76 到着
そして、クラディスやケトスが王国に着いた一時間程経った後。王国で入国の許可を出してもらっている二つの影があった。
それは黒髪で髪を後ろで二つ結いしている青年と、濃い赤色の髪色で隣に座っている青年と同じ髪型の少女。
青年の服装は黒いタートルネックの上に黒いジャケットを着て、濃淡でメリハリをつけている。上下ともに真っ黒ではあるが、知的な成人男性、と思えるようにはまとまっている。
少女の服装は白いタートルネックの上に黒のサロペットとブーツを身に着け、子どもっぽさは感じられながらも落ち着きのある服装には仕上がっている。
しかし、ワインレッドの髪色とはミスマッチしているような気がしてならない。
二人の服装は少し似ている。そして、髪型も同じ。
偶然か、それとも形となっているのが男性側であることから、意図的に少女側が寄せたのか。
身分証なるモノを持っていなかった少女のために男が高い入国料を払っていると、待ちきれなかった少女はいち早く王国内に走って行った。
「おぉぉおぉぉっ!! 色々と様子が変わったな!! 前に来たときはあそこに店など無かったな! なかったよな! ナグモ! いやあったか……? こぉひーぃ……と書いてあるぞ。コーヒーか! お前がよく飲んでる黒いのじゃな! あのまっずいの!」
「こら、ティナちゃん。あまり走り回ってると迷子になるよ」
「ならんわボケ!!」
ベーッと舌を出し、ふんっと腕を組む。
落ち着きのある服装とは全く正反対の性格――底抜けに明るい声色で、垢抜けがしない子どもっぽさが感じられる。
ナグモは苦笑いを浮かべながら、あっ、と落ちてきそうだったティナの肩紐を戻す。
それを受け入れながらも、周りの建物に興味津々に見回す少女。
「肩紐が落ちそうだったら、今度はちゃんと自分で直してね」
「ふんっ。面倒臭い服じゃの」
ふぁっしょんはこれじゃから、とティナは呟いた。
二人が話をしているのは、デュアラル王国の西門前広場。そこは多くの亜人種が行き交う場所だ。
そのような場所で兄と反抗期の妹のようなやり取りを見せていると、どうしても多くの者の目に止まってしまう。
そして、たまたま城門近くにいた人相の悪い冒険者の男達の目にも止まってしまった。
「なんだ、アイツ……小人か? 王国に旅行でもしに来たかぁ? 田舎もんがよ」
「ぷっ、ははは、隣の男もきれいな顔して苦労を知らないようなナリだぜ」
二人に聞こえるように話される内容。
その男たちに向かって、ナグモは嘲笑するような顔を向けた。
「なっ……!」
「やろう……!!」
ナグモの面白くない反応に食って掛かろうとしたのだが、隣の少女のにこっとした微笑みで男たちの背中に悪寒が走り、体が本能的に止まった。
「あ、ティナちゃん殺気、抑えて」
「ふん、知らぬわ。喧嘩しようとしてきたのはあっちじゃ」
「ティナちゃんも大人なんだから我慢しないと」
「お前もちょっとイラついてたじゃろうが!」
「そんなことありませんー、気のせい気のせい」
ティナという少女が目を背けると男たちの体は動きだし、どこかへ走り去っていった。
その姿を見送っていると腕の刺青が見えたことで「あー、相変わらず元気な血盟だこと」と呟く。
ナグモの事を冒険者が知らない訳がない。
だが、普段の仕事着ではないことから気が付かなかったのだろう。そして普段は笑みを浮かべたりはしないから、それも気が付かなかった要因に含まれるかもしれない。
ティナやクラディス、ペルシェトと喋っている時のナグモの表情を冒険者をしている者が見たら、不気味さを抱くか、思いを寄せる者であるなら、その爽やかな笑顔で卒倒するかもしれない。
それほどまでに、普段のナグモが表情を動かすことはほとんど無いと言っていい。
ナグモのことを同じ職場で働く女性スタッフは、目鼻立ちが整っていて紳士さが体全体から溢れる美男子、と評価をしつつも、口を開けば歳下と扱っているとしか思えない口振りをするから幻滅をする、と話をしていた。
さしずめ、残念なイケメン、という認識だろうか。
「……おい、ナグモ」
「なーにー?」
「さっき言っていた話は本当なのだろうな?」
「さっきって? ティナちゃんが大人って話? 体は子どもだよ?」
「阿呆、違うわ。そのクラディスという少年のことだ」
「あ、クラディス様の訓練内容を任すって話?」
「うむ」
「ジョージさんには内緒だけどね。ペルシェトには言ってるよ」
「ならいい。ふふふ、教え子かぁ。楽しみじゃのう~」
ナグモがギルドを数日留守にしていた理由は、この少女を迎えに行っていたからだ。
少し離れた所に住んでいる古き知人。クラディスが訓練をサボった日に通信をしてみると、訓練のことに興味を持ってくれてわざわざ出向いてきてくれた。
ティナという少女はクラディスと同年代ほどの見た目をし、その溌剌さは見る者の頬を一段階上へと押し上げる。
常に余裕がある表情を浮かべている太陽のような美少女、という印象を受けるが、ナグモと話をしている様子からティナも中々に癖が強いのが分かる。
こちらもさしずめ、残念な美少女、という認識に落ち着く。
「あー、楽しみじゃ。よき暇つぶしになるといいの~」
「言葉遣いが一気にオバさんちっくになりましたね」
「やかましいぞ、そういうお前はオジさんじゃろうが」
「お、そんなこと言ったら今日のご飯は抜きですよ」
「……パパか?」
「いつから私はティナちゃんのパパになったんですか?」
「お兄さんか!」
「お兄さんですね」
「気色悪っ、何がお兄さんじゃ」
楽しく話すナグモとティナ。
二人はそのままクラディスが待つギルドへと歩いて行った。
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