29 レヴィ先生の魔法教室①
ホワイトボグとの戦闘が終わり、僕は先に村への道を記憶を頼りに帰っていた。
時折吹く風に怯えながらもしっかりとスカートを抑えながら……。
これのおかげで下着がいかに大事かが分かったし、スカートを身につける女性の大変さがわかった。
「……それと、エルシアさんとムロさんがめっちゃ強いのも分かった」
エルシアさんとムロさんの戦闘の様子を思い出して、少し気が緩んだが、下着やスカートと恩人を比べるとは何たるか、と首を横に振った。
「強かったなぁ……二人とも。すごく強かった」
なんてさっきみた光景に耽るようにふわふわとする。
けれど、あんなに強い人達でもちゃんと寝て、起きて、寝ぐせを立てたりするのだと思って笑ってしまう。
当然といえば当然、でもなんだか不思議な気分で、同じ人間なんだ、と思える。
「ソフィスウルフを倒したときもムロさんはああいう風に蹴散らしてくれたのかな? 大剣で豪快にズバッと、こうやって、こうやって……。フンッ! こんな感じか!」
エルシアさんも一緒に風呂に入っている時と同一人物だとは思えないほどカッコよかった。小刀でズバズバズバズバっと……自分であの速さを制御出来てるのは凄かった!
思い返しながらムロさんとエルシアさんの真似をしてみると、すれ違う人に変な目で見られて、ゆっくりとスカートに手を戻す。
「……レヴィさんは、どんな戦いかたをするんだろう」
二人の戦闘を見て見たい欲が出てきた。いつか見せてくれたりしないかなぁ。
二人が二人とも飾らない言葉で「強い」と言ったレヴィさん。果たして、どんな技を見せてくれるのだろうか! と、興奮したまま帰ってるけど、戦闘時に少しだけ思ったことがある。
「あのホワイトボグが魔法を使って驚いてたけど……なんでだ?」
明らかに魔素が収束していたから、何かしようとしているのは一目瞭然のはず。
スキルなり魔法なり、魔素を消費して発動するものだから驚くことはないのでは。
(それは、ますたーがユニークスキルの『魔素理解』をもっているからですよ)
と、脳内で声が響いた。なんだかエリルの声が久しぶりに聞こえるな。
(エリル先生。お仕事お疲れ様です)
(ふふふ、もちもちですよもちもち!)
(もちもちぃ?)
(まぁ、相変わらず転生者関連の情報が見当たらないので全然捗ってないんですけど……)
あら、やっぱりないのか。
(まぁ無い物は仕方ないよ。ゆっくりしていけばいいし)
(ますたぁ――)
(佳奈は)
(あっ……妹さんですね。はい、まだご存命ですよ)
(よかった……その調子で教えてください)
粗方情報を交換をした後、ささっと話題を元に戻すことに。
(で、あの魔素は他の人には見えないってことになるの?)
(えっ、えっ、あっ、えぇ。その通りです! あれが見えるようになるには『魔素感知』っていうスキルが必要なのですよ!)
(『魔素理解』って、そんなことまでできるの……?)
(ユニークスキルをなめてもらっちゃ困りますよ! それに、『魔素理解』がパッシブスキルなので『魔素感知』を恒常的に発動ができてるんですよ。そして! 色とか形まで把握できるっていうのはますたーのスキルの特権なんです!)
(アレってそんなにすごいものなのなんだ)
相変わらず【ユニークスキルは凄い】らしい。
あの魔素の動きが分からないとなると……確かに魔法を使うか使わないかの有無の判断は難しいだろうなぁ。
(で、もちもちってなんなの?)
(そういうの聞くの、野暮ってもんですよ!)
(そう?)
(もちもちです!)
うわ、めんどくさい。
◆
色々考えながら帰っていると、すぐに宿泊している宿に着いたので部屋にまで歩いてドアをノックした。
「レヴィさんただいまです」
「……あぁ、空いているぞ」
扉を開けて、中に入ってみるとレヴィさんは何か小難しそうな分厚い本を窓際で読んでいた。
「あれ、1人か……?」
「はい、ホワイトボグを倒した証拠? か何かを取らないといけないって言ってて、先に帰れって言われたから先に帰ってきました」
「無事、登録をしたようだな」
「はい。って言っても二人が僕の代わりにテキパキとしてくれたんですけど」
敬礼しながら説明をしたが微笑みだけを返され、特には触れずに本に目を戻した。
「ホワイトボグ……ふむ、そうか。いい魔物の選択だな」
入り口付近では少し遠くて会話がしずらかったので近くに寄ろうとしたけど、座れそうな場所がないからオロオロしていたら「ベッドに座ってよいぞ」と言ってくれたので、すこし腰かけさせてもらった。
「その、いい選択っていうのはどういう……?」
「エルシアの戦い方は連撃を重ね、相手に傷を蓄積させて倒す。まぁ、被弾を避けながらになるから連撃も思うようにできないことがあるのだが。とにかく、ホワイトボグは素早くないが、皮膚が硬い。そこから導けると思うぞ」
「……素早くなく、硬い……。エルシアさんが戦いやすい敵だけど、倒しにくい敵ってことですか?」
僕の言葉を聞いて、レヴィさんは笑い「そういうことだ」と言ってくれた。
「使用スキルもパワーを底上げするくらいだったから、当たらなければ問題はないからな」
魔法を使う個体じゃなくて他のだったらあれ以上にパワーが上がるのか。
自分の頑丈な皮膚を破って骨が突き出したパンチ力より強い威力に……。想像するだけでゾワゾワとした恐怖を感じる。
 




