239 魔法剣士への道なりは遠い
アルマさんの衝撃告白から少し話が進み、この世界の文字に対して僕が最初から理解出来たのは『言語理解』が役に立っているのだと理解した。
エリルに聞くとフィルターのようなものがかかっていて、文字として理解した瞬間に頭が勝手にそれを翻訳して表示をしてくれているみたいだ。
言葉は統一してくれているというのに、書かれた文字は分かるようにしてくれないってかなり悪戯が過ぎると思うのだが……。
最初はアルマさんが魔族だからじゃないのか? って疑問が出たけど、アルマさんが使っていた黒い魔法陣に書かれている文字も理解していないということで、魔族だからではなくて『転生者』だからなんだと分かった。
そうして、時間を縫ってこの世界の言語から日本語へと翻訳をしていくことにした。
とりあえず言語の勉強をするのなら学校とかで使ってる資料が一番いいと思って、ギルドに行くまでの道のりで本屋さんでそれっぽいのを見つけて何冊か買っておいた。
ナグモさんに訓練の相手を頼んだから、翻訳するタイミングは早朝だな。訓練後に勉強を手伝うとして……。
早朝に翻訳、朝から夜までは自主訓練、夜からギルドが閉まるまでナグモさんと訓練、そして深夜にアルマさんの勉強会……か。
ハードだなぁ……。
いや、切り替えだ、切り替え。
自主訓練の時は目の前のことだけを考えよう。
「確か、こんな感じだったよな……」
ノアがやっていた、体から魔素を放出。それを線状にしてそこから魔法を発動するというもの。
魔素をあそこまで自由に動かせるってのは、今の僕にはできないことだ。
剣へと形状変化させたり、細く長い線へとかえ、膨張後に魔法を使う。
頭が足らない……頭が……焼き切れそうになる。
「はぁっ……っ」
仰向けに倒れ込むと、信じられないくらいの汗が吹き出てきた。
「ちかれた……むずかしすぎる……っ」
結局体から出ていったのは霧状になっている白いモノ。
線ですらなく、ただ空中に消えていっているだけのモノだ。ナニコレ。
だったら、あの時にできた『武器に魔法を纏わせること』はできるのか?
武器を取り出してみて、まとうイメージで……。
「……これも、できないか」
あの時はその場の勢いと感覚に全振りをしてやってみてできた。いや、できたという割には歪だった気がする。記憶が美化してるなこれ。
それでも、あの時よりも今の方がひどい。小刀に不器用に! 歪に! 不安定な状態に蠢いている薄緑色の魔法のようなモノ。
「なんじゃこれ〜……」
疲れるし、頭痛いし、孤独は寂しい。訓練場ってこんなに広かったけ。
あと寒い。空調なんてついてないだろうからなぁ、ここ。
「先は長い……。時間はある。時間はあるから……」
身体を起こして、もう一度、スゥと意識を集中させる。
周りが次々に新たなことに挑戦している中、自分の進捗がこの程度であることに焦りを覚える。
時間があると言い聞かせるしか、いまのぼくにはやれることがないのだ。
◇◇◇
そんな生活を続けて二週間程たった。
アルマさんは一人で外に出歩くのを禁止しているから、基本的に家でお留守番になっている。
外出禁止の理由は既に理解してくれたようで、渋々ではあるけど了承をしてくれている。
「発動までが遅い」
「っ……も、もう一回ッ!!」
そんな中、深夜に行われるナグモさんの訓練は熾烈を極めていた。
やっている内容としては物理攻撃の合間に発動する魔法攻撃という【魔法剣士】の基本的な戦闘スタイルを体に叩き込む訓練だ。
そしてナグモさんに聞いた話なのだが、付与術士の冒険者は今現在は存在しないらしい。
三つの適性を有する時点で「もしかして?」とは思っていたが、職業の認定試験も難しいことから『最強職』と言われているんだと言われた。それになりたいって言った時のナグモさんの嬉しそうな顔は今でも忘れられない。
このドS鬼教官が……。
あのクラディス様が、最強の職業になりたいと……! これは、頑張っておしえなければ!! あれをやってこれをやって〜……
表情から全部言いたいことが分かるんだよなぁ。分かったところで、あるのは地獄の訓練なんだけどさ。
「だから、遅い!!!!!」
「ぐぇ」
エンチャンターの戦闘スタイルは魔法剣士に似ていると言われているらしいので、それをやっているという感じ。
三つの職業よりも、先に二つの職業のことをやることから始めようってことだ。やれることを増やしていこう。
「並列処理をするんです。体を動かす、脳を働かせる、無詠唱でできるのは無詠唱で、でも極力威力を下げない、力を抜かない、魔法だけでなく剣闘士のスキルも、身体強化を切らさない」
以前は避けるので手一杯だったナグモさんの攻撃に『攻撃』『詠唱』『魔素を練る』っていう要素を要求される。
ハードルが高いってレベルじゃないぞ……。雲の上にある棒を乗り越えろって言われてるもんだ。トンチか?
