21 ようやく見つけたヒソト草
「終わらなぁぁぁぁい!!」
手際よく地面に生えている葉っぱから伸びているステータスボードを仕分けながら、エリルが叫んだ。その言葉に冷や汗を垂らしながら、僕も作業に意識を集中させる。
最初はダメかと思っていたこのお遣いも『鑑定』というスキルのおかげで効率が何十倍にも上がっていた。
とはいえ、すぐにヒソト草が見つかってお遣い完了! とはいかなかった。
あれから、エリルの説明を受けて疲れた頭を休めるために休憩をしていた。
「さ、ますたー! 休憩は終わりです! 早速手に入れた『鑑定』を使ってヒソト草を見つけましょう!」
隣のエリルがぴょんっと跳ねて目の前にシュタっと仁王立ちした。
彼女はいつも元気だ。うん。快活快活。
「スキルを使ってって言われても……どうやって? 毎回、あの念じるとかをするの?」
「え? あ! いえいえ。もうますたーはスキルを会得しているので、原理はもう魔素が記憶しているんですよ。なので、『鑑定』を使えば一発で済みます!」
「一発で? ……とりあえずやってみるけど」
スキルの使い方ってユニークスキルを使った時みたいに頭で念じたらいいのかな? 声に出さないといけないとかないよね?
よし、初めてのスキル! 来い! 『鑑定』!!
初めてスキルを使うということで力を込めて念じたてみた。
――ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ……。
「え!?」
「わっ! ますたー!! 出しすぎです! 魔素量!! 抑えて!」
「魔素量抑えるたって! 初めてなんだけど……!」
力強く念じたことで、僕の中の魔素の量を間違えてしまったようだ。
視界いっぱいに葉っぱや木の枝、小石のボードが表示。情報過多でボードが重なりよく見えない状況だ。
「抑えるって……こうか!?」
自分の息を吸い込む感覚でやってみたら、見事に表示される数が減り自分の周りだけに限定された。
「……焦ったあ」
「私もびっくりしました。ますたーとリンクさせているので私の視界にも共有されて、ちょっと酔っちゃいました……」
まだ、魔素とかなんとかいうやつの扱い方が分からないから力加減が難しい……。
でも、これは大変便利なものだ。
念じてみるとボードがちゃんと見える位置にまで近くに寄ってきてくれるし、場所も吹き出しのような小さい線でつながっているから一々探さなくていい。
「『鑑定』……いいスキルだね」
近くのボードを持って呟いた。
それが数分前。あの時は魅力的なスキルだと思ったのだが……うーん。
「うがー! ほんとにあるんですか!? 実在しない草なんじゃ」
それでも見つからない。
ヒソト草、おそるべし。
「……エリルってヒソト草のこと知らないの?」
「む! 私、まだ、勉強中!! 前に言いましたよ! そんなこと言うならますたーが一人で探せばよろしいじゃないですか!」
「ごめんごめん。一緒に探してくれて感謝してるよ。感謝します」
「ふん! どーだか!」
ぷいとそっぽを向いたエリルを見て、苦笑いを浮かべながら仕分けを続ける。
もう最初にあった集中力なんか切れてしまっている。ヒソト草の「ヒ」の文字を必死に探し回っているのも億劫になってきた。
「だけど、薬草集めもろくに出来ないんだから……妹を探しにいくなんて夢のまた向こうだったな」
こうして現実に直面すると、いかに無力なのかを思い知らされる。
「あぁ、世知辛い」
その後もボードを選別しながら歩いていると、10mほど離れているところにいるエリルが石を手にして立ち尽くしてるのが視界に入った。
ぶんっ。
「あら、投げた」
よっぽど疲れちゃってるな。
「……お、目が合った」
僕の視線に気づいたエリルはこちらに走ってきて僕の目の前で止まった。
「無いので!! 私もっと離れて探してみます!!」
「うん。僕はここら辺にいるから、何かあったら言ってね」
無難な言葉を返したつもり。だけど、エリルは思いついたように意味ありげな笑みを浮かべて遠くまで走っていき、その近くにあった岩陰にサササっと隠れた。
何してるんだ……?
(スゥ……ますたー!!!!)
「うわっ!!!!?」
頭の中にエリルの声が大音量で響き、頭がくらくらとした。
直前に息を吸い込む音も聞こえたぞ、確信犯だ。
(アハハハハハ。ますたーと私はリンクしていますので、このように離れていても念話で会話ができるんですよ!)
(ねんわ……念話ね。うん……わかった。じゃあそれで報告をしよう)
(えっ、ますたー驚かないんですか?)
キーーンとする頭を押さえながら、念話を離せれるという普段なら驚くべきポイントをスルー。それが不満らしい。
その声色に少し顔が引きつったけど……僕は手伝ってもらっている身だ、大音量の叫びは目を瞑ろう。
(もう念話とか便利だね~としか思えないよ)
(えーーー……そうですか。ビックリしてくれるかと思ったんですけど……。まぁ! では、行ってきますね!)
