60 スキル確認わんつーすりー
「強くなるためには必要なことがあります!」
と言うエリルの声は真面目そうな声かつ、ふざけているような気もする。
そしてその一言を言ったのちに、わざとらしい険しい顔を作って黙り込んだ。
「……」
「…………」
これ、僕の発言待ちか?
「あー……はい」と挙手をしてみると、エリルはチラと目を開けた。
「はい、クラディス君!」
「えーと、これは何の茶番でしょうか」
訓練場に座っている僕と立っているエリル。その服装はなぜかアメリカの大学の卒業式の衣装一式。
また何か変な情報を仕入れてきたな、これ。
「いい質問ですね。クラディスくん」
と言って、四角い帽子の先端を持ちふふんと鼻を鳴らした。
「さぁ! 作戦会議をしましょう!!」
くわっと大きな声を出したエリルはとても楽しそうな表情。
うわ、そのテンションついて行けないかもしれない。
「ってか自分で言うんだ」
◇◇◇
なんだか連日で大変な思いをした後『転生者への認識を変えるには何をしたらいいのか』という内容をエリルとの議題に挙げた。
個人的には、
・転生者は悪くないですよ! という慈善団体を立ち上げる。
・街路を埋め尽くすほどの人員を集め、デモ活動でもしてみる。
・いちばん手っ取り早いのは《解析士》という職に就いている人にステータスを見てもらい、身の潔白を証明してもらう。
だけど【解析士】は全体数が極端に少ない。世界に1人って話も聞いた。それに【転生者】嫌いであった場合のことを考えたらリスクが高い。
慈善団体やデモ活動も同じ理念をもっている仲間を探すこと自体が難しい。
そういったことを考えていた中、エリルの答えは「強くなってこの世界にとって必要な人材になり、そこで【転生者】の潔白を自らが証明する」――つまりは、冒険者として名を上げればいいのでは、だった。
リスクと膨大な時間を伴う計画であるが、誰の手も借りずにできる最良の手段ですよ、と。
結局、二人議論してまとまったのが「努力する」っていう。なんとも情けない結果だが。
とまれ「一気に事が進む訳もないから地道にやっていきましょう」と言う感じで締めくくられ、エリルにこの訓練場まで連れてこられたわけだが――……。
「……それで作戦会議とは、何をするのでしょうか」
「ふっふっふ。よろしい! そんなクラディス君に説明をしようではないか」
エリルに「クラディス」と言われるのに面白いくらい違和感を覚える。
まぁ、でも敬って呼ばれるの正直に言ってモゾモゾとするからそのままでいてほしい。
「――あぁ、疲れた。では、ますたーに説明しますね」
そう言って大学の衣装からスッと本来の衣装へと戻した。
「で、もうクラディスって呼ばないの?」
「ますたーって呼ぶ方がサポーターっぽいので!」
「なんだそりゃ。そんな理由だったんだ」
「そんな理由だったのです!」
そんな理由だったのですか。
と、一通りの茶番が終わるとエリルはスクっと姿勢を正した。
「作戦会議と言っても、クエストにおけるお話とますたーのスキルに関するお話です」
「あ、そう言う感じなんだ」
「あっ、転生者のことに関する作戦会議だと思いましたあ? それはこの前したからもう言いません。先生は大事な話は二度しないのです」
「あらぁ」
でた、最大の矛盾。大事なことだったら二度も三度も言えばいいのに。
これも多分今日の茶番の為に仕入れてきたんだな。
さすがポンコツ優秀サポーター……おっと、いけないいけない。
「では、まずスキルの把握から始めます。ますたーのスキルを言っていってください」
「うん。衝撃、水柱、風刃、火槍……あとは、土壁ですね」
「それで全部ですね?」
「全部、だと思う。お恥ずかしながら剣闘士のスキルと治癒士のスキルはまだ未習得なので」
「ふむふむ。なるほど、よーくわかりました」
魔導書を読み始めてかなり経つが、本の魔法は一通り使えるようになった。
それぞれがその名前の通りで、水の柱を発現させる『水柱』。風の刃を飛ばす『風刃』。めちゃめちゃ熱い火の槍を作る『火槍』。
魔法一つ一つの魔導は全くの別物。正直骨が折れた。
って、エリルと一緒に勉強をしたんだから内容とか分かってるはずだが。
「だったら、今使える魔法の中で何が得意ですか?」
「衝撃と土壁、水柱かな? 最初の方に覚えたっていうのが大きいんだけど」
「では、それを主軸に置いて戦い方を考えましょう」
こうして本格的に、初めてのクエストに向けてのスキル確認と魔法の用途の話が始まった。
 




