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レイニアの猫に対する並々ならぬ執念を感じつつ森を歩く。街から近い事と、レイニアの指示があるお陰で初めての場所でも迷う心配はなさそうだ。

「そういえば……」

先程の猫の件で気になった事をレイニアに聞いてみる。

「レイニアって俺が猫を触ってた感触って伝わってたのか?」

『伝わってきてたわよ。あのふわふわもふもふな猫の触り心地……』

レイニアが幸せそうに答える。

「と言うことはレイニアは身体は動かせないけど、五感は伝わっているという事なのかな?」

『そうなるわね』

「じゃあ夢を見ている状態に近いのかな?」

『夢か……、確かに言われてみると近いかも。もしこれが夢だとしたら、眠っている私は一体どういう状態なのかしらね』

レイニアは謎の病で倒れて、目が覚めたらこの状態だったと言っていた。つまりこれが夢だとするなら夢を見ているであろうレイニアの本体はまだ病に倒れているのか、それとも……。

「夢から目が覚めたら、病気も治ってて、自分で自由に動かせる身体になってると良いな」

『そうね』

それから2人とも無言で小一時間程歩くとレイニアの住む家が見えてきた。この家を出てからまだ丸1日経っていないのに、色々な事があったな。いやそれを言うならこの世界で目が覚めてからか。

そんな事を考えつつ家の中へ、最初に目が覚めた時以来2回目のレイニアの部屋。最初の着替えの時は色々いっぱいいっぱいで気にかける余裕がなかったが、着替えをするという事はレイニアの裸を見ないといけないと言う事に気がつき動きが止まる。

『どうしたの?早く着替えましょうよ』

「あー、今更なんだけどレイニアは俺に裸を見られても平気なのか?」

『本当に今更ね。平気って訳じゃないけど貴方と私は今は一心同体、運命共同体ってやつなんだからこれに関しては割り切ってるわ。取り敢えず貴方も私の身体に変な事をする気は無いみたいだしね』

レイニアはこの状況を受け入れているという事か。俺もこの身体を借りている身分だし、レイニアの信用を裏切らないようにしないと。

と、ここで着替えとは違う、かな厄介な問題がもう一つあったことに気がつく。それと同時にこれだけの時間がありながらその問題に一度も直面しなかったという疑問も。

「そういえば、言いにくい事なんだけど、俺たちって目が覚めてからまだ一度もトイレに行ってないよな?」

『……そう言われればそうよね。食事は普通に取ってるから普通ならトイレにも行きたくなる筈よね。まぁ、着替えは兎も角こっちは普通に恥ずかしいから行かずに済むならそれに越したことはないんだけど』

そりゃそうだろう。それにしてもトイレに行かずに済んでると言うのは考えられる事となると、この人間離れした身体能力を維持するのに普通の人以上に消化器系も強化されてて食べたものが片っ端から消化されているから、と言うことなのか?

そんなトコまで人間離れしてる言うのは良い事なのか悪い事なのか……。今回は助かる訳だが。

あまりトイレトイレ言うのも女の子相手にどうかと思うので、この話は切り上げるとして、レイニアの指示に従いながらなるべく裸を見ないよう気を付けつつ着替えを済ませる。最初に着ていた服もそうだがレイニアの服はあまり派手さの無いシンプルな物が多いようだ。クローゼットの中に並んでいる服もどれも似たようなデザインの物ばかりだった。

「せっかくこれだけ綺麗なのにレイニアって着飾ったりはしないのか?」

『私、あまり目立つの好きじゃ無いのよ。目立ってもロクな目に合わないし』

成る程、確かにこの見た目で目立つ服だと良い事よりも悪い事の方が多いのかもしれない。それでなくても自衛の魔術が得意なんて言う程には色々あったみたいだし。

そう思いつつ部屋を見渡す。部屋の中も服のセンスと同じく飾り気のないシンプルなものにまとめられている。自分の身体なのに無関心な所があったりする性格はこういう所にも出ているのだろうか。

「それで、本当にお兄さんを探す旅に出るつもりなのか?」

『そうね……。待っててもお兄ちゃんはいつ帰ってくるか分からないし、でもお兄ちゃんが居るはずのターバインは今危険な所みたいだし……』

判断の難しい所だな。果たして危険を冒してまでターバインへ行くべきなのか。

「取り敢えずはサトリアまでは行ってみても良いんじゃないかなと思う。隣のバリーナ国へ行くのにサトリアからの飛行船を使わないといけないのなら、サトリアに居ればそこでお兄さんとすれ違う心配は無いだろうし、ここよりも何か情報も得られるかもしれない。その上でターバインまで行く必要があるなら飛行船に乗ればいい」

『……、確かにそれが一番合理的かもしれないわね。サトリアまでならいくつか街を経由しながら移動するだけだし、危険も少ないと思う』

「じゃあ、サトリアまでは行ってみよう。何か準備するものってあるかな?」

『取り敢えずは路銀と服とテントと寝袋、後はナイフとかの道具類と魔石を目的別にいくつか、食料は一度アヴァンティに寄って保存の効くものを買いましょうか』

「了解。じゃあまた指示をよろしく」

指示に従い荷物を纏める。服はクローゼットの中の物をいくつかと、テントと寝袋、その他旅に必要そうな道具は家の倉庫にあった。そして……。

『魔石は多分お兄ちゃんの部屋に使っていないのがあると思うから、その中から持ち運べるサイズの物を持って行きましょう』

という事でお兄さんの部屋へと移動する。お兄さんの部屋はレイニアの部屋とは違い、雑多に色々な物が置かれている。本棚に並べられた本、机の上に無造作に置かれた魔石、そして、開きっぱなしのクローゼットに掛けられている何着ものフリフリの衣装。……ん?フリフリ?

