54 突撃お宅訪問のされる側
「……んぁ……まぶし……い」
窓からの日差しが、顔にチラチラと当たったことで目が覚めた。
寝起き特有の気怠さが、体全体を支配している。とても眠たい。
一回は日差しを避けるように体勢を変えたが、何かに気づくように再度、窓の方を向いた。
「まぶしい……って……あれ? 今何時……?」
ゆっくりと、壁にかかっている時計に目を向けると短針が8を指していた。
「20時……ね……。オーケーオーケー……」
頭が鉛のように重たいの感じ、座ったままぼーっと宙を見つめる。
20時ってことは……あと1時間後にナグモさんとの戦闘訓練が始まるから家を出ないといけないから……。
それにしても、差し込む日差しが鬱陶しいくらいまぶしいな。
「……って、まぶしい……?」
ベッドで目を擦っている手を止めた。
「!!??」
ベッドから飛び降り、窓に手を当て外の様子を見てみると20時だと思えない程外が明るい。
人が楽しそうに話して歩き、窓から見えるコーヒー屋さんで何人もの人が新聞を片手にコーヒーをすすっている。
そこでようやく状況を飲み込めた。
「これって……朝の8時!?」
寝すぎた感覚だったからおかしいと思ったんだ! くそったれ!!
「普段ならちゃんと起きれるのに……吐きそう」
頭を抱え、ふらふらとベッドに座った。
一度もサボったことのない訓練をサボってしまったという罪悪感と怒られるという恐怖心がただでさえ重たい頭に広がっていく。
「と、とりあえず落ち着け……ギルドに言って真っ先に謝れば……」
寝てた理由は、えーと「僕の種族が亜人だったから、驚いて寝ちゃいましたアハハ」――って、そんなの言えるわけないだろ!
ど、どうしよう……。ナグモさんの出勤時間は何時だ? 仕事が始まる前に会いに行った方が良いよな? 仕事をしている時には迷惑がかかるし……。毎日2時過ぎまで僕に付き合ってるんだから、朝の出勤時間は遅いはずだ。
――コンコンっ。
言い訳をベッドの上で縮こまりながら考えていると、ドアがノックされた音が聞こえてきて顔を上げた。
「ひっ!? ナグモさんっ!??」
僕の部屋をノックするのはこの寮でナグモさんしかいない。
「はい! す、すみません!! 今出ます!!」
とりあえず返事を返してみるがナグモさんだった場合、何をされるか分からない恐怖がある。
ベッドから降りて玄関まで走っていくと、鏡に映る自分が眼帯をしていないことに気付いた。
「ちょっ!! ちょっと待ってください!! あー!!」
バタバタと慌てて机の上に置いてあった眼帯をつけようとしたら、またノックされた。
「ご、ごめんなさい!! 今行きます!!」
扉が開けられた瞬間殺されるか? 蹴りか? いや、ナグモさんのことだ、武器を持ってたりするか……?
眼帯をつけ、急いで玄関の所に行って鍵を開けようとしたら鍵が開いていることに気付いた。
しかしそれについて考える暇は作らず、ドアをゆっくりと開けて見上げると――
「お、久しいな――って、すごいボロボロじゃないか、どうした」
目の前には高身長の長髪の男性が立っていた。
「うえっ!? レ、レヴィさん……!?」
◆
突如来たレヴィさんを部屋に招き、適当に座ってもらった。
出会って一言目でボロボロと言ってきたのは、もちろん寝ぐせもあるが体の怪我がひどいことを言っていたようで。とりあえず冒険者に絡まれたことと、訓練で避け切れずに付いた怪我なのだと説明をしておいた。
そうして少し話をしようとしたらレヴィさんから「今日と明日の訓練は無し」との報告を受けた。
何故レヴィさんがその話を、と思ったがこの部屋による前にギルドに立ち寄った際、ナグモさんと遭遇して話を聞いたのだと。
王国に来る友人を迎えに行ってくるからとかなんとか。ナグモさんの友人ってどんな人なんだろうかと気になるところだが、とりあえずは今日家に来たのがレヴィさんでよかった。
首の皮が一つ繋がった……殺されると思っていたけど、一安心だ……。
「この椅子……とても座り心地がいいな。それに結構しっかりした部屋なんだな……本棚やベッド、机もあるとは」
「そうなんですよ、必要なものが粗方そろってる感じで。私物はほとんどないんですけど」
「宿舎とは聞いていたが、私たちの血盟拠点よりも過ごしやすそうだ」
「えっ! その……すみません」
「何故謝る。ウチはウチで冒険者しかいないから留守になることが多いからな、お金をかけていないだけだ」
砕けたように笑うレヴィさんに目をぱちくりとさせた。
僕の記憶にあるいつものレヴィさん……だが、どこか動作にぎこちないような気もする。久しぶりだから緊張してるのか、こんな子ども相手に?
「……それで、レヴィさんは今日何しに来てくれたんですか?」
「職員からは色々と進捗を聞いていたのだが、本人に直接話を聞こうと思ってな……というのは建前で、溜めていた指名依頼を消化し終えたから。つまるところ、暇だったから子どもの様子を覗きに来た、ということだな」
「仕事の合間を縫ってきたパパじゃないですか」
「実質、私たちが面倒を見てるのだから似たようなものだしな」
「レヴィパパ! へへへ」
「……調子が狂うな」
恥ずかしそうに顔を背けたレヴィさんに、追撃で覗き込むように体を傾けた。
ずっと体勢を変えて来るので、ずっと追うように覗き込んでいると頭をぺしっと叩かれた。調子に乗り過ぎたみたいだ。
「それで、他のお二人は? 別でクエストとかを」
「いや、アイツらは血盟主に捕まって身動き取れなくなってる。会いたかったか?」
「はい……あ、いいえ。会いたいですけど、わがままを言うのも嫌なので。クエストで疲れてるでしょうし、レヴィさんが来てくれただけでも僕はうれしいです」
「そうか……」
と、何か逡巡をするような間があったが、目を細めて笑った。
「ならよかった」
 




