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58 転生者は咎人だと言われました②


「…………お前は、どこまでも甘いんだな」

 

 そう呟かれ、拘束の力が緩まったのを感じる。


「え……」


 長い髪の毛が、表情を隠しているので表情が読み取れなかった。

 だけど、僕の口元に置いていた手を放し、髪をかき上げてやっと表情が見えた。


 レヴィさんは、笑っていた。


 でも、数分前の僕を見つめていた笑みじゃなかった。

 レヴィさんの行動の意図が読み取れず、じっと見つめる。

 再度、敵を見る目で見つめた僕に、自身の体の前で両手を上げ、手のひらをこっちに向けた。


「冗談さ。すまなかったな、驚かすつもりはなかったんだ。ただ、クラディスが転生者がどういう立場にいるかって言うのを分かってないようだったから、それを教えるように、な」


 迫力があったろう? と。

 さっきまでのことを嘘のように話す。その姿は、どっちだ。

 本当か、嘘か。だから聞いた、


「僕を…………殺すんじゃないんですか……?」


「ん? 殺すわけないだろう? クラディスを殺すつもりなら拾った時に殺しているさ」


「……いつから、僕のことを」


「目を見た時だな」


「じゃあなんで、僕に眼帯なんてつけたんですか……! 殺すつもりだったなら――」


「はぁ……まだ分からないか」


 そういって、こちらを見た。

 

「私は……転生者のことが嫌いではないってだけだよ」


 その目には、笑っていたが、少し寂しそうな感情が混じっていた。

 あぁ、これ、もしかして、



 ――試していた、のか?



 転生者を殺さないといけないって気持ちと、僕を秤にかけて、結局答えが出なかったから……殺すか、どうかを僕の出方に任せて。

 首筋に手を当て、それなりに力強く握りしめられていたのを感じる。

 でも、魔法でなく、物理的な力だったのは……


(やっぱり……葛藤があったのか)


 僕を信用しきれず、でも本当に殺そうとはせず、だけど反抗されたら殺すことも辞さないように。

 僕が、無害であるとわかったらちゃんと言い訳をいえれるように。

 

 ……ほんとうはどうなんですか、と出かかって、止めた。

 

 レヴィさんは、僕を殺さないでいてくれた。

 それが、答えだ。

 だったら、僕がきつく追及することもない……。

 そう割り切り、ベッドに座り込んだ。 


 ――(もや)がかかる。


 これから先、どういう顔をしてレヴィさんと合えばいいのか分からなくなる。

 あぁ、だめだ。このままじゃ。

 好きな人を好きでいられなくなる。

 今まで滞りなく流れていたものが突然何かに突っかかるように。

 笑う度に、殺されかけたことを思い出してしまう。だから、だめだ。 


「――しかし……クラディスは、露骨に表情に出るな。一々あんな青ざめた表情になったら一発で転生者だって知られて終わってしまうぞ?」

 

 と、心を落ち着かせている途中で言われた。


「ギルドで取り扱っていない内容で助かったな。いやっ、ほんとに、助かった」


 続けて言われたレヴィさんの言葉なんか耳に入ってこない。さっきの言われた言葉がずっと頭に残る。

 木霊する。残る。居座っている。


 露骨に様子が変わった……って? 


 無意識に拳を握る力が入った。

 確かに僕はあの時、ひどい顔をしていたと思う。


 だけど、それは……。


「それだけは、ちがうでしょ……っ?」


 吐息のように出た言葉。

 すると、続きの言葉がたまっていた感情と共に吐き出された。


「相手が……! 言われた相手が、レヴィさん達じゃないと……あんなことにはなりませんよ!!」


 叫んだ。

 だって、本当に、ふざけるなと言ってやりたい気持ちになったんだ。

 僕を殺そうとしたとしても、それだけは揺るぐことがない。

 ほかのことは抑えれたが、これだけは見逃せなかった。

 だから、まだ、叫ぶ。


「あなたは本当に何もわかっていない……っ!! 僕にとって、あなた達は……三人は……っ。特別な、存在なんですよ……?」

 

 ナグモさんやペルシェトさんに『転生者』の話をされても、おそらくだけど、笑って受け流すことができた。

 でも、あなたたちは僕の目標なんだ。僕の恩人なんだ……!