「レイニア、ちょっと聞きたいんだけど、お兄さんって男だよな?」

『もし女だったらお姉ちゃんって呼んでるわよね……』

どうやらレイニアもこちらの言いたい事を悟ったらしい。

『あの衣装はお兄ちゃんが私に着せる為に買ったものよ。私の趣味じゃないからって何度も断ってるのに何着も買ってくきてるのが着られる事なく増えていった結果ね』

妹の病気を治す為に色々やってるのは単に妹思いなだけかと思っていたけど、なんだか雲行きが怪しくなってきてるような……。

まぁ、これだけ可愛ければ兄としては綺麗に着飾って欲しかったりするのだろうか。確かに一度あの衣装を着たレイニアも見てみたくはあるが、それを着るのは見た目は兎も角中身は自分だというのはちょっと遠慮したい所か。

お兄さんの趣味は今は置いておいて、魔石の準備に入る。

『旅に必要そうなのは……、灯り、種火、侵入者感知、後はテント用に浮遊とあとはバッグの重量軽減、って所かしら。それと予備を持てるだけ持って行きましょうか』

レイニアに言われた個数、荷物が嵩張らない程度に小さめのやつを持ち出し、いくつかに予め魔術を仕込んでおく。これで旅の準備は完了、といったところか。

『路銀は私の部屋にヘソクリを隠してあるから、それを使いましょう』

こんな若い子の口からヘソクリなんて言葉が出てくるとは。

『お兄ちゃんにお金の管理を任せると変なものばかり買ってくるから、お金の管理は私がしてたの。それで節約して余った分を貯めておいたのよ』

余計な物というのは恐らくあのお兄さんの部屋のフリフリの服こ事だろう。着られる事がない上に余計な物扱いとはちょっと可哀想だ。

『それじゃ、準備も終わった事だし出発しましょうか。何事もなくサトリアまで行けると良いんだけど』

そのセリフはちょっとフラグっぽい気もするが、ここでツッコミを入れても異世界の住人であるレイニアには通じないだろう。

『アヴァンティに行けばまたあの猫に会えるかしら』

よほど猫の事が好きらしい、楽しそうにそう言うレイニアにちょっと思いついた事を言ってみる。

「それならサトリアまでにいくつか街を経由するみたいだし、それぞれの街の猫を見て回るのも良いかもな」

『猫巡り!!良いわね!旅の楽しみが増えるわ!』

どうやらこの提案はレイニアのお気に召したようだ。嬉しそうな声が聞こえる。

「アヴァンティにも他の猫が居るだろうし、買い物ついでに猫も探してみようか」

『猫を探すついでに買い物ね!さぁ、早く行きましょう!』

食いつきが良すぎて目的が変わってきている気がするが……。まぁ、気にせず街へ向かおうか。

家を出て街に向かって歩きだす。野営を視野に入れた日を跨ぐ旅の準備をしているだけに、背負っているバッグは結構な荷物だが、この身体の身体能力の高さと荷物の重量軽減の魔術のお陰で動きは身軽だ。これなら長距離を歩くのにも大した負担にはならなさそうだ。

「ところで旅に出るのは良いんだけど、夜は女の子が一人で野営なんかして大丈夫なものなのか?」

『普通は大丈夫じゃないわね。大抵はシアが一緒に出発していった商隊みたいに冒険者が護衛に付いて移動するものだけど、流石にそこまでのお金の余裕はないから、寝る時は侵入者検知の魔術で警戒して、何かあったらその都度対処するって所かしら』

なんとも呑気な事を言っている。自分の身体なのにこういう所で無頓着なのは気になる所だ。

『今の私達ならよほどの事が無い限りは一人で対処できる筈よ』

説得力が有るんだか無いんだか。旅の始まりから早くも不安を感じてしまう。

そんなこちらの不安を他所に、街に辿り着くとレイニアは元気に喋りだす。

『さぁ!猫を探すわよ!』

いや、目的は猫じゃなくて食料の確保なんだが……。

とは言いつつ俺も猫は好きなので、ついつい道の端や路地裏など猫の居そうな所を探してしまう。

結局朝出会った猫には会えなかったが、違う猫を数匹撫で回すことに成功し、レイニアも満足しつつ食料の確保を終わらせる。

そして俺たちはアヴァンティを出て、改めてサトリアに向けて歩き出した。


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