07 この少女は?
世界のありとあらゆる情報を自動で記録する場所――『世界樹』では、新たな情報が次々に追加されて行っている。
様々な文字が浮遊移動をして、中央にある世界樹へと集まり、吸収されて行く。
それらの文字は途切れることなどなく、全方向からうねりながら世界樹のデータの一部として保管される。
その巨大な樹は、世界に住む生命体が認識し得ない空間に置かれ、厳重に管理をされている。
それらを閲覧できる存在は、各『創造神』とそれらを統べる『全統神』。もしくは、それらの業務の補助を担当し、世界の動向を監視する『観測者』しかできない。
「むむ? ないんだけど……? あれぇ?」
その空間にぽつりと一つの影が半透明の板――『ボード』の前で格闘をしていた。
ひらひらと揺れるのは、襟元前にリボンが結ばれている膝丈の半袖ワンピース。
それに合わせて、黒く透き通るような長髪がひらひらと踊る。
その可愛らしい服装を着ている者――少女は『ボード』を色んな方向から睨むような眼差しを向けていた。
しかし、角度を変えても出てくる情報は変わらない。
「うがーぁ! どっこにも書いてない! なんで……? 私この世界のこと何も知らないのにぃ……このままじゃやばい、何か考えないと……」
慣れた手つきで『ボード』を操作するも、思った情報が全く出てこなかったらギャアと声を上げる。
静謐な空間なだけあって、それがまたよく響く。
「うげぇ……ほとんど勉強できてない……。でもそろそろいかないとだし……んぅ〜、ぁ〜」
唸りながら、再度真っ白な転生者の情報が記載されているはずの『ボード』に目を向け、駄々っ子のように頬をふくらませる。
「この世界の情報管理はどうなってるんですか! まったくっ!」
彼女なりの最大級の怒りを露わにしたつもりだが、ぷんすか、という言葉がどうにも似合う。
怒りのまま『ボード』を閉じると、目の前に扉を出現させた。
「でも、いかなきゃ、ですもんね。怒ってばっかりだったらだめだ。これからお世話になる『ますたー』に会いに行くのに」
少女的にも思うところは多くあるし、その表情からは少しの不安が見て取れる。
だが、人と会うためにその表情は相応しくない、と人差し指で口角をぐいぐいと押し上げた。
やや表情筋と格闘をすると、満足がいったのか、扉の中へと消えていった。