれで」

 寄る所があるのだと、貴子は言った。二人の手を離そうとした時、薫と樹は貴子の手を離すまいとしっかりと握りしめた。

「またね、貴子」

 熱を孕んだような強い声を出した薫に、貴子は泣きそうになった。樹も、またね、と薫と同じような声音で言葉を口にする。

「……またね、薫、樹」

 涙を堪えるようにしていつもよりも低い声を出し、貴子は無理矢理笑みを作った。それから今度こそ、二人の手を離し、数歩歩いたところで手を振った。

 さようなら、大好きな人。

 誰かがそう言った気がした。





 ガタンゴトン、と大きな音に揺られ、貴子は大きな窓から矢継ぎ早に変わっていく景色を眺めていた。

 卒業式から数日が経ち、貴子は明順の家へと越す日がやってきたのだ。あの日から双子とは一度も会わず、別れを決めた日まで過去をやり直したいとさえ思う日もあった。しかしそんなことを思っても時間が巻き戻ることはなく、ただ過ぎていくだけだ。景色を眺めながら、貴子は電車に乗り込む前のことを思い出していた。



 双子の家の前。手に持った二枚の封筒をしっかりと確認してから、貴子は郵便受けに直接二通の手紙を入れた。薫と樹への、それぞれの手紙が彼らの手元へと確実に届くように。家の中にいるのかもわからない二人の姿を思い浮かべ、思わず呼び鈴を鳴らしてしまいそうになる自分を制して背を向けた。




 暖房の効いた暖かい車両で、大きな鞄を枕にして貴子は窓から視線をそらして寝る態勢に入る。静かな車内に、遠くで幼い子供がはしゃぐ声が聞こえた。それがどうにも心地がよく、貴子は一人でうっすらと笑う。

 傍らに置いたポシェットから一枚の写真を取り出し、眺める。それは卒業式の日に、薫と樹の三人で撮ったものだった。それぞれの笑顔は輝いて見えて、貴子は涙を一粒零す。枕にした鞄が、まるで悲しみを吸い取るかのように、じわりと零した涙を吸収した。

「忘れじの行く末まではかたければ、今日をかぎりの命ともがな」

 手紙に書いた一文を口にする。送り先のない和歌も、鞄が吸収してしまったかのように溶けて消えた。

「ずっと一緒っていう約束があって、好きっていう言葉ももらえて。いつ消えてしまうかわからないのなら、わたしは自分から、この気持ちを全部消してしまうよ」

 そっと目を伏せて写真の中で笑顔を見せる三人に思いを馳せた。またいつか会える日が来るのなら、その時は。

「好きな人と好きな友達じゃなくて、大好きな友達として、二人の傍にいるから」

 それまで、待っていて。心の中で貴子は二人へと言葉を贈る。

 起き上がって窓を少しだけ開けると、春の爽やかな風が貴子の髪をなびかせた。膝の上に写真を置いて、遠くに見える小さな青い海を眺める。遠目でもわかるほど、キラキラと光る海に頬を緩ませた貴子。あの海へ行けば、未来の自分と双子がそこにいるような気がする。膝の上に置いた写真が、海の光を反射させたようにキラキラと輝いていた。




『忘れじの行く末まではかたければ 今日を限りの命ともがな



 突然会えなくなるのを、許してください。二人のことが大好きだからこそ、離れることを決意しました。ずっと友達で、ずっと一緒にいようって約束したこと、忘れません。またいつか会えた時には、その時は、約束を果たしたいです。

好きと言ってもらえて、本当にうれしかったです。だけどいつか消えてしまうのなら、とも思ってしまいました。好きと言ってもらえた時に、わたしは本気で、もらった気持ちとともに死んでしまいたいと思いました。だからこそ、わたしは二人から離れることを決意したのです。


 ずっとずっと、好きでした。さようなら。

 貴子』


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