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サトリアに向けての旅ではあるが、取り敢えず目指すのは隣の街である。荷物を抱えていても身軽な身体で軽快に歩きつつふと気がついた事が。

「ちょっと気になったんだけど、シア達の向かってる隣街ってもしかして今俺たちの向かってる街と同じなんじゃないのか?」

『多分そうでしょうね、向こうは何人居るか分からないけど商隊だし、半日位の出発時間の差じゃ何処かで追いつくかも……』

やはりそうなるか、ちょっと感動的な別れ方をしたと思ったら物の数日も経たずに追いつくとかなんとなく残念な展開に思えてしまう。

「と言うことはその商隊と一緒に行動すれば、一人で移動するよりも安全に隣街まで行けるかもしれないわけか」

『そうね、向こうは護衛の冒険者も付いてるし、追いついたらだけど合流するのは悪い事じゃないかもね』

レイニアもシア達に合流する事には特に反対はしないようだ。まぁ、回避出来るトラブルは回避するに越した事はないということか。

「あー、その冒険者やら魔術士やらの役割がなんだかややこしくて分かりにくいんだけど……。シアは冒険者協会の依頼を受けて仕事をしてるのに冒険者じゃないのか?」

気になる事のついでに聞いてみる。

『確かにその辺りはちょっと複雑ね。順を追って説明するわ。先ず、シアは恐らく冒険者協会には所属してなくて、魔術士協会の方に所属してると思うわ』

説明が始まったと思ったらいきなり新しい組織が出てきたぞ。

『魔術士協会と言うのは読んで字の如く魔術士の管理と魔術師の仕事に関する業務を行う組織ね。

一応私とお兄ちゃんもここに所属しているわ』

そして説明が始まって早々に新たな疑問が生まれるが、話の腰を折るのも何なのでこれは一旦置いておく。

『で、本来なら魔力溜まりの浄化は魔術師の仕事なんだけど、魔力溜まりに関する対処は冒険者協会の管轄になっているから冒険者協会から魔術士に浄化の依頼が行く、と言う形になるの。何でこんな面倒くさい事をしてるかと言うと、魔術師協会が基本的に街の中の業務を担当して、冒険者協会が街の外の業務を担当する、という仕事の振り分け方をしてるからなの』

こんな所にも縄張り争いとかあるのだろうか。

『これは冒険者が主に街の外の、商隊の護衛や、盗賊、山賊の討伐、モンスター退治などを仕事にしてるからで、逆に魔術師は街の住人の生活の基盤を支える仕事が主な業務だからなのね。で、その中で時々発生するだけっていう魔力溜まりは頻度と場所から冒険者協会の管轄、という事になってるの。元々魔力溜まりは発見するのが基本的に外で活動する冒険者が多いのと、関連するモンスター退治や浄化の際の魔術師の護衛も冒険者が行うからというのもあるんだけどね』

縄張り争いと言うよりは単純に仕事をする場所で振り分けてるだけみたいだ。

『お陰で魔力溜まりの浄化に関しては冒険者協会から魔術師協会に浄化の依頼が行って、魔術師協会が魔術師を派遣する、って言うややこしい形になってるの』

それでシアは冒険者協会に魔力溜まりの浄化の報告に行っていた訳なのか。

「それってシアは兎も角、レイニアは魔術師協会に顔を出さなくて良かったのか?」

レイニアの説明がひと段落ついた所で先程生まれた疑問について聞いてみる。

『そうね、魔術師協会に所属してる身としては向こうにも顔を出さないといけないんだけど、今行くのは得策じゃ無いと思ってね』

どう言う事なのだろうか?

『前にチラっと言ったお兄ちゃんのファンの過激派集団って言うのが魔術師協会の女性スタッフ達の事なのよ。だから私が魔術師協会に行くときっとお兄ちゃんの事で色々面倒な事になるわ。しかも今身体は貴方が動かしてるからその辺りの追求を上手く躱すのも難しいだろうしね』

確かにレイニアの言う通りだ。事情を完全に把握している訳ではない俺がそう言う追求を躱せるとは思えない。きっと何処かでボロが出て面倒な事になるだろう。

『それと今説明した通り魔術師協会は街の中の仕事が主だから、外の情報が流れてこないのよ。冒険者協会は各街の協会同士が情報のやり取りを積極的に行うけど、魔術師協会は基本的に街ごとに独立してて情報のやり取りをあまりしないから』

魔術師協会が外と積極的に情報交換してたら今頃女性スタッフが総出でターバインに向かってたでしょうね。とレイニアは付け加える。過激派ってそんなに凄いのか……。

『何せ私達兄妹が街の外で暮らしてる理由の一つは過激派の存在だし。まぁ、今は協会内で紳士協定が結ばれてるとかで、抜け駆けは禁止されてるらしくて平和ではあるんだけど』

見た目が良いって言うのも大変なんだな……。

『そうそう、どうせだから名前もシアに名乗っていたユリを使いましょう。その方が魔導師協会に目をつけられなくて済みそうだし』

あれは俺が間違えて名前を言ったのをシアがそのまま受け取っただけなのだが……。それよりも魔術師協会に目をつけられると何か困るのだろうか?

