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56 転生者への認識

 この世界に来て僕以外の口から初めて転生者という言葉を聞いた気がした。

 勉強会でも聞いたことが無かったのだけど、どうも「烙印」という含んだような言い方が気になる。

 だって烙印……って、あの烙印だよな? 罪人だと視覚的に分かるようにつける紋章のこと。この世界じゃ、意味合いがちがうのか?


「……レヴィさん、その転生者の烙印……というのは?」


「ん、ギルドで習わなかったのか?」


「あ、多分……僕が読み書きとかは一通りできるから勉強内容を変えてもらったんですけど……もしかするとそれで」


「あぁ、そういうことか。ならいい……だったらクラディスは転生者というのは知っているか?」


 もちろん、僕がそうだから知っている。

 口には出さず、頷いて返事を返した。


「なら話は早い。まぁ、この世界に異世界というところから生み堕とされる人のことを総称して『転生者』と言うのだが、その烙印というのは……分かり易くいうと、転生者として扱われる、ということだな」


 酷く遠回りに聞こえる説明。

 僕が、事前に何かの情報を持っていないと成り立たない話のように思える。


 ――何故か、心音が早まり始めた。


 まるで、転生者=罪人と断定しているような言い方。

 エリルの話だと、転生者の情報はこの世界にはないはずだったのだ。

 あぁ、なんだか、おかしい気がする。

 食い違っているような。

 そんな気が。

 

「なら……転生者として扱われると、どうなるんですか?」


 だが、ずっと気になっていたことだ。

 疑問よりも好奇心が増し、前のめりで聞いた。

 僕の質問を受けるとレヴィさんは一瞬話しづらい話をする時みたいに顎を引き、目を一瞬だけ反らす。

 

 ――あ、やっぱり、だめだ。

 

 何か、聞きたくないことを聞いてしまいそうな気がする。

 必死にこのモヤモヤとした気持ちを紛らわせようと笑顔を取り繕って、レヴィさんの発言を止めようと手を前に出した――……。

 




「転生者というのは世界を混沌に導く者――咎人(トガビト)として、極刑、もしくは奴隷として扱われるのだ」


 



「…………え?」





 その言葉を聞いて僕の表情は固まり、レヴィさんの顔を一点に見つめた。

 頬に冷や汗が流れ出るのを感じる。



 転生者だからってだけで……殺される……?



 当然のように、必然のように『転生者は殺される』と言われた。

 僕が信頼している目の前の人が、僕の素性を知らずに言ったその言葉。

 何度も何度も頭の中で理解しようと回すと、さっきまでの楽しい家族と過ごしているような時間は既に異様なモノと変わっていた。

 どんよりとした、絡みついて、取れないような。黒く、黒く、落ちていくような。

 

  

 僕が()()だって知ったら……レヴィさんは、僕を……?



(そんなわけ……)


 

 と脳内では必死に否定をする。

 が、そんなの無駄だとすぐに分かった。

 レヴィさんはこんな冗談をいうような人ではない。 


 嫌だ、嫌だよ。なんで……っ!


 晴れやかに思えた今日までの日々までも、暗く、深い何かに飲み込まれていくような感覚が襲う。

 やめて、うそだ、そんな。

 体中の血の気が失せるのを感じ、顔が恐怖で引きつる。

 僕の、日常が、揺らいでいく。


「――クラディス? どうした」


 唖然とし、顔が青ざめている僕のことを心配するようにこちらに近づいてきた。

 不味(マズ)い、今の表情を見られたら……! 

 

「な、なんでもないです……っ」


 僕は咄嗟に顔を伏せて声を絞り出した。

 恐怖で震えるのを堪えようとするが、唇が震え、収まってくれない。


 止まれ……! 止まれ……!!


 膝の上に置いていた手に力を入れて、痛みで紛らわせようとするが焼け石に水だ。まったく意味をなさない。


「? 顔色が悪いぞ」


 様子がおかしい僕のことを心配しているのか、引かずに手を伸ばしながらさらに近寄ってこようとした。

 僕はそれに体を引かせ、視線は横にそらしながら強張った顔を上げた。


「本当に……っ、なんでもないですから……!」


 平気を装って、作り笑顔で呟いた。

 目が無意識に見開き、まばたきを忘れ、視線が泳ぐ。


 ――僕は、ずっと目の前にあった【死】を認識したのだ。


 この世界に来てからこの日になるまで、僕はいつでも殺される状態にあったということを知った。

 転生者という称号を持った者の宿命。元の世界から逃げ(おお)せた者の首に転生した日から構えられた鋭利な刃物を。

 

 【死】の恐怖に呼吸が乱されるのと何とか落ち着かせようと深呼吸を繰り返した。


 そんな僕の様子を見ていたレヴィさんは、僕と距離を取って背もたれに背中を預けた。

 椅子が(きし)む音が聞こえ、近くにレヴィさんがいないことが混乱している頭で理解する。


 大丈夫、だよな。バレて、ないよな?


 しばし空いた無言の時間がとてつもなく長い時間に感じ、レヴィさんの様子が気になって(かす)む目を向けると――


「あぁ、やっぱりクラディスは転生者だったのか」


 そこには、こちらを見て笑っているレヴィさんがいた。

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