32 料理当番②
考えながらも手を動かしていると、料理が出来上がった。
「お代わりとか用意できてないけど……いいだろう!」
料理ができたのでレヴィさんの方を振り返ると本をテーブルに置き、ウトウトとしていた。
疲れて眠たくなってきたのか……? あ、運転ずっとやってくれてたもんな……。
本来ならそのまま疲れを癒して欲しいけど、今は僕の料理を食べて欲しいから肩をポンポンと叩いた。
「レヴィさん、料理できましたよ。2人を呼んできてもらっていいですか?」
「ぁ……、あぁ。すまない。分かった呼んでこよう」
肩を叩いて起こすと、レヴィさんが眠たそうな表情のまま2階に行ってくれた。その間僕は最後の盛りつけをしておこう。
数分するとレヴィさんは2人を連れて降りてきてくれた。
「さてさて坊主の飯は……」
2人は僕の料理を見て一瞬ピタッと止まった。
(……? お気に召さないものでもあったかな……?)
「これはクラちゃんがつくったの?」
とエルシアさんが聞いてきてくれたので、
「は、はい。僕が作らせてもらいました。卵のスープと鹿肉を揚げて、タレをかけたものと、じゃがいもを潰して野菜とまぜたものです。」
と一つ一つ料理の説明をして行った。
油淋鶏と言ってしまうと伝わらないような気がして、調理方法に置き換えての説明だ。
するとムロさんが「いただきます」と言い、油淋鶏に手をつけてくれた。それを傍らのエルシアさんとレヴィさんは黙って見守っている。
一口食べるとそれを飲み込み、一言「上手い……」と言ってくれた。
その一言を聞くと、ほかの二人も食べてくれた。
「……おいしい、初めて食べる味……!」
「このタレ……見たことがないな……」
「その料理のタレなので作ってみました」
「作った!? タレを?」
「は、はい。母が作ってくれていたので、思い出しながら……」
「……ユシル村の料理か。見たことも食べたことないのは当たり前ってことだな」
何だかいいように解釈してくれたようで、3人は僕の料理を「美味しい」と言いながら綺麗に食べてくれた。料理を作った人からすればとても嬉しいことだ。
嫌いな食べ物とかはなかったみたいで、特にスープが美味しかったと言ってくれた。僕も卵のスープは大好きだから嬉しい。
◇◇◇
借り物の食器を洗ったり後始末をしていると、暖かいお茶を飲みながら話しかけてきた。
「後ろで料理をする様子を見ていたが、クラディスは村でも料理をしていたようだな」
「母に色々と教えてもらってました」
「めっちゃ美味かった。エルシアのより美味かったな?」
「んんん、複雑だけど私のより美味しかったわ……」
「……エルシアさんの料理は調味料に気を配ると美味しくなると思いますよ」
「ほんと? それだけで料理上手くなる……?」
「火加減とか、食事のバランスとかありますけど。そこを気をつけるだけで結構変わると思います」
遠回しに塩辛いことを伝えた。
「わかったわ……! 私もっと頑張る!」
やる気に燃えるエルシアさんを見て笑った。
この人たちとの冒険は、僕の心の闇を晴らしていってくれた。
転生したばかりのただの幼子だった僕を、拾って色々な話をしてくれて、クエストにも連れて行ってくれて、料理を褒めてくれる。
途中途中、昔を思い出して胸が苦しくなることはあったけど、その度にこの人たちが助けてくれた。
(これが、期間限定の冒険……って言うのが残念だな)
僕がステータスやスキルに振っていたらこの人たちと一緒に冒険ができていたのかな。だとしたら……悔しい。
「よし、坊主のうまい飯もくったことだし、今日はもう解散するか?」
ムロさんの提案に2人はうなずいた。僕もうなずいた。
……あと何日この人たちと一緒に冒険できるのかな。
強くなれたら連れていってくれるのかな。
僕の気持ちを他所に時間は進み、各自の自由時間へと移って行った。




