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『……きて……、起きて……、……起きて!起きなさい!ねぇ、起きなさいってばっ!!』

……女の子の呼びかけてくる声、ゆっくりと覚醒していく意識と共に声もはっきり聞こえてくるようになる。

『ちょっと起きなさいってば!早く起きないと私の身体が大変な事になっちゃうかもしれないでしょ!!』

女の子の、レイニアの必死な叫びに意識がはっきりと覚醒する。そして眼を開いて飛び込んできた光景は知らない天井……、ではなくて俺の上に跨って眼を閉じ、こちらにゆっくりと顔を近づけてくるシアのどアップだった。

「ちょっシア!?なにやってるの!?」

予想外過ぎて理解の追いつかない状況に思わず叫んでしまう。その声にシアの動きが止まる。

「あら、お姉様もう起きちゃったんですか?」

この状況に似つかわしくないシアの落ち着いた声。

「えっと、シア、これは一体どういう事なのかな?」

全くもって状況が把握出来ずシアに問いかける。

「どうもこうも、ただわたしとお姉様が一つになるというだけですよ。うふふふふふふ」

シアは平然と、そして満面の笑顔で答えてくる。

一つになる!?どういう意味なのかさっぱり分からない。分からないがこのままシアにされるがままなのはマズイと思いシアを押しのけようとする。人間離れした身体能力を持つレイニアの身体なら簡単に押しのけられるはずなのだが、何故か身体が全く動かない。

「し、シア!?身体が動かないんだけどっ!?」

「お姉様に暴れられたらわたしなんてひとたまりもないですから、拘束魔術で動けなくさせていただきました。わたし、拘束魔術は得意なんですよ?」

拘束魔術!?身動きが取れないとシアを引き剥がす事が出来ない。

「でも、流石お姉様ですね。お茶に混ぜてた薬で3時間は眠りっ放しの筈なのに、直ぐに目が覚めてしまうなんて。」

お茶を飲んだ途端に眠ってしまったのはそういう理由だったのか。それにしてもシアは事に及ばずにこうして話をしているところを見ると、拘束魔術とやらに相当な自信があるようだ。

『はぁ、あの子ちょっと怪しいなとは思ってたけど、まさか本当に予感が的中するなんてね……。とりあえずユリト、拘束魔術は私がどうにかするから時間を稼いで頂戴』

そこでため息交じりのレイニアの声、そして小声でつぶやき始める。どうやら魔術の準備に入ったらしい。

それにしてもレイニアも妙に落ち着いているがこの事態が予測できていたというのだろうか?まさかとは思うが昼間のモンスターの様にシアを魔術で跡形もなく消し飛ばすなんて事は無いよな……?

そんな不安を抱えつつ。レイニアに言われた通り時間を稼ぐ為シアに話しかける。

「シア、もう止めよう?こういうの良くないと思うんだわたし」

「何を言ってるんですかお姉様?一緒に気持ちよくなりましょう?」

気持ちよくなろう。思春期の男子高校生としてはとてもとても気になる事だが、その為に借り物の身体を差し出す訳にはいかない。

「気持ちよく……。ってわたし達女の子同士だよ!?」

「女の子同士でも愛があれば大丈夫ですよ!寧ろ女の子同士だから良いんですよ!」

愛!愛って何だ!?人を眠らせておいて襲うのは愛のある行為なのだろうか?後女の子同士だから良いってこの子はそういう気がある子だったのか!?

今日一日色々な事があったけど、まさか最後にこんなとんでもないイベントが待ち構えていただなんて!

「うふふ、ユリお姉様。美しくて、強くて、優しい、私のお姉様……」

「シア、落ち着いて?ね?こんな一方的なのは愛じゃないと思うんだ?」

こちらが必死に呼びかけるも、シアはもう答える気はないらしく眼を閉じてゆっくりと顔を近づけてくる。これ以上の時間稼ぎは無理そうだ。俺の初めてのキスがまさかこんな相手に無理やり奪われる形になるなんて。ってあれ?今はレイニアの身体に居候している身だからこれは俺のファーストキスになるのだろうか?

