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【HIDE LEVELING】転生者は咎人だと言われました〜転生者ってバレたら殺されるらしいので、実力を隠しながらレベルアップしていきます〜  作者: 久遠ノト
1−5 世界把握編──小さき転生者、世界について知る

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57 転生者は咎人だと言われました①


「やっぱりって……なんで……っ」

 

 口から言葉が零れ、座っていた体の腰をすこし上げた。

 僕が転生者っていうことが分かってたってこと……?

 足を組んで椅子に座っているレヴィさんの動きに神経を走らせながら、無意識に自身の中で魔素を練り上げた。


 魔素が溢れ。

 感情が溢れ。

 その中に微量ながらも殺意が混じった。

 

 だけど、それ以上に目の前のレヴィさんから突き刺すような殺意を感じる。


 柔和な雰囲気なんて、もう、ない。

 レヴィさんからは白い魔素が燻り、今にも魔法が発動されそうになっている。

 明確なそれを当てられ、首筋から背筋にかけて、ぞくぞくとしたものが走った。


「返答次第じゃ殺されそうだな……。鎌をかけただけだよ。深い意味はない……が――」

 

 僕の明らかな臨戦態勢を見て、笑った。


「本当にそのようだな」


 こちらを見る目に怯え、後ずさった。


「…………レヴィさん……。じ、冗談ですよね? 僕を驚かすための冗談ですよね……?」


 信じたくなくて質問を飛ばしたけど、レヴィさんは薄く笑ったまま返答を返さない。

 緊張が自分の体を支配するのが分かる。

 数分前の優しいレヴィさんはそこにはいないように思えた。


 瞳孔が開き、作り笑顔も消えた。

 頬に汗が(つた)って、喉が渇く。

 一度死んでからというモノ、“死”という危機に対し、直感的に感じることができるようになったようだ。

 

 マズい……、このままだと……。

 逃げる? 窓、ドア、だめだ。逃げれる訳がない。

 だったら、やっぱり……


「監査庁まで連れていくのが普通だが……面倒だな。ここで、殺すか」


 こちらに、グイと手を伸ばして来た。

 嫌だ、レヴィさん。

 やめて。

 なんでっ……。

 

「僕は……転生者じゃ――」


 その手を払おうとしたら、僕の言葉を遮る形で払った手をそのまま僕の口と手を抑えて、ベッドに押し倒してきた。


「静かにしろ」


 普段ナグモさんの動きで目が慣れているハズなのに、動けなかった。


「は、放して!!!」


 叫んでも、レヴィさんの表情は鬼気迫るもので聞いてくれそうにもない。


「『吸音の薄膜(デ・メンルィ)』」


 半透明の空間が、僕とレヴィさんを包むように円形に広がった。


「静かにしろって言ったろ」


 獣が興奮したように息が荒くなった僕に、冷たい口調で力を込め、拘束を強めた。

 恐怖と、懇願が入れ混じる感情を向けるがレヴィさんがそれに対して反応することは無かった。

 



 転生者が悪いって理由で、なんで僕が殺されないといけないんだっ……!

 僕は、何もしてない。

 なのにっ……転生者ってだけで、それも恩人に……どうして殺されないといけないんだ……!


 目の前にいるのは、僕を殺そうとしている恩人。

 ぐるぐると目が回り、頭の中で、何かの声が聞こえてくる。


 しにたくない。

 いやだ。

 レヴィさんどうして。

 死にたくない!

 だったら、どうする。 

  

 ――僕は、何のために力を付けたんだ?

 

 そうだ、僕は、強くなってる。


 レヴィさんは魔導士だ。

 魔法では勝てなくとも、力量なら。

 押しのけて、魔導書で殴れば。


 転生者だと知っているのはレヴィさんだけ。

 僕を殺そうとしたんだ、因果応報だ。


 押しのけろ。早く。

 今、やれ。


 早くやらないと、殺されるぞ!


 殺せ

 押しのけろ

 早くッ!!



 ()()()()が叫ぶまま、塞がれていない方の手で肩を掴んだ――


 

 

 だけど、力がうまく入らなかった。



      ◇◇◇



 ――いつもの僕なら、簡単に拘束を解くことができたはずだった。


 レヴィさん達と別れてから一か月。

 毎日毎日頑張って、認めてもらおう、強くなろうと死に物狂いで努力をしていた。

 僕は僕の想像以上に、この期間で力が付いたと感じていた。不良に絡まれた時も力を行使しようと思うほど、自分の力に対して自信もついてきた。


 だけど、拘束を解くことができなかった。


 答えなんて考えなくても分かる。

 命の恩人達を、あの日々をくれた人達と暮らしたくてつけた力を、その人達に向けることができなかったんだ。


 できる訳がない…………


 なんで……僕が、そんなことをしなくちゃいけないんだ。



「…………殺さないでください……」



 そういうのが精一杯で。

 涙が目から溢れる。

 これから殺されるという感覚。

 口と喉元に手をやられ、上に乗られて。

 怖い。

 

「……だけど、」

 

 だけど、ほんとうに、僕を殺さないといけないのなら、


「レヴィさんが……、ぼくを、殺さなくちゃいけないなら……」


 僕の小さな体は無抵抗のまま、レヴィさんの肩を掴んでいた手をゆっくりと離した。

 


 レヴィさんは、大魔導士だって聞いた。

 【最果て大賢】と呼ばれてるくらい、すごい人なんだと。


 協会に属しながら、冒険者稼業を続けるってことはすごいことなんだって。

 ギルドスタッフさんが言っていたことを聞いて、僕も鼻高々になったんだ。


 僕の恩人はすごいんだぞ! なんて思って。


 魔法の教え方もうまいし、料理はちょっと下手だけど、寝ぐせもちょっとかっこ悪いけど。

 それでも自慢の人達なんだって。


 ……親のような人たちなんだって。


 たった、拾ってもらって過ごした数週間。それで親だって言うのがはずかしい……とは思う。

 

 だけど……僕の親は離婚して、いつの間にかいなくなっていたんだ。


 良い親ではあった。けど、息子と娘を置いて、どこかに行ってしまったんだ。


 そんなときに出会った、人達。頼れる存在。


 こどもっぽくて惨めだと思うけど、心の底から、親と同然に慕っていた。

 

 一度も本人達の前で言ったことはないけど、でも、本心だ。


 そんな人がわざわざこんな狭い空間で、二人っきりでこの話をする。


 ――たぶん、レヴィさんの中でも、色々葛藤があるんだと思う。


 だから、


「ぼくは、あなたと戦いたくないっ、から……っ。殺すなら、一瞬で、お願い……します……っ」


 せめて、僕を救ってくれた人たちの足かせにならない様に。

 無様で、かっこ悪いけど、泣きながら、笑って。

 両手をベッドの上に投げて、目を閉じた――……。





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