31 料理当番①
僕が当番に任命されたことで、本来なら当番だったエルシアさんが「私の番~!」と駄々をこね、それをムロさんが止めている横をレヴィさんに押されて1階に降りて行った。
少し奥に足を運ぶと広めな家庭科室のような部屋が見えた。
「共同の台所のようなものだな。ここで料理をするといい」
とても懐かしいこの雰囲気。
もちろん家庭科室では無いのだけど、テーブルがあってその上に加熱調理できるコンロみたいなのもある。手や野菜などを洗えるように流しも備え付けられている。
僕が確認するようにテーブルの周りをクルクル回っていたら、管理人みたいな人と話していたレヴィさんがこちらに何か持って歩いてきた。
「ほら、クラディス用のエプロンを借りてきたぞ」
「サイズ的にないかと思ってました。用意されてるんですね」
「村の宿に泊まるのは何も私たちのような大人だけの冒険者だけじゃない。子連れの冒険者やただの旅行客のような者達も泊まるからな」
「子連れの冒険者……って全然想像できないんですけど、いるんですね」
「私達が今そんな感じだからな。まぁ、とりあえずこの袋を渡しておく。食材が入っているから自由に使ってくれ」
「自由に……? いいんですか?」
「構わない」
そう言うと椅子に座って本を読み始めた。
え、説明はそれだけ……? ……あ、もう集中してる。
袋の説明を聞こうにも、先程までの雰囲気より柔和な雰囲気で勉強をしているレヴィさんの邪魔はしにくい……。
「逆さまにしても中身が出てくることもない……と、どういう感じで中に収納されているんだ? なんだコレ」
……ん、袋の中身って『鑑定』で分かったりしないかな?
中身を全部出して見るのは……衛生的に宜しくないと思うし、何より、このままイジってたら一気にドバッって出てきそうで怖い。
(やってみるか、『鑑定』)
▽名称:袋。空間魔法、温度調整魔法が刻印
▽効果1:内容量が18倍拡張されている。
▽効果2:外気に影響されず、中の温度を0から4度を保つ。
▽内容物:鹿肉:8つ/卵:11個――
内容物って言うのが食材ってことか。結構沢山入ってるな……。
『鑑定』で表示された食材の量を目で追っていき、何が作れそうか見ていった。
◇◇◇
「あ、結構しっかりと揃えられているんだな」
『鑑定』で見て行ってたら、中身は魚とか野菜とか、肉、卵……とりあえず沢山あった。
そして中に入っていた食材を一通り見ていくと、作りたいと思った料理がある。
自信はないけどどうにかしたら作れそうだし、最初はオムライスとか簡単で美味しいのを作ろうと思っていたけど、かなり品目があるんだから色々使ってみることにしよう。
「うん、よし。決めた」
今回僕が作るのはたまごスープと鹿肉で擬似的な油淋鶏、じゃがいもと野菜を使ってのポテトサラダだ。
料理開始だと意気込んで、手を洗ってエプロンを着た。
食器は食器棚のようなところに置いてあったし、調味料はこの部屋のテーブルの下の扉を開けると準備されていた。それにコンロが3つあるので、油淋鶏と卵スープを並行して出来そう。
(ほんと、家庭科室みたいだな】
もしかしたら、使用した後の掃除をする場所とか、掃除のチェックシートみたいなのもどこかにあるんじゃないか……?
昔を思い出してテンションが上がってきた。
僕が作ろうとしている料理は母が昔に作ってくれたことがある料理で、レシピとかは聞いたことは無い。だけど、なんとなく味を思い出して何が足らないかとかは分かると思う。
何より美味しいし、料理の工程が少なくて済む。
油淋鶏っていうのは本来鶏肉で作られる料理だけど、鹿肉で代用しよう。
鹿肉はヘルシーだからレヴィさんの口にも合うだろうし、ムロさんのお肉大好きな舌にも合うと思う。エルシアさんはちょっとわかんないけど……。
すると、そもそも鹿肉ってそんな食べたこともないし、調理もしたことが無いことに気が付いた。
……あ、ちょっと不安になってきたぞ。
既に切り分けられている肉がどの部位か分からなかったので『鑑定』を使いながら、もも肉を見つけ油淋鶏の料理手順を踏んで行った。
使うタレは生姜や白ネギ、ニンニク、酢と砂糖とかだっけ? まだ何かあった気がする……醤油? えぇっと、まぁ、感覚に任せてみよう。
次にポテトサラダを作ろうとしたが、マヨネーズが見当たらないので簡易的ではあるがマヨネーズ作りから始めた。
卵黄、酢、塩コショウ。オリーブオイル……はないか? サラダ油で代用できるかな……。
卵スープの方は順調だ。
椎茸と人参と玉ねぎを卵でとじる。味噌ではなく塩味のスープだ。椎茸がいい感じにぬめりを出してくれて美味しい。
「あ、段々と思い出してきた……!」
母さんが作ってくれた料理を思い出しながら、手を動かしていると料理の楽しさも思い出してきた。
懐かしいなぁ。母さんは佳奈に味見を求めて「甘すぎる」とか「辛すぎる」とかを基に、少し塩コショウを足したりしていたからなぁ……。
そう思いながら、スープの味見をしてみた。
「んー……まだ甘いか……?」
味の感想を求めようとレヴィさんの方を振り返ると、相変わらず真剣な顔で本を読んでる……。だけど、どこか心に余裕ができたような表情だ。
こちらの熱い視線に気づいてくれるかと思って、大袈裟に体を揺らして見るが一向に気づく気配がない。
……まぁ、いっか。せっかくだし、完成品を一口目に食べてもらおう。




