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63 初! 野外戦闘! お相手はゴブリンです


 天候は晴れ。

 直近で雨が降っていたということもなく、地面がよく乾いている。地面に足をコンコンとノックし、土の中も湿ってたりしないことを確認した。これで足を滑らして終わり! なんてしょうもない幕引きの仕方はしない。

 『魔素感知』を恒常的に発動できる時点で強襲されることはない――らしいけど、万が一にでも魔素を抑えることができるような魔物(モンスター)がいた場合は、その油断が命取りになってしまう。

 『魔素感知』に頼り過ぎず、周囲への警戒を怠らないようにしよう。


 しばらく進んでいくと、ピンっと魔物(モンスター)の魔素が範囲内に入ったことを感じた。


(エリル、気を付けてね)


(こっちのセリフですよ! ですが、ますたーのことは私がしっかりと安心安全サポートするので安心です!)


(頼もしいね)


 ゴブリンは鼻が利く、どれほどまでかは知らないけど『魔素感知』の範囲よりは広くなさそうだ。風の影響も考えれるが、今日はほとんど無風に近い。

 ということは、ノーマルの状況で僕たちの『魔素感知』の方が秀でてる? 


 物音を立てずに歩いていくと、数メートル先に視界が開けていることに気付いた。

 微かに水が流れる音が聞こえる……。どれだけ森を進んできたか分からないが、河川部に着いたようだ。

 木の上に身軽に上っていくと魔素の正体が見えた。


 薄緑色の肌。耳が歪な形をしていながらも長く伸びており、体格は子どものようなものだ。


(まぁ、ぼくも子どもだけど……ぼくよりもちょっと小さいか)


 痩せこけ、ボロボロな土や血がこびりついた布を身につけている。

 手に持っているのは棍棒、石……? この世界に『攻撃力』があったなら、『5』とか『4』とかそんなものだろう。


 あれが、ここの森の一部に生息しているゴブリン……だよな? 

 数は……10、14……18程が『魔素感知』で確認できる。感知できている魔素が川沿いに大きく展開されているから、これは……縄張りの境界線だと考えるのが普通かな。


 標的確認を終え、木の上から降りると足元に落ちていた小石を拾い上げた。

 こういう場面で自分の力を過信し、馬鹿正直に正面突破するような自信満々な人間じゃない。落ち着いて対処をしてみよう。

 ゴクリと唾を飲み込み、小石を持っている手を引いた。


「エリル……行くよ」


(わかりました!)


 前のゴブリンがこちらから視線を外した瞬間に、石をゴブリンの後方へ投げ、物音を立てた。

 驚いた様子でそちらを振り返ったゴブリンを見て、僕は一気に飛び出した。


「『土壁(ロテム)』!!」


 こちらに気付いたゴブリンを完全に無視し、走っている方向に土壁(ロテム)を階段状に作り上げて、高所を疑似的に作り出した。


「よし……! まず第一段階だ!」


 昨日の作戦会議の中で「相手の数が多い場合一方的に攻撃ができて、相手が来づらい場所を作る」という話をしていた。

 高所というのは下から狙いづらく、身を屈めるだけで斜線を切ることができる。それだけで十分に強いのだが、全体を見回すことができて敵の視認も可能だ。


(ますたー! 右下の少し大きめなゴブリン!!)

 

 高台から目を走らせていると、目の前に現れた土壁(ロテム)に驚き、焦っている様子のゴブリンが何か指示を飛ばそうとしていたのをエリルが見つけた。

 それに向けて無詠唱の『衝撃(インパクト)』を出し、指示をさせる前に倒した。


「よし! 無詠唱でもちゃんと倒せれる……!!」


 自分の右手を見つめ、握った。

 何気に初めての討伐だった。だが、それを喜んでいる時間はない。残りは17体もいるのだ。

 高台に寄ってきたゴブリン達の中に石を投げようとしている存在を数体確認、すぐに下から狙われないように屈んだ。


 何か動作をしようとしていると強く魔素が漏れ出す。それを『魔素感知』で感じとって、反応すれば何とか対応できる感じか。


「なるほど、これは……すごく便利だな」


 すると、ゴブリンが僕が作り上げた階段を上ってくるのを足音で感じた。


(! エリル、お願いするね)


(まかせてください――『火槍(ファイアランス)』!)


 エリルが唱えると、僕の目前に火が渦巻き槍の形を成して、静止した。

 

(――いっけぇっ!)


 そうエリルが声を出すと、計四つの火槍(ファイアランス)は狭い階段を登ろうとしていたゴブリン達にまっすぐ飛んで行った。

 (かす)っただけで火が燃え移る程に火を燻らせているソレが直撃したゴブリン達は階段から滑り落ちていき、下にいた他のゴブリン達にも火が燃え移った。


「ナイス! さすが! すごいよ! ほんと!」


(褒めるのは後です! 先に、ここ一帯を制圧しないと一息つけませんよ!)


