50 好きな街並み
エリルとこうやって外を歩くのは冒険者登録した次の日以来だっけ。
あの日は街並みを探検する目的でのんびり歩いてたんだけど、この国は本当に欧州のような写真で見たことがある光景がずっと続いていた。
僕が寝ていた間に門をくぐったのは覚えているから、門というのがあるから城壁で囲まれているのではないか、と予想していた。予想は当たっていて、ここは城塞国家? 城郭国家……城郭都市と言えばいいのだろうか。
僕の中ではこの城塞都市すべてが『デュアラル王国』だと思っていたのだけど、勉強会の中で貴族に与えられている領土がこの城壁外に多数存在してるみたい。
イメージとしては、この壁内はデュアラル王国の都市部で、壁外は郊外って感じかな。
ここらへんの話は馴染みのない難しい話だし、多分貴族関連にはお世話にならないだろうから頭の片隅に覚えておくくらいでいいでしょう。
そんな街だが、僕とエリルはこの景観を大変気に入っている。
歩くだけで幸せな気持ちになれるほどだ。本当にいつ見ても飽きない街づくり、作った人は天才なのではないか?
それに色んな人ともすれ違う。それもただの人ではなく、ペルシェトさんの種族のお仲間さんみたいな人達や、耳が長い森人さんもちらほら。
その二種族以外にも色んな種族の人が歩いていて、冒険者や、普通にここで暮らしている普段着の人もいる。店を経営しているのか、エプロン姿の人も見える。
そうして辺りをキョロキョロしながら歩いていると、あと数十メートル歩いたら寮があると言ったところで遠くに何人かで固まっている人たちが見えた。
「ん……?」
1、2……6人がまとまって動いてる……?
この一本道を歩いている時点で彼らの目的地は冒険者ギルドだと予想できる。服に統一性が無いのを見るに、彼らは多分冒険者だろう。
ようやく服や顔が見えるかどうか、の距離まで近づくと凄いことに気づいた。
「狼人族、猫人族、森人、それと……鉱人と人族、あとは、蜥蜴人族……!?」
え、6人全員の種族が違うんだけど。なに、バラエティパック?
それに……道が若干の緩やかな坂道になっているので分かりにくかったけど、僕より体格が少し大きいくらいだ。
(……僕と同じくらいなのに、あんなに堂々と道を歩けるって凄いな……)
同年代くらいの冒険者を見るのは初めてではないが、その人塊の先頭を歩いている明らかにリーダーみたいな雰囲気がある男に目が留まった。
一番前にいる狼人。肩で風を切って歩いてる……絡んだらダメで、めんどくさいタイプだ。
そう思っていると一瞬目が合ったような気がして、咄嗟に外す。
「うっわ、やばいかも……」
「ますたー、どうしたんですか?」
「いや、今こっちに来ている人たちが中々見ないパーティーの組み方をしているから、びっくりしただけ」
僕が言うと、エリルもあの人たちに目を向けて納得した。
「……確かに」
前から来ている人達に悟られないように注意を向けた。
前から二番目にいるのが猫人族。
ペルシェトさんを小さくしたって感じ。猫耳が生えていて、身軽な動きが得意な種族。
一番奥にいるのが森人で、耳が長いのが特徴だ。
ほかは……オーラがある感じっていうか……。魔法と弓を得意とする種族。エルフの国というか里があるみたい。
一番目立ってるけど体躯に可愛げがあるのが鉱人。
彼らは身長が低く、体格ががっしりしている。力が強く、手先が器用で鍛冶師や何かモノづくりをする方に長けている。多くは冒険者というか、その鍛冶師に就く人が多いらしい。
森人の前にいるのが蜥蜴人族。
尻尾が生えている。見た目は人に近いのだけど、トカゲに見られる特徴が体に出ることがあるって聞いた。舌も長かったりするのだとさ。
人族はもう大丈夫だろう。
あの集団の一番前にいるのが狼人族。
犬に似た耳が生えているのが何よりの特徴。気性が荒いことが大半みたいで、仲間意識が強く、仲間以外には結構厳しいみたいな話を聞いた。
そんな人たちがまとまって歩いているのだ。僕以外の人からも注目を浴びている。個性の塊みたいな集団がゾロゾロと道を歩いているのでかなり威圧感がある。
学校の知らない運動部の先輩たちが廊下の向こう側から歩いてきているって感じだ。
そろそろすれ違いそうになってサササと端に寄る。目を合わせると絡まれそうだったから、不自然に感じられないように視線を外して横を通り過ぎようとした。
隣で、複数の足音が通り過ぎるのを耳で確認していると――
「おい、そこの人」
やっぱり話しかけられた。




