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朝、今日も朝日のお陰で目覚ましなど無くても自然と目が醒める。

流石にこの世界に来て3日目ともなると、目が覚めたら元の世界に戻っている、などと言う淡い期待は無くなっている。

テントに寝袋と言う環境で一晩寝たのにも関わらず身体のどこにも疲労や痛みが残っていないのは、この身体が回復能力も高まっているからなのか、この世界のテントが優秀だからなのか……。

「レイニア、おはよう」

この身体の本来の持ち主であるレイニアに声をかけてみる。

『……眠い……。もっと寝かせて……』

相変わらず朝の弱いレイニアの返答。そして静かになった所を見ると本当に寝てしまった様だ。

さて、レイニアが起きてくるまでに何かやっておくようなことは有ったっけか。俺も寝起きの、まだちゃんと回らない頭で考えてみる。

……俺も2度寝しちゃって良いんじゃないかな……。

……いかんな、元の世界程規則正しい生活を求められてない分レイニアに引っ張られてしまいそうだ。

「レイニアー、起きろー」

このまま寝てしまうと出発が遅れて場合によっては今日中に次の街に辿り着けないかもしれない。ここはさっさとレイニアを起こして出発の準備をしてしまおう。

「おーい、レイニアー、そろそろ起きようぜー」

テントの中で一人で見えない誰かに呼びかけるというのは側から見るとなかなかにシュールな姿なのではないだろうか。周りに誰も居ないので誰かに見られる心配は無いのだが。

「レイニアー、レイニアさーん。起きてよー」

レイニアは一向に起きる気配を見せない。こうなったらちょっと搦め手で行ってみるか。

「レイニアさーん、起きないんだったらこの身体にイタズラちゃいますよー」

流石に身の危険を感じればレイニアも起きるだろう。と思ったのだが……。

『……良いわよ、貴方の好きにして……』

レイニアからのお許しの言葉。好きにイタズラして良いそうだ。ってえぇっ!?

「えっ!?ちょっと!レイニアさん!?」

まさか朝寝坊したいが為にそんな事までするのかこの娘は!?流石に許可が出たからって本当に手を出すわけにはいかないし、搦め手で行こうとしたらまさかこんな返し方をしてくるとは……。

『……ぷっ、くっふふふふっ。嘘嘘、冗談よ。おはようユリト』

まさかの事態に思考が追いつかず、何も出来ずに固まっていると、思わず噴き出したレイニアが声を掛けてくる。なんだ、起きてたのか。

『着替える時になるべく裸を見ないようにしてる貴方が、イタズラして良いなんて言われたからって何かできるとは思わないしね』

完全にからかわれていた……。身体を動かす主導権を握っていてこちらが圧倒的に有利な筈なのに、この手の駆け引きでは勝てそうに無いな。

『それに、本当にイタズラする気なら、私が寝ている間に黙ってやってるでしょうしね』

全くもってその通りだ。

「……今度から黙ってイタズラするよ……」

せめてもの抵抗。

『そうね、でもこの私の身体は今は貴方の身体でもあるのよ。そんな事をして楽しいのかしら』

「どうなんだろう。人によっては楽しかったりするのかな。って俺たちは朝からなんでこんなくだらない話をしてるんだ?」

『貴方が始めた事でしょ』

レイニアが起きないから仕方なく取った手段だったのだが……。

「まぁいいか。取り敢えずレイニアも起きたのなら朝食を食べて出発の準備をしよう」

『そうね、今日中に次の街に行って、今晩はちゃんとベッドで寝ましょう』

そして俺たちは着替えと朝食を済ませ、テントを片付けて出発の準備を進める。

「忘れ物は無いよな?」

荷物を背負い、辺りを確認して街道に戻る。

街道を歩き始めて間もなく前方に荷馬車を含めた集団が見えてくる。

「どうやらシア達の商隊に追いついたみたいだな」

『シア……、元気にしてるかしら』

「いや、別れてからまだ1日しか経ってないのに元気も何も無いと思うけど」

などと話しつつ前方の集団との距離を詰めて行ってると、どうやら一番後ろを歩いてた人物がこちらに気付いたようだ。全力疾走でこちらに向かってくる。

「お姉様ー!!ユリお姉様ーー!!」

最後尾はシアだったようだ。

「お姉様!お会いしたかったですっ!!」

シアは全力疾走の勢いそのままにこちらに抱きついてきた。

「ユリお姉様!わたしを追いかけてきてくれたんですね!嬉しいですっ!」

「あー、えっとそう言うわけじゃないんだけど、目的の為にサトリアに行かなくなっちゃってね」

「それでも良いんです!こうしてまたお会いできたんで!」

シアは再開できて物凄く嬉しそうだ。こちらの胸に顔を押し当てグリグリと……、ってやっぱりこれは他の目的があっての行動なのでは?