「うん……! わかってる、けど――」と昔にエリルから言われた言葉を思い出して――「今の僕は、虫よりも強くなってる」


 その言葉にエリルが「まだそれを引き摺ってたんですか」と呆れる声が聞こえたが、戦闘に没入している僕の耳には入ってこなかった。

 僕達が魔物(モンスター)を倒せているという感覚に対して、喜びで顔が綻んでしまいそうになる。冷静な時に思い返したら笑ってしまいそうな語彙力も、今でこそ受け入れられるというものだ。


 喜びもそこそこに視線を下に向けると、残っているゴブリン達は下で攻めあぐねているようだ。

 あれを見た後だと登る気もなくなるよな。分かる。だけど、それはこっちとしても好都合だ。

 僕は屈んだ状態のまま『魔素感知』に意識を向け、相手の位置を確認した。


 下で石を投擲(とうてき)しようとしている集団。捉えている範囲では8体程か?


 その集団の足元に土壁(ロテム)を作り出して、僕の目線の高さまで足場を押し上げた。

 グンっと足元が変わったことでゴブリン達の体勢が崩れ、投擲の狙いがぶれている隙にもう一本の小刀を取り出した。


 目の前に薄緑色の魔物(モンスター)。狩らないと負ける(しぬ)

 訓練を思い出せ。僕ならやれる……!

 一瞬、攻撃をするのを躊躇(ちゅうちょ)したが、グッと手に力を込めた。


『グギィッ!』


「遅い!!」


 足元を力強く蹴って僕より小さいゴブリン達に切りかかった。

 僕の動きに反応し、体勢が崩れていたまま僕の頭部を狙って投石をしてくる数体のゴブリン。その投石軌道を身をさらに低く構え、避けた。


「毎晩毎晩、お前等より圧倒的に早い動きをする先生の攻撃を避けてるんだよ!! そんな貧相な腕で繰り出す攻撃なんて、怖いものか!」


 避けた体勢のまま、そのゴブリンには回し蹴りを食らわして高所から落とした。

 一体を倒している間に他のゴブリン達は体勢を整え、前衛は腰に携えていた棍棒を持ち、後衛は石を構えなおした。

 それを確認して、エリルに要請を出そうとすると――


(『風槌(ウィンドパウンド)』!)


 声をかける前に、エリルが上から押しつぶすような風魔法を集団を放った。

 鈍い音が立て、足場ごと壊したその魔法は一度も見たことがない魔法。


「何その魔法……!? いや、しかし、ナイスすぎるよ!」


 足場が崩れたことで、僕ごと2メートルほど下に落下。空中で体勢を整え、一緒に落ちているゴブリンを目で捉えて着地と同時に小刀で首を飛ばした。 

 

 多くのゴブリンは着地に失敗し、落下の衝撃と上からの土壁(ロテム)の崩落で下敷きになったようだった。

 まだ息があるゴブリンを『魔素感知』で調べ、『衝撃(インパクト)』で倒した。最後にもう一度、微弱な魔素すら見逃さないように周囲を警戒したが、何も感じなかったことで大きな深呼吸をした。


「エリル……見たことない魔法だったけど、アレは?」


(ふふ~ん、中級の魔法ですよ! ますたーが休息をとっている間にちょっと色々しまして)


「お~! 中級かぁー、まだまだ勉強できてないから頑張らないとなぁ」


 エリルの方が魔素扱いに秀でているから、こうやって僕が使えない魔法を色々と使って見せてくれる。火槍(ファイアランス)も僕が出せる本数よりも多いし、負けないようにしないとな。


「……ふぅ」


 こうして、当然のようにして見せた戦闘だけど……内心ヒヤヒヤしていた。

 体がまだ興奮しているし、手がまだ震えている。

 どれだけ昨日戦略を練っていたとしても、戦闘は初めてなのだ。僕たちの素人な作戦が通用するのかすら分からない状態での即実践投入。

 奇跡的に大成功だったが、毎回こう上手くいくとは限らない。


 ……最後にやった、高台の高さまで敵を上げるって行為自体、少し悪手だったかな……あそこはもっと――まぁ、今はこの感覚を覚えておこう。


 足元に倒れているゴブリンの死体を見て、小刀を取り出した。

 討伐した証明のためには確か『右耳を取る』だっけ、痛いかもしれないけどごめんね。

 

「……」


 倒したすべてのゴブリンの耳を剥ぎ取って袋にいれて、額に流れた汗を袖で拭いた。

 この世界に来て色々と心境の変化があったのは確かだけど……、この世界に染まってきたなぁ。

 川から聞こえる水の流れる音を聞き、立った状態のまま今の感情に浸るために目を閉じた。


(ますたー? どうしました?)


「…………いや、なんでもない」


 嬉しいような、悲しいようなだ。

 もう、過去の平野明人(じぶん)はいない。

 

「……時間があるから、もうちょっと倒しに行こうかな。エリルもそれでいい?」


(ますたーの判断に従いますよ! お供します!)


 勝利の感覚と充実感が溢れるのを抑えながら、ぼくはゴブリンの縄張りに入っていった。

 

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