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095 ペルシェトさん宅にお呼ばれされた

「いやぁー、部屋汚いけどごめんねー」


「そんな全然、僕の部屋より綺麗ですよ」


「えっ、クラディス君って意外とそういう人? まぁ、適当にくつろいでて~」


 そう言うと、ペルシェトさんはキッチンから覗かせていた顔をひっこめた。

 

 僕は今ペルシェトさんのお宅にお邪魔をしている。

 あの後、ペルシェトさんに「家に上がりますか?」と言ってもらったので家に上がらせてもらったかたちだ。

 ぐるりと失礼のないように見回せば、部屋はギルドスタッフの女性寮……僕の部屋とほとんど同じ間取り。


 最低限の私物しか置いてないっぽいけど、やっぱり僕の部屋より女性って感じの部屋してる。

 といっても女の子女の子している部屋ではなく、緑を基調としたゆっくりできそうなカラーリングをしている。ところどころに本やノートが平積みされていて、一番上の本は僕も知ってる『治癒魔導書』だ。


 と、それをひょいっと手にしたのはソファに座っているナグモさん。

 2人は丁度買い物を終えて、鍋をするとかなんとかって話をしていたらしい。

 

「ナグモさんってそれ見てわかるんですか?」


「いいえ。全く」


 睨むように本の文字を追っているのを見て、笑わないようにと視線を外しているとキッチンから可愛らしいお耳が覗き、ペルシェトさんがお盆に乗せたコーヒーカップを3つ持ってきた。


「ほいっ、コーヒーと砂糖とミルク。ナグモさんはブラックだから要らないですよね?」


「あれ、最近ブラックに変えたのをよく知ってますね」


「スタッフルームのコーヒーを淹れてる姿が良く見えますからね。クラディスくんはこれね~。あ、その前にコーヒー飲めたっけ?」


「飲めます飲めます。むしろ好きです」


 ありがとうございます、とお盆の上からカップを両手で受け取ると、


「それで、今日はあそこで何してたの?」


「ぅえ? えっと……少し色々と」


 にやりと笑いながら、前かがみになって聞いて来た。

 『転生者』を探しに来てましたなんて言えるわけない……よな。えっと……。


「買い物ぉ……とか、外の空気が吸いたくて……ぇ」


 嘘をついている訳でもないのに、笑顔が引きつっちゃう。

 ペルシェトさんに若干押されながら答えていると、チラと横に置いていた沢山の紙袋が目に入った。


「あ、そうだ! これ、よかったらどうぞ」


「……? あぁ! 持ち運びに苦労したやつね。でも、どうぞって……全部買ったものじゃないの?」


「いえ、商店街の人達からおまけでもらっちゃって……ほとんど」


「おまけぇ!? あの量がぁ!?」


 わっと目を丸くして、耳がピーンと立った。

 やはりペルシェトさんは食の話題につられやすいようだ。よし、このまま……。


「僕だけでは食べきれないので、ナグモさんもよろしければ」


「そういうことなら、もらいましょうかね」


「わーい! ねっ、中見ていい?」


「どうぞどうぞ。お好きなだけ」


 ふぅ、と話題を逸らしが成功したことに達成感を覚える。

 ゴソゴソと沢山ある紙袋を覗いている二人を見ながら、


「僕だけじゃあ食べきれない量だったので助かりました。生ものもあるので、痛まない内に食べておきたくて」

 

 おおよそ子どもが一人で食べきれるような量ではなかったのは本当だ。

 そんな僕の声が聞こえているのか、いないのか、ペルシェトさんはプレゼントをもらった子どものように目をキラキラとさせて、品物選びを楽しんでいる様子。


「わぁ……沢山ある。凄い」


「おまけの量にしては凄いですね」


 でもさすがに、本当にこれのほとんどがおまけなのか……? と言いたげな視線を向けてきたから、微笑んで返す。


「今日の鍋に使えそうなものとかあれば。あとは他のスタッフさんにも良ければ」


「あっ、そういうことなら丸リーダーにもいい?」


「ぜひぜひ」


「これだけ鍋の材料があれば安心ですね」


 紙袋を抱きかかえているペルシェトさんの横で、ナグモさんはひざ元に置いて形のいびつなリンゴ(のようなもの)をいろんな角度からみつつ、


「なにぶん、よく食べる人が多いですからね。ね、ペルシェト」


 と、犯人はお前だと言っているような口調で問いかけ。


「そ、そうですか? そんな人いたっけ……?」


「……」


 ジト目で見ているナグモさんの視線に気づかずにせっせと品選びをしている。


「アハハ……お好きなだけどうぞ」


 ゴソゴソと自分達が欲しいモノを分けていくと、綺麗に分けることが出来た。

 僕の元にはクエストの時に簡単な弁当が出来そうなくらいには残った。


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