47 魔法を撃ってみたいんです
本を読み進めていくと、簡単にだけど魔法のことが分かってきたような気がした。
魔法を使う際に色々と堅苦しい文章を読み上げるのは『詠唱文』と呼ばれるもので、『詠唱文』を読み上げることで、順序よく段階的に魔法を展開できる。
「ってことは……読むことで魔素に働きがけて「これから魔法撃つよ~、撃つ魔法は~」ということを懇切丁寧に説明している感じか」
魔導をいまいち理解していなくても詠唱文を読むことで、威力や、距離等は落ちるが発動はできるらしい。
「はあ~~……この詠唱文っていうのが、かなり肝になってきそうだな」
魔法使いというのは基本後衛で、重たい一撃を与える職業のようだし、詠唱文を読みあげる速度とかが結構響いたりするのかも……。見たことないからなんとも言えないけど。
魔導書を読んでいると、レヴィさんが『魔導というのを理解するのがとても難しいから、魔法使いというのは大きく実力が分かれている』と話をしてくれたのを思い出す。
「……ふむ、見えてきた」
極端な話、この魔導書に書かれている魔法を最高の状態で撃とうする時に必要になるのが、
1.発動する魔法にまつわる魔導への完璧な理解。
2.高い魔法攻撃能力。
3.完璧な魔素の伝達能力。
と三つ挙げられる。
だけど、魔導を完璧に理解しようとすることは科学を完璧に理解しようとすることに近い……。
「……こうなってくると魔法の『詠唱』がどれほどまでに魔導の理解を補ってくれているのかが気になるな」
知らない知識を補填するために、詠唱を行う……ってことだよな。
だったら、魔導というのを完璧に理解したら『詠唱』なんて要らないようになる。
あくまで補填という立ち位置だけど、それ以外の効果……例えば、威力増強、魔素の伝達効率向上などがあるのだったら話は変わってくるけど、そこまで多分解明されてない話なのかな。
「……試してみる? 魔導をどこまで理解していれば魔法が使えるとかも分からないんだもんな」
完璧でなくても魔法が撃てるという時点で、今の僕でも使える可能性はあるってことじゃないか?
そういうことなら、論より証拠だ。
一番最初に見えた魔法を挑戦してみようと思い、パラパラとページを捲っていくと、数ページ後に見つけた。
「無属性魔法、衝撃……?」
大きく名称が書かれ、その下からは数ページに渡り、衝撃の魔導が書かれていた。
「衝撃とは、この魔法の撃ち手周辺の空気を魔素で吸収、凝縮し、対象に放つ魔法で~……それ空気砲じゃね?――あ、まだ続いてた……。」
その十数ページの衝撃に関する知識を一通り見て、最後に書かれていた詠唱文を読んでみることにした。
どうせ撃てないだろうけど、今は好奇心の方が優っている。練り上げるとかそんなのは忘れさり、僕は目の前の興味に意識が持っていかれた。
魔導書を膝の上に置いて、左手を前方に突き出す。
「よし、やるぞ……!」
不安がありながらも魔導書の詠唱文に目を落として、詠唱を始めた。
「『我を取り巻く大気よ、魔素よ、集い収束し』――」
僕が詠唱をしだすと同時に、構えた手の前方に細い線で描かれたブレブレの円形が現れ、そこに反時計回りで文字が構築されて行った。
何かが出ているという感動の気持ちを抑え、最後の一文を読んだ。
「『目前の敵をうち伏せろ』――」
文字が完璧に円の中に詰め込まれ、ほのかに光った。
「――『衝撃』」
魔法名を言い終わると、うっすらと目の前の空気が動いた気がした。
次の瞬間、向こう側の壁に向かってすさまじい勢いで『衝撃』が飛んで行き、壁にあたると大きい音を立ててバラけ散り、壁の上を走っていく。
同時、僕の白い魔素がふわっと散って行った。
「……で……た?」
遊び半分ででるといいなぁ~と思っていたモノがしっかりと出た。
数秒間何が起きたのか分からなかった。
目の前で起きたことの現実感がなかった。
しかし、じわじわと湧き上がってくる「魔法を使えた」という喜び。
「えっ、本当に? 嘘じゃない? 夢じゃない? 夢だろ? さすがに、嘘か、夢か。夢……のはず」
頬をつねり、現実であることを確かめる。
「いふぁい(いたい)……」
さらにつねり、離した。
「いっ……たぁ」
痛いってことは……僕が……魔法を使えた……?
突き出していた自身の手のひらをみて、自分の手の平だと確認するようにまじまじと見た。
「……よし。よし! よしっ!!! やったー!!」
これだけで僕の好奇心は止まらなかった。
「出たってことは、さっき考えてたやつも試せれるかもしれないよな!」
僕は『詠唱』が魔法に与える恩恵を調べるために、詠唱有りと詠唱無しの効果を比べてみることにした。
再度、手を前方に突き出して大きく息を吸い込み、深呼吸。
体内にある魔素を集める感覚と、少し見て理解しただけの衝撃の魔導を頭で思い出す。
「っ……『衝撃』!!」
先ほどより明らかに早く、円形のモノが形作られ、一瞬で文字が構築された。
そこから、発射された衝撃。
「あれ、消えた?」
しかし、壁にまで飛んで行ったのですら確認できなかった。
目で捉えれないほど凝縮されていなかったのかもしれない。
それに、手の前に出てきた魔法陣みたいなのもボヤボヤと、形が詠唱有りよりも崩れていた気がする……。
「でも……出た……」
魔導を少ししか見てない状態だとしても、無詠唱でも魔法は一応出るらしい。
もう僕の頭の中には魔法への興味と探究心しか無かった。
開けていた手のひらをギュッと握った。
「これはまだまだ勉強が必要だな……!」
魔法の勉強をするという楽しみが増えた僕は、テンションが上がってきて一階の書庫に走って向かった。
もっと魔素についての知識、魔法についての知識を得るために本を読み漁ることにしたのだ。
魔導書を抱えて走りながら思った。
(そうだ、昼の休み時間と夜の訓練後に魔法の勉強をすることにしよう! たくさん勉強してレヴィさんを驚かせてやろう!)
あぁ、楽しみだ!
(どんな顔するかなぁ? 褒めてくれるかなぁ……!)