「あぁ、お姉様!良い匂いです!」

匂い!?流石に昨日は野営をして風呂に入ってないから匂いはちょっと……。

『この子やっぱり危険だわ……。合流しない方が良かったかも』

レイニアも引いている。

「はっ!わたしったらつい、すみませんお姉様。わたし嬉しくて」

再開の抱擁もそこそこに二人で前を行く集団に追いつく。すると、集団の中から一人、こちらに近付き話しかけてきた。

「シアちゃんも可愛かったけど、これまた随分綺麗な子が来たねぇ」

旅をしていると言うには随分身軽な装備で、腰に剣を指したその男は、馴れ馴れしくこちらに近寄り手を出してくる。

「シアちゃんは素っ気なくて相手してくれなかったけど、キミはどうなのかな?」

いきなり胸に向かって伸びてきたその手を思わず払う、そしてすぐさまシアがこちらと男の間に割って入り男に警戒の姿勢を見せる。

「あの、いきなりそう言うことはやめてもらえますか?」

「お姉様から離れてください!」

シアは明らかに相手に敵意を向けている。相手の男も手を払われた事でこちらを睨みつけている。

「なんだよ!俺が次の街まで守ってやるんだからちっとは仲良くしようじゃねぇかよ」

どうやらコイツがこの商隊の護衛を請け負っている冒険者らしい。

『いくら団体行動の方が安全って言ってもコイツと一緒に行動するのは嫌ね』

レイニアもあの男は気に入らないようだ。俺もちょっとこの男とは一緒に行動したくない な。

こちらを守るように前に立つシアを後ろに下げさせる。

「えっと、わたしは一人でも大丈夫ですので、貴方とは仲良くする必要はないです」

「可愛い見た目で随分強気な事を言うじゃないか!素直に俺に守られとけよ!」

言いつつ再び手を出してくる。俺はその手を軽く身をひねり躱す。せっかく招待に合流できたと思ったらこれとは……。

あっさりと躱されたのに諦めきれないらしい男はまたしてもこちらに手を伸ばす。今度はその手首の辺りをあっさりと掴み捻りあげる。

「いててててっ!」

「見た目で判断するのはよくないですよ。あと女の子に不用意に手を出すのも良く無いと思います」

言いつつ捻り上げた手に力を込める。

「わかった!わかったから!手をはなしてくれ!」

手を離すと男は間合いを取りこちらに向き直る。

「クソッ!そんなに死にたいなら勝手に一人で行けばいいだろ!後から泣き言言ってくるんじゃねぇぞ!」

なんとも小物じみたことばかり言う男だ。

『これは相手にせずにさっさと街に行きましょうか』

レイニアに言われるまでもなくさっさとこの商隊から離れるべく歩き始める。

「あ!お姉様待ってくださいわたしも一緒に行きます!」

シアも慌てて付いてくる。恐らくシアもあの男に嫌な目に遭わされたのだろう。最後尾に居たのもあの男と関わりたくないからだったのかしれない。

シアを伴い商隊の脇を早足で歩き街道を進む。商隊の人達も特に何も言ってきたりはしなかった。

そのままシアと一緒に歩き続け、商隊が見えなくなった頃、シアが話しかけてくる。

「あの冒険者の人、わたしにもあんな感じで話しかけてきて身体を触ろうとしてきたんですよ!」

やはりシアも嫌な目に遭わされていたようだ。

「だからわたし男の人はキライです!あんなヤツばかりだし!」

これまでのシアの行動から薄々そうではないかと思っていたが、シアは男嫌いで女性同士の恋愛の気があるようだ。

『私も色々大変な目にあってきたけど、シアは随分極端なのね。まぁ、気持ちは分からないでもないけど』

レイニアも消極的ながらシアに同情している。出来れば男がみんなあんな奴ばかりだと言う誤解は解いていきたい所だが……。

「でもお姉様と合流できて良かったです!流石にわたし一人じゃ移動は心許なかったですけど、お姉様と一緒なら安心です!」

シアはあの男には怒りつつもこちらと合流出来て嬉しそうだ。俺としてはまた寝込みを襲われてはたまらないのでちょっと複雑な気持ちだ。まぁ、このまま行けば今日中に次の街に着くらしいからさっさと移動してしまえば問題ないだろう。

二人でしばらく歩き続け、適当な所で昼食を済ませる。昨日までと同じパンと干し肉の味気ない食事も他に人が居ると案外味気なさが紛れるから不思議なものだ。この点はシアと合流出来て良かったと思う。

シアもやたらとベタベタくっついてくるところは引っかかるが、終始幸せそうで見ているこちらも幸せな気分になってくる。

「さぁ、さっさと次の街に行ってしまおうか。街に行けば何か美味しいものも食べられるだろうし」

「そうですね!前の約束を果たしましょう!お姉様!」

そう言えば一緒に食事を食べに行こうって約束をしていたんだっけか。ってこの昼食はその約束には含まれないのだろうか?なんてくだらない事を考えつつ、昼食の片付けをしていると……。


どぉぉんっ!!


元来た道の方から腹に響く大きな音が聞こえてきた!

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