「――ほら、身体強化が切れてる」
「イ”ッ”」
木刀の振り上げに気が付かずに顎にクリーンヒット。
頭から床へと落下しそうになった所で、発動しようとしていた攻撃魔法から単なる風魔法へと移行する。
「『風よ』……!」
「体を空中に留めるだけですか?」
そのまま横腹を蹴飛ばされ、床に体を擦らせながら壁にぶつかった。
「そのほかに、なにをしろ、って……」
「言葉を発する暇があるとでも?」
絶えず繰り広げられる連撃に、現状の把握を進めた。
魔素を絶えず消費するために体内での循環。ナグモさんの次の行動は、現状最適な魔法は、物理攻撃は、腕は動くか。次は次は次は────……。
「っ……!!? ゴホッゴホッ!!」
「あらあら、呼吸の仕方でも忘れましたか」
無意識下に行われているはずの呼吸さえ、その余力を戦闘に充てるほど集中をしていた。
そして距離を詰めてきたナグモさん目掛けて土壁を作り出して、壁際から脱するまでの時間稼ぎをしようとした。
――バラッ。
足元から作り上げられる『土壁』の速度よりも早く、足場を切り刻み、僕の方へと近寄って攻撃を仕掛けてくる。
「時間稼ぎさえ、できないのかよ」
壁際から動けない……!
背中は壁、引けない。どうしたらこの状況から……。
壁に沿う形で端から端まで移動し、角まで行くと高くジャンプをして壁に張り付いた。
「ふぅっ……! はぁっ……!!」
「息を整える暇もあるんですか?」
目の前まで高く飛んできたナグモさんが振った剣を受けると、一瞬競り合う形になったが、直ぐに力で強引に押された。
木剣で火花が散る。手のひらの肉刺が衝撃で潰れた。
「さ、復習です」
押された僕の体はナグモさんに回し蹴りをされ、壁から離れて地面へと真っ直ぐ落下していった。
落下する、どうする、何が出来る、復習と言ったか、復習? 以前同じような場面があったか、
――『体を起こすだけですか?』
「っあ、『風よ』……!!」
落下する体に風を当て、体を起こしながらもスライドさせてナグモさんから距離を取った。
「飛行とは違い、一時的に体を浮かすだけの風魔法。使い方によっては息を整える時間くらいは取れますよね」
ふわっと降りてきたナグモさんは木刀をクルクルと回しながら解説口調に喋っている。
「クラディス様に足りないのは、想像力、発想力、経験。基礎は私とティナちゃんが叩き込んだのもあって他の冒険者に比べるとあります。あとは、実践を重ねながらもスキルの使い方を学ぶことですね」
「……頑張ります……」
「頑張ってください。魔法と物理の間にあるインターバルを消すのが最優先ですかね〜、意識が偏ってるのが相手してて分かるので」
「どっちも中途半端になっちゃうんですよね……」
「練習しかないですね」
「はい……練習します」
「じゃあ練習しましょうか。はい、続きをしますよ」
その後も結局ギルドが閉まるまで訓練が続いた。




