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092 調査をしたいと思いました



 ティナっていう見た目はただの少女……。だけど、ものすごくやばい人が僕の新しい先生になって二週間が経った。

 なんだかんだあったけど、ギルドでの生活ももう折り返しだ。

 変わり映えもせず、二日に一回にあるティナ先生との訓練、その休みにケトスとのクエスト、また訓練、またクエスト――と、過労死寸前の生活を絶賛送っているところ。

 体がバキバキで、痛くて、つらい。

 今ならベッドから起きるのがつらいって言っていた人の気持ちが分かる気がする。


 そんなある日、ずっともやもやと思っていたことをエリルに相談することにした。


「エリル、僕は思ったことがあります」


「は、はい。なんでしょう」


 ベッドの上に座ってる僕がエリルに向かって右手を上げた。

 それに釣られ、向かい側のエリルは左手を上げてパチッと手の平を合わした。

 

「僕は当たり前だと思ってました。でも、おかしいと思うんです」


「はい……。ん?? はい……っ。?」


 返事は返ってきたけど、いまいちわかってない様子で小首を傾げてる。

 その頭上に浮かぶクエスチョンマークを取っ払うように僕は言葉を続けた。


「ケトスの時にも思ったんだ! 僕以外の転生者って何をしてるんだろうって」


「あ~! はいはい!」


 話の大まかの流れが分かったように、背筋を伸ばし、こくこくと頷いた。


「だっておかしいよ。僕だけが頑張ろうと思ってるハズがないんだ」


「なるほどなるほどお。……ふむん、それは……そうかもしれませんが、転生してきてまでそういう立ち回りをしたくない……とかじゃないですか?」


「でも直さないと、自分の好きに生きようと思ったら殺されちゃうんだよ?」


「むぅ」


 転生というのは――今はそうは思っていないけど――とても面白い仕組みだと思った。

 【命】そのものに対しての救済措置。社会保険や生命保険ならぬ世界保健のような感じ。

 だがしかし、今現在『転生者』は迫害をされていて「転生したから、自由に生きれるやっほーぅ!」と諸手を上げて街を駆けずり回ろうものなら即座に殺される始末。

 だが、だれも、この現状に反旗を翻そうとはしない……。


 ぐりぐりと自分の頭に手を当て、うあぁぁぁと小さく吠えた。


「今の現状に不満はあっても、おおむね満足をしてる、とか!」


「うわっ、絶対それ、それっ! 頑張ろうと奮起するほどじゃないんだよ、多分!」

 

 僕がのうのうと今まで生きてこれたのが、何よりの証拠だ。

 だったら「転生者とバレたら殺される」と知って動いている人なら、余程のヘマはしない限り生きていられる。

 生きれるだけでいい。それもそこそこの収入があって、普通の暮らしができればそれで良し。

 そもそも、普通の暮らしができていなかったからこの世界にきたんだもんな。多分みんなそんな感じなのだろう。

 

「まぁ、後は……せっかくだから大きなことを成し遂げてやろう、と口に出してみるものの、何から手を付けたらいいのか分からず、時が流れ、平凡な日常に満足して意志が萎んじゃった……とか」


「うわあ、すごく有り得そうな話ですね」


「割とありふれた事柄だから、笑えないんだよなあ」


 世界平和だの、他の人の幸せだのを願って身を粉にして働く。これこそ、年始に建てる今年度の活動目標よりも達成できないものだ。

 そんなに熱量が続くとも思わないし、僕に限っては元々そんな崇高な理念など持ち合わせていない。

 だって、元の世界じゃそんな考えなんてなかった。せいぜい隣にいる誰かを幸せにしたいーとか、そういう具体的で身近なことでしか発揮できない、と自負をしている。


「だけど……だけどだよ? さすがに、このままじゃダメでしょ」


 まさに、緩やかな衰退を辿っていくモノを見ている気分。

 早いところ()()()しないと悪い結果になるのは目に見えている。 


「いまはいいかもですけど、将来的に転生者だと明確に分かるような技術が開発されたら……」


「終わり。その検査みたいなのを適当な理由を付けて義務化なんてされた日には、それこそ森の奥に住まないといけなくなる」


 僕の前にどれだけの転生者がいるのか分からないけど、状況を放置しすぎだ。ブラックな会社でも、これほどまでに状況が悪化していたら何らかの対処をするよ? いやしないかもしれないけどさ。

 世界の情勢というか『当たり前を覆す』っていうのは並大抵な労力ではないのは分かっている。だとしても継ぎ接ぎなものでもいいからしておいてほしかった。

 僕が知らないだけかもしれないから一概には言えないけど……。


「……んん」


 ベッドの上で腕を組み、唸った。

 エリルも同じポーズをして、二人して左右に少し揺れながら、うんうんと唸る。

 そして、パチリと目を開け「分からない、から」と本題に入ろうと声を出すと、エリルもパチっと大きな目を開けた。


「少し僕以外の転生者の現状を知りたいから、調べることにしました!」


「了解です!」


 シュビっと敬礼したエリルをみて、僕も敬礼をしてみた。


「それで、調べると言っても何をするんでしょうか!」


「あい、デュアラル王国を練り歩いてみようと思います!」


「おぉ!! 街を散策ですか!」


 目をキラキラさせたエリルだったが、少し前かがみだった体勢を直して。


「でも、そんな簡単に転生者の話って聞けるんでしょうか?」


「聞く、というより、何か噂話でもいいし、人の話の中に出てくるだけでもいいかなっていう感じかな」


 色んな人に「転生者の事って知ってますか!?」と聞きまわるようなことはするまい。


「だから、人が多く集まってそういう話をするとこに行こう」


「ラジャー!」


 話がまとまるとベッドから飛び下りて、身に付けるモノを身に付けて部屋からとび出た。



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