などと諦めからなのか現実逃避からなのか、どうでもいい事に考えがそれつつあると、魔術の詠唱が終わったらしいレイニアの叫びが聞こえる。

「ディスペルッ!!」

そのレイニアの魔術の発動と共に身体の自由を取り戻した俺は、どうにか間一髪のところでシアを引き剥がす事ができた。

「あ、危なかった……」

『本当に危なかったわね。解呪の魔術が間に合ったから良かったけど、まさかこの子がこんな直接的な行動に出るなんてね……。危うく私のファーストキスがシアに奪われる所だったわ』

どうやらレイニアもキスはまだ未経験らしい。どうにかファーストキスが守られて良かった。

「……なんでお姉様動けるんですか?拘束魔術が完全に入っていたのに……。詠唱も無しに解呪だなんて……?」

引き剥がされたシアが驚きと疑問に固まっている。レイニアの声は俺にしか聞こえていないはずなので、確かに俺は全く何もしていない状態から魔術を使ったように見えたのだろう。

「さて、どうしたものか……」

固まったままのシアを見つつ呟く。

『そうね、取り敢えずこの部屋に入れないようにしておけば今晩は大丈夫じゃないかしら』

つい先程まで自分の身体が貞操の危機に晒されていたとは思えない余裕を見せるレイニア。そんな余裕な態度で大丈夫なのだろうか?

『取り敢えずシアには自分の部屋に戻ってもらいましょう』

まぁ、レイニアがそう言うなら従った方が良いのだろう。まだ呆然と固まっているシアを立ち上がらせて自分の部屋に帰らせる。

「それでこの後はどうするんだ?」

レイニアに聞いてみる。

『先ずは魔石に目一杯魔力を注ぎましょうか』

レイニアの指示で部屋の片隅に置かれた石の所へ移動する。

『じゃあ、その石に両手をかざして。そうしたら後は私がやるから』

言われた通りに石に手をかざす。するとレイニアはまた小声で魔術の詠唱を始める。

『施錠強化』

詠唱が終わるまで少し待たされるかと思っていたらレイニアの詠唱はあっさりと終わり、魔術が発動する。

『……、一応保険もかけておきましょうか』

そう言うとレイニアはまた短い詠唱の後に魔術は発動させる。

『侵入者警報。……これで多分大丈夫よ』

二つの魔術を発動させた所でレイニアが言う。

「さっきの魔術に比べると随分あっさりした詠唱だったけど本当に大丈夫なのか?」

不安になり問いかけてみる。

『どっちの魔術もよく使う魔術だから、使い慣れてるのよ。その分詠唱も早くなってるって事ね』

成る程、施錠強化に侵入者警報、どちらも言葉の通りの魔術だとするなら不意な侵入者を防ぐ為の魔術という事だろうか。使い慣れているという事は、レイニアくらいの美人になるとこういう魔術を使う機会も増えるという事なのだろう。

こちらもレイニアの身体を借りている立場なので、その辺りは気をつけないといけないだろうな。

『それじゃ、今日はもう寝ましょうか。明日は冒険者協会に行って、お兄ちゃん情報を聞いて、場合によっては私達も旅に出る事になると思うわよ』

旅か、魔術なんてものが存在する世界で旅をする。まさか自分がそんなファンタジー小説の主人公の様な事をするとは夢にも思わなかったな。

「そうだな、早くお互い元の生活に戻れる方法を探さないといけないし、その為には何か知ってる筈のレイニアのお兄さんを探さないといけないもんな」

明日の方針も決まったし、そろそろちゃんと寝よう。今度はシアに襲われる心配も無いだろうし、ゆっくり寝られるだろう。

レイニアの魔術に安心したのか俺はベッドに横になるとあっさり睡魔に負けてしまう。そして俺は、明日の朝起きた時にはこれが全部夢の中での出来事で、目が覚めた時には日本の、俺の部屋で俺の身体である事を願いつつ眠りにつくのだった。


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