190 殺気の正体は
『ヴォォォオオォォォッ!!!』
『グルルルルルッ……』
他の冒険者たちがいる場所よりも少し奥で、彼等が遭遇した魔物はオークだった。
対面しては勝てないと判断した剣闘士の少年は踵を返したが、状況の判断を誤って攻撃を仕掛けた魔導士がオークの蹴りをまともに受け、戦闘不能に。
そして、その動けなくなった少年を背負って走った先にいたのはウルフの群れ。
彼らは、完全に他の人達からはぐれてしまっている状態で、魔物に囲まれていたのだ。
「はぁはぁ……っ、早く! 走れ!!」
「うっ……ぅ」
「回復はできないのか!」
「走りながら出来るわけないでしょ! ハルこそ何とかしてよ!」
「オークに勝てるわけないだろ……! 無理だ!」
パーティーのリーダーである剣闘士の少年が選んだ選択は、動きが遅いオークの方向へと走ることだった。それはつまり、さらに森の奥へと進むことを意味していた。
後方から魔物がこちらを襲おうと走る音が聞こえてくる状態で、治癒士と共に走って行き着いた先……。
「不味い……行き止まりだ」
「はぁっ!? 何も考えずに走ってたの!?」
「仕方ないだろ! こんな奥深くまで来たことがないんだ! 地形なんか分かるわけ……」
魔物達から逃げることで必死になっていた三人がたどり着いたのは断崖絶壁の麓であった。
後ろから近付いてくる狼とオークの足音。少年は唇を噛んで武器を手に取った。
「俺が時間を稼ぐから……その間に回復をしろ」
「時間を稼ぐたって……一人で戦うのは」
「いいから! 早くやれ!!」
ガサガサと音がなり、森の中から顔を覗かせた魔物達。
『グルルルルルッ』と狼が鳴き、オークの口からはボタボタと涎が滴る。
その姿を見ると少年は無謀にも剣を片手に走り出した。
「俺らを食うつもりか……? させねぇよ――ッ!!!」
近付いてきた矮小な冒険者に対して、五匹の狼は飛びかかった。
一匹を貫き、剣を抜こうとする少年へと残りの四匹が襲いかかった。その重みに股を開くことで分散して耐え、力任せに振るい落とした。
「舐めんな!!」
そして、オークの顔面へと剣を伸ばした。
――スカッ。
踏み込みが甘く、オークの頑丈の筋肉にすら届かず上の皮膚を削るだけの剣。
「なっ」
『グガァッ!』
「ぐぇっ――」
攻撃をスカした少年へと襲いかかる狼は少年の防具が付いていない肩や太腿へと噛み付き、皮膚を裂き、肉を抉った。
「なっああぁぁぁっ!!!??」
「ハル!」
「やめっ、あ。あぁ!!」
「ハルから……離れろ!!!」
パーティーメンバーの肉を貪る狼を持っていた杖を振り回すことで追い払おうとしたが、それで追い払えるのなら冒険者稼業は大盛況になっているだろう。
自分たちを退かそうと覇気の無い攻撃をしてくる少女に狼は吠えた。
「っ……な、なにさ! ちっとも怖くなんか――」
『ヴォォアアァッ!!』
「怖く、なんか……」
その怯える少女に畳み掛けるように、大きな影が覆った。
背後から感じた重々しい足音。背中に落ちる液体のようなもの──振り返る気力すら出てこず、恐怖のあまり失禁をしてしまう。
「やだ……やだよ……ハル……、トゥア……」
涙を流す少女にオークのフルスイングがヒットし、絶壁まで今まで体感のした事の無い速度で体が飛んで行った。
――ドンッ。
◇◇◇
「……ごめん。間に合わなかった」
オークの一撃で少女の体が壁にぶつかりそうになっているのを、ギリギリのところで体を滑り込ませてぶつかるのを防いだ。
なんで、彼らはこんな奥に来て……。
「ウルフに襲われるならもう少し浅い所にいたらいいのにね」
「あるじ! 大丈夫ですか」
「ちょっと背中打っただけ。大丈夫」
「オークに倒される身の丈なら、引きこもっておけばよいものを」
「言い過ぎ。僕だって前まで倒せなかったんだからさ」
魔物を倒してくれた2人はこの3人に対してキツイ言葉を投げつけた。だけど、もっともだ。
これが大規模クエストじゃなかったら間違いなく死んでただろう。
「早く森の外に連れて行こう。僕が下手に魔法をかけると悪化させちゃうかもしれないし」
「おぶる?」
「うん、そっちの方が運びやすい……」
3人を1人ずつ背負って、来た道を帰ろうとすると微量な魔素反応が『魔素感知』の外から確認できた。
「二人とも、ちょっと……」
大きい……。魔素を発してる個体は外にいるのに、その一部が感知に引っかかったように思える。
位置的には遠く、僕達の他の冒険者が戦っているのかな……? 僕らの担当する冒険者はこの子達で全員だし、担当場所ではないから……。
そう思っていると、その魔素反応の他に異質なモノが薄く感じられた。
「……殺気ですね」
「同じ位置……遠いけど、多分魔素の反応と同じだ」
「魔物……いや、人。それもこちらに向けられてますね」
「これだけ離れてるのに殺気を当ててくる……か、何かの勘違いだと思いたいけど」
――次の瞬間、三人の足元と頭上に大きな魔法陣が展開された。
「げっ」
「二人は動かないで。護るよ」
ケトスが上方向に向かって今まで見たことの無い複雑な魔法陣を展開し、ボソッと魔法名を呟くと相殺されて消えていった。
その隙にその範囲から飛び出ることが出来た。
「下の魔法陣は……移動速度減少……」
「誤差程度だったけど、少しでも上の魔法から逃げれないようにしたんだろうね」
「やる気満々ってことか……この場所にピンポイントで魔法を打てて、移動速度減少までするのは「魔物と間違えましたー」ってことじゃないんだろうなぁ」
どこか緊張感がないように感じられる会話をするが、僕はさっき感じた魔素と同じ魔素を放つ人を知っている。
「類は友を呼ぶ」もしくは「朱に交われば赤くなる」だな。
性格が悪いだけでなく、性根まで腐っているとは思っていなかった。
それに彼だけではなく、その周りにいる人達も同じだったとは。
「……ベルトゥア、手加減したわけじゃねぇんだろうな?」
「手加減などするわけがないだろう」
「そーね、あなたは真面目だもんね」
「あまりコイツらに時間をかける余裕はないぞ、スケア」
「ははは、そんなこと言わなくても言いじゃん。せっかく何度か会った仲なんだからサ」
「蜥蜴人は前もあったって言ってたもんな」
声が聞こえてきて、ため息を吐きながら声をかえす。
「……僕は、あなたたちのことを常識人だと思ってましたよ」
「そうか、なら残念だったな」
案の定、森の奥から顔を覗かせたのは、狼人率いる他種族パーティーだった。
誕生日を迎えて、友達の家ではしゃいでいたらぶっ倒れました。
すみません。




