88 ギルド定例会議②
一種の侮辱ともとれる行動をサラっとしているのは、二人は理解している。
だが、熱を持ったまま冷静な発言ができなかった者に灸を据える手段としては有効だろう。
そして、面白おかしく話し合いを見ていた職員に対する可愛がりとしても有効だ。
「ギルドは中立の組織ではありますが国の領土に建物を構えている以上、そこの国が定めている法に従わなければなりません。特に、国が国民の“個人の権利を損なってしまう”と判断した法に関しては、こちらもソレに対し何らかのアクションをすることを許されてはいません。結局互いに干渉しあわないと言っても、譲り合いで決めた線引きを超えるようなことをしてはいけないのです」
「……ということだ、分かっていただけたか?」
「そ、そんなことわかっておるわ」
「そうですか、ならよかった」
ギルド長の目配せで着席したナグモは、その役員に向かってビジネスの会釈をして、すぐに真顔に戻った。
それを見ていた隣のペルシェトは眉をひそめて反対のルースの方に体を寄せる。
役員という者は現場の声というのを知らず、現実的に考えて無理難題なことばかりを打ち出してくる者が多い。
決して頭が悪いという訳ではない。単に『冒険者の現状』をデータでしか理解してないから、現場との認識にズレが生じてしまうだけ。
人や物を消耗品として扱う者が多いのは些か問題ではあるが、彼らはそういう役目を負うのが仕事なのだ。
「ステータス開示の要求は理解した。しかし、如何様に死者数を抑えるという話し合いが進んでいないだろう」
「ああ、だが、死者数増加に関しての原因は分かっている。うちのがデータを集めたから、まずそれの話を聞いてくれ」
また役員が口を酸っぱくして話を始めそうだったのを止め、ルースの方へと目配せ。
ルースはそれに応じ、資料を片手に立ち上がった。
そのいつも以上の仕事モードの入りように、ペルシェトは口を嫌そうにキューっとしかめ、体を反対方向のナグモのほうへと寄せた。
「では、スタッフリーダーのルースが発言をさせていただきます。皆様、お手元に配布している資料の28ページをご覧ください」
そこからは役員たちの好きなデータの話し合いの始まり。
今まで言葉を発さなかった者も活き活きと口を開き、活発な議論が展開されて行った。
◆◇◆
ルースが示したデータによると、死者数は増加をしていっている原因は大きく分けて四つ。
□治癒士の慢性的な不足。
□装備を渋る冒険者の増加。
□慢性的な実戦経験の不足。
□近年、異常事態が多く発見される。
これらが主な理由と出された。そして改善策として挙げられたのが以上の事だった。
□閉鎖的な治癒士協会との連携を図り、潜在的な治癒士を冒険者で戦っていけるまで能力を上げる。
□鍛冶師組合との連携を強化し、冒険者に対して鍛冶師の情報を提供する。また、未熟な鍛冶師の武器を冒険者に安価で貸し出し、直接的な契約を結べれるように紹介をする。
□以前から計画されていた定期的な『銅等級の冒険者から金等級の冒険者への大規模なクエスト』で、戦闘経験を増やして場数を踏ませる。
□魔物のことを教える者達に異常事態を学生へと認知させることを努力義務から義務化へ。
他にも『異常事態発生に、街や村へ派遣する依頼受注人数の下限を引き上げる』や『以前の制度を復活させ、ギルドの施設で戦闘訓練をさせる』など。
考えられる原因は多くあるのだが、ここ最近で顕著になったモノから早急な対応を急かされた。
後者は今現在【アサルトリア】が連れてきた白髪の少年に対して行っている制度の事で、今後の制度の実装に向けての課題発見や調整を兼ねて試験的に行われていること――だが、活動限界量を超えた訓練や睡眠時間を削っての毎日の勉強でも音を上げないことからデータが取れないと判断された。
「治癒士協会の対応はどうなんだ! 全く協力的ではない!」
話が落ち着き、男が気性荒く机を叩いた。
「治癒士協会は元々、冒険者に依存をしていない組織です。治癒士を排出するためではなく、傷を癒す職業全般に人員を輩出しているので、こちらと多少なりとも意見が違っても致し方ないでしょう」
「だったら治癒士を育成する組織を新たに作るべきだ。そうでもしなければ、ズルズルと先送りするだけになってしまうぞ」
「治癒魔導書を発行しているのは治癒士協会です。あそこに強気に出てしまったら、それこそ治癒士の質が下がってしまいます。向こうに治癒士にまつわるすべての権利がある時点で、我々はどうしようもない」
役員達が興奮気味で話をする端。姿勢を正しながらも話を聞き流しているペルシェトの姿。
(はーいはい、毎度の話の持って行き方)
好まれた態度ではないが、心の中で悪態をつき、この会議が始まって何度目か分からないが口をすぼめた。
治癒士の話が出るたびに議題に上がるのは「冒険者ギルドは治癒士協会と連携し、治癒士の冒険者数を増やす」だ。
これは今に始まった話ではなく、過去に幾度となく話を持ち掛けている。
それにも関わらず、いつも返ってくるのは「半端な治癒士が増えてしまうことに繋がる、それを我々は望んでいない」と。
(ほんっと、治癒士協会は今も昔も変わらないですよねえ……)
閉鎖的な協会と揶揄される『治癒士協会』だが、文字通り協会の在り方を詳しく知る者は少ない。
端的に紹介をするのなら、協会に入るためには高い金を積まなければ入ることができず、申し訳程度に発行している治癒魔導書の応用の応用を理解した者であるなら、少量の納金で特別枠として協会へ入ることが許されている協会。
扱う分野が人の生死にまつわる事柄である以上、協会で勉強を重ねる必要がある。
そして、治癒士の技量が協会の設けるある一定の水準に達することができたら治癒院で治療をすることを許され、その水準に達しなければ自分の所属する一党以外の傷を治癒することは許されない。
『聖教会』という協会の支部のような場所に所属するという方法も一つある。
だが、そうなると一般的に『冒険者』という扱いではなく、その内部の繋がりでのみの行動で限定されてしまう。
要は金持ちしか入れない場所でしか勉強できない。
勉強をしないと例外を除いて、公に治癒することはできない。
金がない治癒士が上を目指すとなると発行されている治癒魔導書を完璧に理解する必要がある。
このように治癒士に関する取り決めは他の職業より複雑。
そのこともあって、上位冒険者の一党は治癒士を採用していない場合がほとんどだ。
協会に所属していない治癒士のレベルの治癒魔法であれば、治癒士協会や聖教会が作っている水薬で事足りるというのが悲しき現実。
(そんなんだから、治癒士は職業の中でも差別され、孤立しているんでしょ)
活発に話し合いがされる中、胸内で小さくごねたペルシェトは大あくびをして資料に落書きを始めた。