「ユリと名乗るのは良いんだが、魔術師協会に目をつけられると何か困るのか?」

『困るって程じゃないけど、シアの様子を見るに魔術師協会に関わると私達も魔力溜まりの浄化に駆り出されそうじゃない。そうするとお兄ちゃんを探したくても自由に動けなくなるから、偽名を使って接触は冒険者協会だけにしておこうって事よ。レイニアは魔術師協会所属でも、ユリは所属してないからね』

なんだか魔術師協会の人達を騙して仕事をサボっているようで気が引けるが、自由に動けなくなるのは困る。ここはレイニアの提案に乗っておこうか。

「そうだな、じゃあこれからは俺はユリって名乗ろう」

どちらにしてもシアにはユリと呼ばれているし、アヴァンティから離れればユリと名乗っていても問題はないだろう。

『それに魔術師協会に知られて万が一アヴァンティの魔術師協会に情報が流れたら、色々面倒な事になりそうだしね』

過激派がお兄さんを探してる筈だしな……。情報が流れて皆んなでターバインに、なんて事になったら確かに面倒だ。

街道を歩き、背後にアヴァンティの街が見えなくなった頃、遅めの昼食を取る。旅の食料という事で昼食は荷物にならないようにシンプルなパンと干し肉だ。パンには一応ジャムを塗ってはいるが、味としては物足りない。まだアヴァンティの街を出たばかりだというのに早く次の街に辿り着いて何か美味しいものが食べたい、などと思うのはある意味で食に恵まれている元の日本に対するホームシックみたいなものなのだろうか……。

味気ない食事を済ませて再び歩きだす。レイニアが言うには次の街までゆっくり歩いても3日程と言っていたから今の軽快なペースでも1泊は野営する事になるだろうか。

「テントで寝るのっていつ以来かな、小学校の校外実習の時以来だったと思うから何年前になるんだっけか……」

テントで寝るのがちょっと楽しみで歩きながらつい独り言が出てしまう。

『ショウガッコウ?コウガイジッシュウ?』

レイニアがこちらの独り言に対して問いを返してくる。こちらの世界じゃ小学校も校外実習も無いのは当然か。しかしどう説明したものやら……。

「あー、えっと、なんて言えば良いのかな。この世界にも学校はあるんだよな?」

『学校?幼年学校とか?』

「多分それかな。俺の元居た所ではその幼年学校の事を小学校って言って、その学校での授業で外で宿泊する授業みたいなのがあるんだよ」

『授業でそんな事するの?』

「するの。俺が元居た所は平和だったから。基本的に外で寝る必要がなくって、そんな事まで授業として成立してたんだ」

『平和ねぇ、今みたいな街から街への移動はどうしてたの?途中で野営したりしないの?』

「趣味でそういう事をしてる人は居るけど、交通手段が発達してて、街から街の移動なら早ければ数分とかだから、野営する必要なんてないんだよ」

『凄い所ね……』

素直に感心するレイニア。確かにこうして歩いていると元の世界の電車や車と言った交通手段の有難みがよくわかる。魔術のお陰で生活の中では元の世界よりも便利な所もあるけど、移動に関しては元の世界の方が圧倒的に便利だ。

そんな感じでレイニアと雑談をしつつ歩き続ける。レイニアという話し相手が居てくれるお陰で一人で歩いていても寂しいという事がない。これが一人で黙って黙々と歩いていたら、恐らく他の事に気が散ってもっとペースが落ちていただろう。

しかし、およそ半日遅れのスタートの差は埋められなかったらしく、結局日が落ちるまでにシア達の商隊には追いつかなかった。なので今日は一人で野営する事になる。

隣町へ続く街道から森の中へ入り少し進んだところに見つけた広いスペースを野営の場所に決める。

「先ずはテントを張れば良いのかな?」

荷物の中からテントを一式引っ張り出す。と言っても元の世界のテントの様な骨が無く、どうやって建てるのか分からない。

「このテント骨が無いけど?」

『骨?何を言ってるの?テントは先ず広げて地面に置いて、端を4カ所アンカーで地面に固定するの』

レイニアに言われた通りにテントを広げ、端にアンカーを打ち込んで地面に固定する。

『そうしたら魔石を……、そうその小さいやつ、その魔石を持って。あ、しっかり握っておいてよね』

魔石を何に使うのか分からず言われた通りにする。そしてレイニアが小さく何かを呟くと、手の中の魔石が急に重さを失い寧ろ浮かび上がろうとする。

「うわっ」

危うく手から魔石が離れそうになり慌てて魔石を握りしめる。

『その魔石をテントの中に入れて』

何となくテントを建てる仕組みが分かってきた。魔石をテントに入れると魔石の浮力でテントが立つ。元の世界のテントもなるべく簡単に組める様に作られていたが、これ程簡単には建てられないだろう。魔術様様だ。

「何これ物凄く簡単なんだな」

『後は、灯りと温度調節、それと侵入者感知の魔石を用意するだけね』

簡単な上に元の世界の物より圧倒的に快適だ。まぁ、向こうの旅とは違って趣味ではなく必要があるから野営するのだし、少しでも快適に過ごしたいというのは当たり前の事か。

テントの中で昼食同様の簡単な食事を済ませ後は軽く身体を拭いて、後は寝るだけ、と寝袋に入った所でレイニアが労いの言葉をかけてくる。

『今日は一日歩き続けておつかれだったわね。ペース良く進んでるからこのまま行けば明日の内には次の街にたどり着くんじゃないかしら』

予定よりも早いペースで進められるのは良い事だ。明日も今日の様に何事も無く移動出来ると良いのだが……。そんな事を思いつつ一日歩いて疲れた身体はあっさりと眠りにつくのだった。

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