40 情報整理といこう
それから数時間の勉強会を終え、満足気な丸さんに終始こき使われていたペルシェトさんはげっそりとした様子で仕事に戻って行った。それを見送り、僕は今からお昼休み。
この時間を使って、朝学んだことをざっくりとまとめていこうと思う。
このARCUS第四地区が魔王に本格的に支配されたのは何百年も昔の話で、その当時の文献はほとんど残っていない。だから何年に何体の魔王が出現し、領地を侵略したのかが明確に把握はできていない。
つまり何百年もの間、この地区の人達は人達同士での争いよりも魔物、魔族、魔王との領地の争いを繰り返していたのだ。
その争いの末、今現在は三体の魔王に支配されていて僕達がいる所は大きく四分割された南西――つまり左下に押しやられている。
その他を領地としているのは北西領土の魔王、破壊之王。
南東領土の魔王、再生之王。
北東領土の魔王、不屈之王という名前が付けられている。
不屈の王って仰々しい名前だ。
ここまではレヴィさん達から聞いた話と少し被る部分がある。
そして、歴史の話と一緒に種族の話も聞いた。
弓術や魔法に長けている森人。
緻密な作業が得意で力持ちな鉱人
猫人族、狼人族などの獣人族はステータスが平均的だが、その中でも身軽で探知系に優れている者が多い。
どの方向でも伸ばせるような器用貧乏が人族。
鬼人族と暗黒森の番人は剣闘士系に秀でている二種族。
後は、分血の森守人、分血の暗黒森人などの混血族。
耳が長かったり、肌が黒かったり、体躯が小さかったり、獣の耳が生えていたり……と外見的な特徴があるから無理に覚えなくてもそのうち自然と覚えていけれるだろう。
そして、勇者や賢者などの称号Ⅰを持っている人達のことを『称号Ⅰ持ち』と呼ぶらしい。歴史に名を刻んでいる英雄達の多くはこれに該当するんだと。
僕も『転生者』だから一応『称号Ⅰ持ち』なんだと思うけど、歴史に名前が残っている人達が『転生者』という話は出てこなかったから本当に情報がないみたいだ。
「――だいたいこんな感じかな」
「ますたーは勉強熱心ですね~」
机の上に置いてある本をパラパラと捲っていたら、隣に座って本を読むのに飽きた様子のエリルがうなだれながら声を出した。
机に顎を置いて「うううっぁあー」と声を出している様子は、今日ちょっとだけ学んだ魔物のゾンビみたいだ。
「勉強しないと、この世界のこと全くわからないままだと色々と大変だしね。エリルの方も勉強は進んでる? あっ、佳奈は――」
「ご存命です。ぼちぼちやってますよ。でも相変わらず……『転生者』の話は出てこないんですよねぇ~。今度観測者にも聞いてみようかなぁ」
「ゆっくりやっていけばいいよ。僕も訓練が始まったばかりだからね」
昼休みが休みだから、朝の勉強の復習に丁度いい。
夜の訓練ことも気にはなるけど……あのナグモさんだから、普通の訓練はしないと思う。
ランニングとか筋トレとかなら出来るが、果たしてどんな訓練をするのかな。
◆
「クラディス様、動きが訛ってますよ」
笑うナグモさんは僕の木刀の振り下ろしを避け、木刀が床に着いたところを蹴飛ばした。
「くっ!! まだまだ……行けます……!!」
右手にある木刀を両手持ちに切り替え、余裕な表情のナグモさんに斬りかかった――が、どの方向から斬りかかっても一向に当たらず、ただ空を切るだけだった。
「なんでっ! あたらないんですか!!」
「いや~最初よりかはいい動きですよ? なんででしょうかね?」
「絶対に当ててみせますよ……!」
「いい目ですね。今日の訓練はまだまだ出来ますから頑張りましょうね?」
微笑むその表情を少しでも変えさせてやりたい。その一心で木刀が入っている筒から一本取り出し、構えた。
夜の訓練というのは、僕の考えていた訓練よりも何十倍も過酷だった。
時間通りに訓練場へと行くと、七分丈の半袖と七分丈の黒ズボンを渡されて「訓練着です。さっき買ってきました」と言われた。
確かに今着ている服は運動出来る服装ではなかったので、お言葉に甘えて用意してもらった服を着ることに。
その後に「期間が短いので筋トレや運動は空き時間にやっておいてください」「訓練内容は『私に一撃を入れる』だけです」と言われて、戦闘スタイルは体型や僕の意見を取り入れて『二刀流』になった。
エルシアさんの戦い方がカッコよかったです、と言ったことで小刀をメインで使っていくことに。そもそも体型に合うのが小刀くらいしかなかったのだから、選択肢などなかったのだが。
そこからは簡単に構え方や剣闘士が使うスキルなどを簡単に聞いて、直ぐに訓練を始めて今に至る。
――カンッ。
「おっと、クラディス様訓練中に考え事してたら危ないですよっ」
「うぇっ!!?」
構えていた双剣の片方を真上に蹴りあげられ、その衝撃で木刀を持っていた右手側のスペースががら空きに。
「私が武器を持っていたら死んでますよ」
「……気を付けます」
「はい。次意識を別に向けていたら、遠慮なく蹴りますからね」
笑顔でその言葉を言うのだから恐ろしい。
ナグモさんはズボンのポケットに手を入れ、足運びだけで僕の攻撃をかわしている。そして、隙があれば先程のように僕の木刀を蹴り飛ばす。
僕に言った訓練の達成目標は「攻撃を当てる」だった。最初はそんな簡単そうなやつでいいのかと思っていたのだが――
「この様子では今日は終われないかもですね~」
全く当たる気がしない……!!
ハッハッハと高笑いをしながら油断していることをアピールしているが、実は目はこちらをしっかりととらえているし、当てられる気がないのがよく伝わってくる。
「終わらせますよ……!」