 そんな人に、殺されそうになったんだぞ。冷静なんて取り繕うことすらできる訳ないだろう!?

 その気持ちを知らずに「青ざめた表情になったら」……だって?


「本当に……僕、怖かったんですからね……レヴィさんが、いつものレヴィさんじゃなくなったような気がして、殺されると思って……!!」


「そ、そんなに怒らなくても……やり過ぎたとは思ってる、すまない」


 こちらの様子の変化に慌てて、フォローをしてきた。

 しかし、今更心配そうな顔をしても遅い。

 何が「そんなに怒らなくても」だ。人の気持ちを知らないでさぁ!!


「……もう決めた。あー、腹が立つ」


 もう「殺す」「殺される」とかそういうのは抜きだ。

 完全に変なスイッチが入った僕は、ベッドの上に立ってレヴィさんの肩を持った。


「ク、クラディス? 何を……」


 こちらを少し見上げるレヴィさんの事なんて無視し、力を入れ、ベッドに思いっきりぶん投げた。


「うおっ!? 突然――」


「黙っててください。何も言わないでください。落ち着くまでそうしていてください」


 早口で要求し、仰向けのレヴィさんの服を掴んだ。

 脚でレヴィさんを挟み、そのままレヴィさんの上に倒れるようにうつ伏せになった。


 レヴィさん達は僕にとって、この世界の親みたいな存在だ。


 そんな人に、存在を否定され、生まれてこなければよかったと言われた気がしたのだ。


 誰が耐えられるだろうか、そんなこと。


 不安定な心のまま、僕は感情をセーブしようとしていた。

 でも、そんなことできる訳がなく、また涙が溢れ出した。

 見たことがない表情の僕に、レヴィさんは笑って頭を撫でてくれた。


「すまないな。酷なことをした」


「…………うるさい」


 服を掴み、皺をつくる。

 

「謝るくらいなら、最初から……っ、しないでくださいよ……」


「……そうだな。すまなかった」


 しんっとした空間に、僕の嗚咽が微かに響く。

 それをかき消そうと服に顔を埋め、誤魔化す。


「……クラディスは頭がいいから、多分、色々と分かっているような気がするが……。あまり、深く考えないでくれ」


「…………はい」


 レヴィさん的にも、色々な考えがあるんだとは思う。

 冗談を言うような人じゃない。特にこの手の事柄については、決して。

 だからこそ、分かることがある。


 これはとても複雑な問題なのだろう。


 ましてや立ち位置的にも高い所にいる人だ。

 転生者というのが殺さないといけない不穏分子ならば、レヴィさんのような人なら迷わずに殺した方が後々いいに決まっている。

 大賢とまで言われる人が拾った子にあれこれと技術を教えていてもなお、殺すかどうかを悩むほどの。本当に、すごく、大きなことなんだと思う。

 だけど、もう、僕が今生きているっていう事実だけで、いい。


「……っぅ」


 でも、ほんのすこしだけ、欲をかいてもいいのなら。


「……ほんと、に、僕を殺さない、んですか? 信じて、いいんですか……っ?」


「あぁ、本当だ。嘘じゃない」


 ただの口約束。だけど、今これ以上に必要な確認はない。

 頭を撫でられた。

 温かい。


「……う、っううっ」


 親がいてくれる。

 この世界には頼れる存在が、いるんだ。


「う゛う゛う゛う゛う゛ああぁぁっ……!」


 感情が、もう、抑えられなくなった。

 体裁なんかない。

 レヴィさんの上で思う存分泣き散らした。

 泣いて、泣いて。

 撫でられて、慰められて。


 レヴィさんは何も言うことはなかったけど、ただただ、僕の感情を受け止めてくれた。

 

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