20 スキル『鑑定』
『鑑定』……って、あの『鑑定』? 物の価値をみたりするやつ」
「ですです。これでますたーの武器一つ目ゲットですね!」
「……?」
鑑定で戦うことなんてできないよな。鑑定を投げる――のくだりはもういいか。
自分の武器が分からずに僕は地面に正座したままで、エリル先生の言葉を待った。
「ますたーはこの世界についてほとんど知らないですもんね。色々と話をしたいですけど、まず事前情報として『魔素』のことを話した方がいいかな……」
「あっ、それは助かる。魔素開放とか何もできなかったから気になってたんだ」
「そう、か、そうだな。よし! 先ほど、魔素系のユニークスキルはお高いと言いましたし、魔素の重要性の説明から行きましょうか――」
解説をしながら、先程の『シビ草』のステータスボードをぐいと引っ張って、手の平の上でくるくると回した。
「この世界のモノは全て魔素と言われるものが通っています! ますたーにも、葉っぱにも……そしてこの【ステータスボード】にも。というのも、魔素はその物の情報を記録する働きがあってですねー……この【ステータスボード】の上に書かれている文字や数字も魔素が記録している情報が記されてるだけなんです」
全てのモノに魔素が通っているってことは……この服にも、石にも?
ジロジロと見ていると、エリルがわざとらしくコホンと咳ばらいをしたから姿勢をピシッと正した。
「そんな記録をしてくれている魔素ですが、実はこの世界において生命エネルギーと並ぶ『第二のエネルギー』なのです。これを使うとスキルが使えたり、体を強化したりができます。ゲームで言うと、MPみたいな感じですね。魔素っていうのがどれだけ重要なものかご理解していただけましたか?」
「はい、先生。魔素を使うと特殊な力を使えるようになるんですね」
「よろしい! ならば、その魔素を理解し、操るユニークスキルの重要性は分かりますか?」
「分かりません」
「素直でよろしい!」
がっかりされるかと思うと、エリルの先生魂に火が付いたみたいでメラメラと目の中が燃えているように見える。
「先ほどますたーは『鑑定』を会得しました。これは、自分以外の人や物のステータスボードを参照するという貴重なスキルです。そんなスキルをますたーは何故、会得できたのでしょうか?」
問題形式、まるで授業を受けてるみたいだ。
「ええっ……と、ステータスボードは魔素でできている……から――」
話しながら僕のステータスボードのユニークスキル欄を見て。
「ステータスボードを見たいモノの魔素を『魔素理解』で理解して、『魔素操作』でステータスボードを強制的に表示させた……とか」
「ぴんぽんぴんぽーん! おおぴんぽんです! まさか正解されるとは思ってませんでしたが、そうです! 『魔素理解』と『魔素操作』で意図的に『鑑定』の仕組みを体に教え込み、成功させることでスキルへとなりました」
なるほど。なんとなく頭が追い付いてきた。
ユニークスキル欄に「魔素理解」や「魔素操作」などの文言があるというのに、現状魔素のことを何も知らないし、操作すらできないところを見るに。
〇〇理解――それを理解しやすくなる。
〇〇操作――それを操作しやすくなる。
ということなのだろう。
魔素操作、魔素理解、魔導理解、早期習熟、言語理解。これらのユニークスキルはおそらく、何か学ぶ際の補助になってくれるというもの。
魔素が全てに通っている、僕にも通っている。それを理解するのは大事で重要なことだ。それに操作するというのは実体のないエネルギーとやらを直感的に扱うのに役に立つのでは……。
スロースターターだった脳みそが出した憶測だが、多分、これだ。
「――僕のユニークスキルを使えば、スキルを覚えやすくなる?」
手に顎を置いて、チラと上目でエリルを見ると何とも嬉しそうな顔をしていた。
「大正解です! 理解や操作系ユニークスキルでスキルを会得しやすくなっている状態ですね。ちなみに、努力次第ではどんなスキルでも会得することができます。では、そんなますたーの武器はなんでしょうか?」
「努力次第でスキルが……だから、成長性とか、伸びしろ……?」
って自分でいうのは恥ずかしいものだが。
「またまた正解。ますたーの武器はこれから伸びるという可能性です。といっても他の人よりも多く努力をしなければならないですけどね。ですが! 断言できるのは、誰よりも伸びしろがある、ということです」
そう言いながらエリルが手を上にぐぐと伸ばしてタケノコのポーズをしたので、僕もタケノコのポーズをして一緒にユラユラと揺れた。
成長性。こんな危なっかしい世界に最弱な状態で放り込まれた僕の唯一の武器。
手を開いて、閉じた。
今は弱くても、強くなることができる。その事実だけで嬉しさが込み上げてくる。
「さ! この魅力的なスキルでヒソト草の採集クエストなんかちゃちゃっと終わらせちゃいましょう!」
「オー!」
 




