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73 悪趣味だなぁ


 ジャンプしたケトスが綺麗に着地すると、その後に続いて切断されたゴブリンキングの首が重々しい音を立て、地面に落下した。


「わぁ、切りやすいねこの剣」


「……ケトスって魔法使えたんだね」


「え? あー……僕、一応本職は魔導士(ウィザード)だから」


「あ……そう、か。ビックリして忘れてた」


「まぁ、そんなのは良いんだけどさ、大丈夫? ゴブリンの攻撃、背中に当たってるの見えたけど」


「……大丈夫っぽい。ごめんね、迷惑かけて」


「いいって、パーティーだったら当たり前のことだと思うし、僕はずっとゴブリンキング(かれ)と遊んでたらね」


 さっきまで対等に戦っていた相手との戦闘中に武器を手放し、相手を煽るような行動。

 僕はそれを見て「本当に常識外れだ。僕には真似できない」と思っていたけど……なるほど、全力を出していなかったってことか。


 そういえばそうだ。僕はケトスのことを見くびっていた。

 この森に日数感覚が狂うまで滞在し、寝ずに飲まず食わずの状態にも関わらず、返り血しか浴びてないような人だ。この森にはゴブリンキングより強い魔物(モンスター)もいる。

 ゴブリンキングの腕を初発で切り落としたんだ、対等な訳ないか。遊んでただけ。


「はぁー…………」


 僕とケトスとの実力差は想像していた距離より長く険しかった。

 ため息が出てしまう。戦闘中に会話ができるはずだよ。


「とりあえず……ありがとう、ケトス」


「気にしなくてもいいよ。初めてのクエストだもん、気が抜けて安心するのも仕方ないって」


「ケトスは強いんだね……僕なんかより、ずっと。僕は強くならなきゃだめなのに、焦って、でも危ない橋は渡らないようにって……意味わかんない」


 頭の中には反省点が無数に上がってグルグルと回っている。

 何故、適当に逃げたのだろうか。もっと攻撃できる場所があっただろうに。魔法をもっと活用できたのでは。接近しなければ攻撃できない武器なのに間合いをもっと考える必要があった。障害物を使う意識をもっと持たなければ。

 反省点を挙げる度に気分が沈んでいく。強くなろうと思っていたのに、強くなったと思っていたのに、と。


「なぁに人と比較して落ち込んでいるんだか、こいつは――」


 ――パチィン!

 ケトスの声が聞こえたと思ったら快活な音が響き、両頬から振動が伝わってきた。

 あまりにも突然のことだったから何事かと顔を上げると、ケトスが僕の頬を叩いているのが見えた。


「いっ……うぇ……? 何……? なんで、叩いたの?」


「くよくよしすぎ。めんどくさい。気持ちが前に前に行こうとしているのに根は慎重さんだから、頭と行動が噛み合ってないんだと思うよ」


「……? あたまとこうどう……?」


「理想の動きと実際の動きにズレがあるってこと。でも、それは今すぐにできることじゃない。戦って、死線を何度も超えてやっと身に着くことだ」


「……なんで、そんなに怒ってるの?」


「クラディスって、さっきまでの戦い方を始めてそんなに時間が経ってないんじゃない?」


 あ、その質問には答えてくれないんだ。


「僕……、まだ、戦闘訓練を始めたばかり……だけど」


「ほら、そんなんで一々悩んでても仕方ないでしょ?」


「だけど……」


「伸びしろしかないってことなんだから。気持ちを楽に、深呼吸をしてさ。だから、ね。座らずに、ほら立って!」


「ちょっ、疲れてるって」


「なに言ってんのさ、ほらほら!」


 気持ちを整える暇もなく、手を引っ張ってくれて僕は立ち上がった。


「よし! 立てたね」


「立たされたに近いんだけど」


「立ったからにはちゃんと強くならないと、あ、比較して凹むのはもちろん無しね」


「うん。まぁー、元々強くなる予定だったけど……」


 そこでようやくわかった。ケトスは僕を励ましてくれていたんだ。

 散々落ち込むようなことを言ってきた張本人が、だ! なんて面白いんだろう。落ち込んでいる理由の少しは君にあるのだぞ――という気持ちはあれど、ケトスの言っていることも理解できるから飲み込んだ。


(僕は、焦っていたのか)


 ほとんど同年代で、同じ称号Ⅰの人の動きを見て。少し成長していたと実感した矢先にその道の長さを思い知ったから、急いていたのだろう。

 深呼吸をして落ち着かせた。僕は着実に強くなっている。今はその事実さえあれば良い。


「うん。ケトスをいつか超えれるくらいには頑張るよ」


「お、その調子その調子! そのままもっと溜め込んでた気持ちを吐くんだ!」


 目をキラキラさせ、両手でクイクイとして突然の熱血っぷりを見せてきた。


「もっと強くなってやるっ! ……って、何ソレ」


「もっと! もっと気持ちを出して!」


「もう何も出ないよ」


「えー! そんなことある? もっとないの? 今吐き出せば気持ちが楽になるよ」


 今度は手をチョイチョイと動かして、僕の感情を吐き出すように促してきた。

 吐きだせば楽になる、ね。たまには自分の感情を出してみてもいいかもしれない……。普段はこんなことやらないから、やるならとことん本気で、なんならストレス発散も兼ねてやってやる。 


「ふぅ……っ………。絶対っ、見返してやるからなぁぁぁぁあっ!! 妹を探して!!!! 絶対!!! 強くなるからあああああっ!!!」


「わぁ、ほんとにやった」


「それで!! ゆっくりと生活するんだ!! 文句あるか!!! ねぇだろ!! ばーか!!!!」


 一回だけの予定が、気持ちよくなって結局二回声を出した。

 肩が軽く感じる程のスッキリ感と、少しの青臭さと。だけど、なんだか軽くなったのは事実だ。


「……いいねこれ、楽しかった」


「だろーね。目に見えてすっきりした顔してる。さっきまでは『僕はダメだ……あぁ』みたいな顔してたのに」


「気づいてたんだ……何か事あるごとに凹んじゃうんだよね」


「なら他人と比較しなければいいんじゃない?」


「……そうなんだけど」


「理由が分かってるのに落ち込むの?? それこそめんどくさいじゃん」


「……うん」


 周りと実力が離れているのは転生した時から分かり切っていたことだ。それで一々落ち込んでいたらメンタルがもたない。

 もっと「俺は最上位種の亜人だぞ! 俺は最強になるんだーアッハッハッハ」とか元気な方が、楽しく生きれる気がする。

 メンタルコントロールは難しいが、できれば強みになる。意識の改革も課題の一つだな。


「……あ、そうだ。倒したゴブリンとホブゴブリンの耳って持っていっていい?」


「え、なに。集めてるの?」


「討伐証明。クエスト受けてるの」


「悪趣味だな~クラディスは~」


「討伐証明だっての!!」


 いじってくるケトスの肩を軽く叩き、投げ捨てていた袋に討伐証明を詰めていった。




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