184 そうじ、やりますか
ゆっくりと話をしていくと、丸さんの表情が少し硬くなったような気がした。
「そのまま無事に終わったらよかったのに。つい先日、クラディス君達が襲われたのよね」
重々しく呟いた。やっぱり、その話は絶対されるよな。
アンもようやく参加できる話題だと感じたのか、僕の横でゴソゴソと姿勢を正した。
「本題になるんだけど。以前、クラディス君達のことを襲った血盟に関してはあれ以降の進展はなくて、こちら側の訴えにも黙秘を続けているの。まぁ、毎度おなじみのフーシェンの手口というか……」
「あいつら――じゃなくて、あの冒険者達は得意だよねぇ、そういうの」
「悪い事をするのに慣れてますからね、揺さぶりにも動じないのはさすがだと思います」
「褒めてるんですか、それ」
「半々ですかね」
そんなに常習犯なのか。
まぁ、転移から襲撃の一連の動きは熟れてたもんな。
「直接な証拠がない以上、あまりこちら側も強気に出ることができないの。下手に出たら、今度はクラディス君が悪役に仕立て上げられるかもしれないし」
「証拠……ですか? 襲われたって証言とかじゃ……」
僕の言葉を聞くとペルシェトさんが手を横に振った。無理無理、というジェスチャー。
「少し、まとめましょうか。ナグモはフーシェンの血盟員だということを確認したんでしょ?」
「えぇ。それと、ロバート公が絡んでいることも二人の証言で確認しました。あとは捕まえた何人かに情報を吐かせたりもしましたが、具体的な話は聞かされてない人ばかりでしたねー。そこらへんの話は既に通達した通りです」
ナグモさんがソファにもたれながら、不服そうに話す。
「その際、法に触ることはやってないのよね?」
「触ってはないですね。殴り掛かりはしました。もしかしたら当たってるかもしれませんケド」
あの後の話を聞かされてないから、僕も何をしたのかって気になってはいたけど……。
僕の目線に気づくと、にこにこと笑って小さく手を振ってきた。
怖いから聞くのやめといた方がいいな。知らぬが仏とか何とかって言うし。
「ロバート……ねぇ。二大貴族の一つがバックにいるとなるとね~。こっちが血盟と貴族の関係性に気付いたことを、向こうは絶対に気付いているもんね」
ペルシェトさんも、やれやれといった様子。
「あのぉ……話を聞いていると、僕って結構大変な状況な気がするんですけど」
「あはは、大変ってもんじゃないよお~」
「大変ってモノじゃないわ! 最大級の血盟と二大貴族が相手になると、何をされるか……」
「大丈夫だ。わたしが護る。安心しろ」
ペルシェトさんと丸さんの言葉を締めるような、ピシッとした一言。
やだ、僕のお仲間さんかっこよすぎる。
ペルシェトさんとナグモさんが思わず笑ってしまいそうになったのが見えた。必死に堪え、場の雰囲気を崩さないようにお茶を飲んで誤魔化してる。
どや顔のアンの方に丸さんは目を向け、だとしても、と不安そう。
「まぁまぁ、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。ここは、中立組織ですから、ね? ルース」
「まぁ……そうだけど。……そうね」
ナグモさんの言葉で姿勢を正し、持ってきていた書類の束から一枚だけ取り出して僕の目の前に置いた。
見ろ、ってことかな。
手に持って見てみるとそれは――『ギルド管轄宿舎の契約』と書かれている書類。
「……これって、もしかして」
「うん。ここデュアラル王国の西部の冒険者組合は、クラディス君に特例としてギルドの寮の使用を許可したってこと」
あの一件のことで、ギルドは僕を管轄内に置いて保護をすることに決めてくれたらしい。
今日、僕が呼びだされた理由は「宿舎を継続して使用するか否か」という話をするためだったみたいだ。
それは僕としても断る必要が無いモノだったので、二つ返事で承諾。
そこからさらに話を進めていくと、ギルドの出入りはこれから先も許してもらえた。治癒士の勉強やナグモさんとの訓練も、引き続きできるらしい。
でも、サービス残業に扱いになるからそこら辺の話はまた改めてしましょう、と解散をした。
◆
今日からは家賃を払うのが僕へと変更され、アンが加わったことで大きな部屋に移動することになった。
案内されたのは僕の部屋の一階下。以前ティナ先生が使っていたらしい。
個室が三つに増え、ダイニングキッチンと居間が繋がっているのは前と一緒だけど、サイズ感がどれも一回り大きくなった。通路ですらも少し広がった気がする。
「荷物、これで全部でした」
「ご苦労様。じゃあ座ってゆっくり休んでて、僕はナグモさんに部屋をチェックしてもらってくるから」
ここら辺は元の世界でも同じ。
大家さんではなくてギルドのスタッフがするっていうのが、なんともこの世界らしい。
クリップボードのようなモノを持って細かい所までチェックしてもらうと、「部屋を貸した時より綺麗になってるから言うことは無いです」とOKをもらい、退去と入居がスムーズに終わった。
よし、じゃあ完全に引っ越しをする前に軽く掃除を――と、思ってたんだけど。
「なーんで、先生の私物っぽいのが目に入るのかな……?」
共同部分や個室の一部屋に明らかに備え付けじゃないモノが見える。
先生って賃貸借の契約を解除せずに帰ったのか? 私物とか、色々残ってるってことはそういうことだよな。
「そうじ、やりますか」
いつの間にか割烹着に着替えていたアンがふんっと鼻を鳴らした。やる気満々のご様子。
手には掃除道具が握られている。どこから持ってきたのそれ。
「うん……今日の朝もやったのにね」
どのみちやる予定だったからいいんだけどさ。掃除も嫌いじゃないし。
だけど先生が片づけてないモノを掃除するって、なんか複雑。
アンが持ってきた掃除道具の分けてもらい、僕も割烹着に着替えて掃除をすることにした。




