77 無事に説教された
ケトスが帰っていった後、取り残された僕はクエストの報告をしようと思って、街中を歩いて冒険者ギルドまで向かった。
受付に並ぶと酒場の方から「あいつの服、血塗れだぜ」「生き急ぎすぎだろ」などと茶化す声が聞こえてくる。が、酔っ払いに絡んでも何もいいことがないのはよく知っている。
それに、こんな時間から飲んでる飲兵衛とか怖い人が多そうだからやめてほしい。
そんなことを思っていると僕の番になった。
遠目から見えていたし会話の時の声でなんとなく分かってたけど、担当はペルシェトさんがしているようだ。
朝早いっていうのに、大変だなぁ……。
「次の冒険者様」と声が聞こえたから「ぁい……!」とこちらも声を出す。
「あれ……? ん?」
受付台が高いからつま先立ちして手を頑張って伸ばしていると、覗き込むように僕の姿を確認。
僕の顔が見えたら目を開いて驚いた顔になった。
「え、わ、クラディス君じゃない! あれ……あ! おかえり!」
「ただいまです。いや、そうじゃなくて……えっと……ちょっと、受付台高いですね、はは」
「ちょ、ちょっと待っててね! あそこ開けるから、中に入ってきてね――ちょっと、私と受付変わってて!」
「ええっ、なんで俺が……」
「いいでしょ! ホラホラ! あ、クラディス君はあっちから入ってきてね!」
ムロさん達と来た時に使った通路のドアが開かれた。その通路を歩いて行く。
少し歩くと、ガチャ、とドアが開かれてペルシェトさんが顔を出してきた。
先ほどまで眠たそうだったのに、耳がぴょこぴょこと機敏に動いてる。
「色々言いたいことあるけど……その前に……うん、血塗れだね。その姿で入ったら掃除担当が怒っちゃうからっ……ほい! 『清潔』!」
「わ、これ、魔法ですか?」
何かを唱えたと思うと、僕の体を白い魔素がふわっと包んで、魔法陣が頭の上から足元まで降りていった。
その魔法陣が通った場所から途端に血や汚れが綺麗になっていく。
自分の服と体が綺麗になったのを確認するように、ぐるり。
いや、キレイどころじゃないぞ。まるで新品みたいに……くんくん……うん、臭いもしない。
すると、ペルシェトさんが近寄ってきて頬をつねってきた。
「いたたた」
「それはそうとぉークラディス君? 最初のクエストなのに調子に乗ったでしょ~」
「ひぇ? いやぁ……そんなことは……ないぃ、かなぁ」
「私達ギルドスタッフってそういうところをちゃんと見て知ってるからね! 必ず生きて帰って来てほしいから、しっかりと冒険者一人一人のことを考えてクエストを発行してる。危ない冒険ばかりする人にはクエストの発行を止めることだって私達にはできるんだよ?」
口調はいつものペルシェトさん、でも、表情は決してふざけて言っているような感じはしない。
「だから、ね。あまり心配させないで。リーダーも私も心配してたんだから」
「すみません。でも、討伐証明たくさん取ってきたくて……」
腰にぶら下げていたこれもまた新品同様になった袋を出した。
それを受け取り、ふむ、と一瞥。
「……ま、そんなことだろうと思ってたけど。……縄張りまで入ったでしょ」
何も言い返すこともなく、こくりと頷く。
「はぁ~……まぁ、その話も中で聞くことにしましょうか、さ、中に入って」
部屋の中に入ると般若のような顔をした丸さんがいた。
部屋に入るや否や轟轟と「なんで、そんな無理をするの」「あの森に行って返って来なくなった冒険者が何人もいるのに」「そんなボロボロになるまで……!!」と、お叱りを受けた。
このクエストに行く前に僕は「無茶をしない」と約束をしたのに、その日の夜に帰らず、朝に血塗れの状態で帰ってきたんだ。そりゃ怒られても仕方ない。
ひたすら謝罪して、何度も頭を下げた。
◇◇◇
怒りが静まった丸さんとペルシェトさんに討伐証明を渡して、お金をもらった。
その際にケトスの事や、前から気になっていたことを聞いてみた。
まず、昨日と今日一緒に冒険をした『ケトス』という少年……青年か。まぁいいや、とにかく彼の事。
二人の言葉を聞いていると、冒険者やギルドには一定の知名度があるらしい。
・自分の武器や防具を持たず、敵から奪った武器を使ってボロボロになるまで使い潰す。
・パーティーを組んでいるところを見たことが無い。
・アサルトリアと肩を並べる準上位血盟の【ティータ】というところにスカウトをされた。
・あまり人と会話している所も見ないし、常識を知らないことから陰でコソコソと「変人」と呼ばれている。
・名前は『ケトス・レイ・ヴャディティッロ』という名前。
結構すごい人だったようだ。
僕とほとんど同年代で血盟にスカウトされたって話は、デュアラル王国の中だとケトス以外居ないらしい。
それにしても「ヴャディティッロ」って言える? 僕の口では無理だった。ヴャティッ! ほら、口が悲鳴を上げてしまう。
そしてもう一人、今でも忘れないあの青白い獣耳をピンッと張ってる狼人のことを聞いた。
・スタッフや冒険者からも『生意気な奴』として見られている。
・実力はあり、下位ダンジョンの記録更新したことで有名になっている。
・多種族で組まれたパーティーは、実は知名度を得るためのモノなのでは、との噂。
ギルドに来る前の村で読んだ新聞で『下位ダンジョンの最速記録更新――冒険者六人組のパーティーがこの度、過去の最速記録のを破り新たな記録を作りました』と書かれていたのは、あのパーティーのことなんだと。
実力があるんだったら、もっと堂々としてたらいいのに。思い出すだけで腹が立つ。あーーー、無理。
丸さんやペルシェトさんも「あいつらは~!!」と愚痴気味に話してくれたから、相当ヤンチャなパーティーで間違いない。