「はいはい。念話、か。だったら遠出してみてもいいのかも」
僕もちょっと場所を大きく変えてみるか、川とかあるみたいだし。
◇◇◇
「ヒソト……ヒソト……ヒソヒソ……と、トソヒ……ヒソヒソ草。あれっ、何草だっけ」
このままコレを繰り返していると頭がおかしくなってしまいそうだ。
少し歩いたら河川部にたどり着いた。
魔物がいないかをしっかりと確認して河川敷の方まで下りて行く。
「え、わ、うわ、水めっちゃ綺麗」
上流から下流へと流れている川。透明という訳ではないが、少なくとも地元の近くに流れていた川よりも綺麗なのは確実。
水面に反射する自分の顔。うん、ふむ、なるほど。
「髪の色も、目の色も、ぜーんぶ。これが僕だって実感ないなぁ」
ただの再確認の独り言。
反射している自分の顔をぼんやり見つめていると、やはり目立つ眼帯に少し触れてみた。
小さい体に眼帯。それも髪の色と反対の色をしているから……凄く目立つな。
眼帯をずらし、紫色の瞳を見てみると赤系統が強いとか青系統が強いとか偏りが無く綺麗な紫色。
治癒士、魔導士、剣闘士の素質……があるっていってたっけ。目の色で人が何に秀でているのかが分かるんだっけ。
(僕は将来何になるのだろう?)
武器で魔物と戦うか、魔法で戦うのか、それとも傷を癒すのか。紫と黒色の瞳だからどれでも選択できるってことになるんだよな。
――ピッ。
「え? ボードが……」
▽名称:東魔女ノ眼帯
▽効果:治癒魔法を主とする者の魔素消費時の魔素消費量75%減、魔素放出60%減
眼帯に『鑑定』が反応したみたいだ。
「治癒魔法を主とする……ってことは、主としてないけど僕は該当するのかな。魔素放出が下がるけど、魔素消費がそれより抑えれれるってことか」
これは凄いのか? 高価なものだって言ってた気はするけど。
魔素放出を50%増だったら、すさまじいモノになりそうだけど――って、これは命の恩人からの貰い物だ。それに便利や不便とかを考えるのはダメダメ、何考えてるんだ。
「って、一人で何してるんだか。ヒソト草を探してる途中だってのに」
(――ありましたよ!! ますたー! ヒソト! やっと!!)
「うわぁっ!!!?」
(うわぁぁっ!!?? びっくりした!!)
腰を上げてお遣いを再開しようとしたところに、エリルの念話が飛び込んできた。
(びっくりした……、エリルどうしたの?)
(こちらのセリフですよ! 突然大きな声で驚くんですから、もう)
(え、直接声を出しても聞こえるの?)
(念話中は頭の中の会話でも声を出してもらっても聞こえます! 話す対象が私であれば、どれでも聞こえるようになります!)
(あぁ……なんだ……そっか)
独り言が聞かれていたのかと思ったけど、そうでもないみたいだ。ちょっと安心した。
(って! そんなの良いんですよ! ますたー! ヒトソ草がありました! 私がいるところです!!)
(……ん、あれ? ヒトソ草だっけ?)
(あれ……あ、ヒソト草でした。いや、とにかく見つけたので来てください!)
(ははは、わかった。そっち向かうね)
エリルもヒソト草のことを探しすぎて、混乱しているのか。
僕みたいに「ヒソトヒソト」って繰り返してたに違いない。うん、きっとそうだ。
僕は笑いながら自分が来た道を戻って、エリルのいる場所まで小走りで向かっていった。
◇◇◇
「はい! ヒソト草です!!」
「おー!! 念願の!」
エリルがいたのは大きな岩の影になっている所。
最初にいた場所から視認できていた岩だったが、やたら大きな岩だなぁ、と思って放置していた。
「ますたー、この岩鑑定してみてください! なるほど! と思いますよ!」
「なるほどと思うってことは、もしかして――」
▽名称:ヒソト
▽詳細:治癒効果のある魔素を帯びた岩石。周辺に生える草はヒソトから微量に漏れ出す治癒の魔素を土壌が吸収し、それを受け治癒効果の魔素をもって生えることが多い。
▽効果:状態異常の進行を止め、和らげる
「ははん……そういうことね」
「へへ、やっぱりそう思いますよね! 道端に生えている草が治癒効果を持っているのかな? と思っていたんですけど、こういうことなら納得できます。見つからないわけですよ!!」
エリルがヒソトをパンパンと叩くと魔素? みたいのが少し衝撃で漏れ出している。あれが治癒効果がある魔素ってことかな?
「それにしても、僕が借りたこの本にはこんなこと書いてなかったんだけど、何で書いてないんだろう」
「この岩の大きさが小さかったりして、分からなかったりしたとか、それか元々ヒソトがあったけど壊れちゃって、土壌がそれを吸収してたから生えてたりとか……?」
「それか、レヴィさんの本が古くてその情報がまだ知られてないとかかもしれないね」
あれじゃないこれじゃない、と一通り話すと、エリルを労いながら一緒にヒソト草の採集を始めた。
念願のヒソト草、本当に葉の先端がわかりやすく青色になっている。茎は長いかと言われると長いような気がするくらい。
特徴は捉えてたんだなぁ。でも、分かりにくいのは変わりない。
 




