43 ギルドでの日常②
今日の勉強も相変わらず、第二書庫の円卓で勉強をしている。
初めの方は二人とも教えてくれようとしていたけど、情報が二人から出てくるものだからゴチャゴチャしてしまった。なので、結局ペルシェトさんは丸さんのサポート、丸さんは僕に向けてホワイトボードを使って説明をするという形式に落ち着いた。
訓練が長引いたこともあって僕の頭はまだお休みしている状態なのだが、二人は仕事の時間をわざわざ割いて教えてくれているから、そんな素振りを見せては失礼だ。
僕は自分の頬をつねった。
「――上位魔族の大まかな分類というのが、魔法攻撃に長けている魔司者、物理攻撃に長けている武冠者の二つです。文献上でいうと種族によって異なるのですが吸血鬼や一部魔物の上位種も魔族に分類されてます」
「ドラゴンは魔族と言うより、古代種って分類だけど大まかに魔族でいいよ~。人に化けることが出来るらしいし。あ、ちなみに下位魔族には、魔司者や武冠者みたいな分類はないからね! その一部の魔物が分類された時も「下位魔族」って呼ばれる感じ~」
話しながら、器用にホワイトボード上に文字を書いていく。
「ばぁんぱいあ……は確か……血を吸うやつですよね?」
「うん、吸血鬼の中もまた種類があるんだけどね。元々、亜人種の枠組みの中にいたんだけど迫害されて、魔族側って定められたの」
「こちら側の仲間だったってことですか?」
「珍しい話じゃないんだけどね。このパターンの逆もあって、鬼人族と言われる種族は魔族側だと言われていたのに、鬼人族からの長期に渡る訴えかけもあって、今はこちら側になったらしいし」
「へぇ……。なるほどなるほど……」
味方だったのが敵になって、敵だったのが味方になったってことだよな……?
丸さんは当たり前のように話してくれたけど、目が覚めるような凄い内容だ。
言われた内容を覚えやすいようにノートにメモをしていった。
初日のことを思うと、丸さんはかなり砕けた言い回しをするようになった。
まだ堅さはあるけど、昼食の時に仲良くなったスタッフに聞いた「スタッフのリーダーとしての丸さんの様子」を聞く限り、これでもかなり肩の力を抜いて話をしてくれているということが分かった。
仕事中の丸さんは本当にTHE真面目な人らしい。
余計なことは言わず、かと言ってスタッフにキツイことをいうわけでもない。テキパキと仕事内容を伝えて、部下の失敗は部下の責任だと突っぱねずに、自らも加わってなぜ失敗したのかも考えて責任を負うことだってある。
みんな「理想の上司だ」とほめちぎっていた。
すると、鬼人族と吸血鬼の話を本の整理をしながら聞いていたペルシェトさんが、不満そうな声で話した。
「鬼さんたちもいい人ばっかりなんだけど、まだやっぱり差別的な視線を送る人らがいるんだよね! 特に人族と森人とか」
「? そうなんですか?」
ぼそっと呟いたペルシェトさんの言葉がすごく気になった。
普段は茶々入れたり、資料を整理したり、それこそ今やっていたように終わった本を棚に戻す作業をしてくれているのだけど、たまにこうやって知っておきたい話をポロッと言ってくれる。
突然食い気味になった僕を見て、驚いた表情をした。
「あれ!? クラディス君って人族だよね……?」
「そう……ですね、多分」
「だったら、私のこととか大丈夫な人……?」
「大丈夫な人……? っていうのがよくわかんないですけど、多分大丈夫です」
「私のこの耳とか、目の色とか……」
「可愛いらしい耳だし……きれいな青色……じゃないですか?」
耳をぴょこぴょこと動かして見せたり、よく見えるように目を大きくしてくれた。
それに対して見たままの感想を率直に口にすると、ペルシェトさんは吹き出した。
「ええぇ!? はははっはははっ。耳と目を褒められたの初めてだよ~!」
本を置いて、僕の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「ち、ちがうんですか!?」
「ちがくない~!」
より一層頭を撫でてきた。
な、なにが起きている? なんで、僕は頭を撫でられているんだ??
髪がぼさぼさになったまま丸さんの方をちらっと見ると、丸さんも笑った。
「クラディス君って本当に不思議な子ね」
「いや~!! 元々気に入ってたけど、もっと好きになったよ!」
バシバシと背中をたたかれて、うっと鈍い声が漏れた。
「あ~クラディス君みたいな人が増えたらいいんだけどね~」
「確かにね」
話についていけない状態のまま、ポカンとしていた。
「耳とか目とか……何の話なんですか……?」
「分かる時がどーせくるから、今は言わな~い」
僕の質問は笑って流されて、いつもの勉強会に戻っていった。




