096 チケットゲット
「……それで、ちょっとお話があるんですけど……その、抽選会で当ててたものの事で」
ひと段落ついて、今日の本題に入ることに。
「やっぱりそれね。闘技場に興味あるんだ」
「はい、すこし気になって」
闘技場、というか転生者の子が出るっていうのに興味がある。
すっかりくつろいでいたペルシェトさんは僕の言葉でカップを置いて、こちらを向いてくれた。
ソファに座っているナグモさんはコーヒーをのみつつも耳だけはこちらに向けてくれているようだ。
二人にあまり勘繰られないようにしないと……。言葉選びは慎重に、だな。
「もしよかったら、その……お金は払いますので、一緒に連れて行ってもらうことってできますか?」
「あーあー、お金なんかいらないって。ちょうど三人のチケットなんだし、いいよ~」
「い、いいんですか? でも」
「クラディス君が行きたいって言うんだから断る理由はないね! 子どもから金を巻き上げるほど落ちぶれてもないしぃ」
なにより、と言葉を続けて。
「スタッフには四等賞のことを黙っとけばいいし!」
シッシッシ、と歯を見せて笑ってくれた。
するとナグモさんがカップを机に置いて、治癒魔導書を再び開きながら。
「ペルシェトはお金持ちですからね~」
「こう見えて、食費以外は貯蓄してるから!!」
ナグモさんの言葉に乗っかって、親指を立ててどや顔。
それは声を大にして自慢をするようなことなのか、というのはさておき。
「少しくらいは払った方が……」
「うぇー、もー、変なところまで真面目なんだから。……あ、だったらさ、治癒士のスキルとかを人に教える練習をしたいから、闘技場が終わってからでいいからちょっと付き合ってよ! そうしたら、帳消しにしてあげる」
「教えてもらって、帳消し……?」
それは僕にとって願ったりかなったり、利益しかない話だ。
「いいんですか? そんな」
「もちもち! ゆくゆくは学び舎みたいなものを開こうと思っていてさ。その練習台をね」
「ペルシェトさんがそれでいいなら……それで、お願いします」
「へっへー、やったー!! あ、このことは内緒ね!!」
「分かりました」
「ナグモさんも!」
「言いませんよ」
「じゃあ、けってーい!! わーい! 儲け儲け!」
猫耳をぴょこぴょこと嬉しそうに揺らし、バンザイしながらソファにもたれた。
ペルシェトさんが治癒士っていうのは知っていたけど、学校を開こうとしてるのか。
とても面白そうな話だ。僕も治癒士の分野の勉強はまだまだできてなかったから、非常に助かる。
とりあえず闘技場のことは約束できたから今日の目的は一つ完了できたな。
それにしても、商店街で二人と会うなんて思わなかった。二人とも私服だから、同級生と休日たまたま鉢合わせて私服を見た時の感覚に似たモノがある。
今日はギルドは休みだったのかな? 何はともあれ、ラッキーだった。
「あの……それで、闘技場っていうのはどんなところなんですか? あと、客引きの人がいってた……なんだっけ、727番? っていう人はどんな人かーとか」
「闘技場かぁ、私もよく知らないんだよねー。ナグモさんは知ってる?」
「……えぇ、たまに見に行ったりしますよ」
(……ん。今、ナグモさん……一瞬だけ笑った?)
「わぁ、不良だ」
「ほぉ、人の趣味を不良と言いましたか。いい度胸です、これ貰いますね」
「うわぁ!!! 私の果実っ!!!!」
いや、気のせい、か。
それにしても最初は二人でお出かけをしているからもしかしたら付き合ってるのかと思ってたけど……これは付き合ってると言うより、ティナ先生とかと同じ扱いだな。
果実を手に持って高い所に持ち上げている様子をみて、苦笑い。
(子ども扱いしてくるというか、なんというか)
ナグモさんの意外な趣味が発覚したことで、そこからはナグモさんの闘技場の話を受けた。
話を聞く限り、闘技場というのは僕が想像していたモノより少し違ったモノらしい。
僕が想像していたのは戦士が一対一で戦って、それを見るっていうコロシアム的なものだと思っていた。しかし、この世界の闘技場というのは――
1.闘技場に参加するのは、最初から参加する戦闘奴隷に加えて、参加費を払って参加する人が戦う。
2.部門が存在して、レベルや闘技場の参加回数で全部で三つの部門に分けられている。
3.各部門が始まる前にお金をかけれるらしい。(聞く話から推測するに、競馬とか競輪のようなシステムだと思う)
4.全部門終了後にオークションがあって、闘技場の全部が終了すると戦闘奴隷を購入できる。
それで、ここからが僕が聞きたかったことだ。
5.奴隷番号727番は何か月かに1回開かれる闘技場で出場したどの部門でも勝っていて、現在29連勝中らしい。(だから『転生者』という疑いがかかっているのか?)
6.727番は褐色肌でダークエルフのような見た目の少女。通称【最強の少女】と呼ばれ、戦い方は拳で戦う武闘家のような戦い方が得意。
と、話してくれた。
そうして、日程や色んな話を詰めていって、鍋をごちそうになった。
鍋奉行を任されるとは思ってなかったけど、二人にも満足をしていただけたようでよかった。
とても美味しかった! やっぱり複数人で食卓を囲むというのはいいものだ!
そして暗くなる前に僕を帰した方がいい、ということで途中で僕は抜けさせてもらった。
 




